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妄想小説

牝豚狩り



第二章 半年前

  その6


 良子が服を着せられてから最初にさせられた仕事は、男が用意した台本の台詞をマイクを通して録音することだった。最初に台詞を書いた紙切れを見せられ、それを何度も自然に聞こえるように練習させられた。
 紙に乱暴な字で書かれた台詞はこんなものだった。
 「あ、美咲。良子です。急用ができちゃって、暫くこっちを離れることになってしまったの。あ、もう切らなくちゃ。また連絡する。」
 それに(出来るだけ早口で)という注意書きが添えられている。

 台詞の意図はすぐに判った。急に居なくなった良子のことを捜索させない為なのだろう。出来るだけ早口でというのは相手に質問をさせる間を与えないためのものだ。それを録音させるということは、直接電話に出させると、助けを求めるようなことを口走るのを防ぐのだろう。
 良子は男の用意周到さには適わないと思った。男は(拒否して痛い目を見るのは嫌だろう)と、逆らえば拷問も辞さないことを仄めかしていた。捕えられた今の状態では、電話を拒否したところで大した役には立たないことぐらい、よく理解していた。

 自然に聞こえるようになるまで、何度も練習させられ、録音も何度もし直しをさせられた。携帯は奪われて、中身を全て調べられているらしかった。そこから、美咲が同僚であり、一番親しくしていることも探り出したようだった。

 美咲への電話は他の部屋で行われたようだった。良子が傍で何らかの合図を送るのを恐れたためだろう。その通信模様は、その後で録音されたものを聞かされた。

 (・・・あ、良子ね。どうしたの。)
 (あ、美咲。良子です。急用ができちゃって、暫くこっちを離れることになってしまったの。あ、もう切らなくちゃ。また連絡する。)
 (えっ、そうなの。)
 (ツー・・・)

 実に自然な流れだった。美咲はおそらく迎えの車か、電車が来たかで切ったと思っただろう。あんな電話の後であれば、どんな内容の携帯メールが来たって信じてしまうだろう。それに、これまでの携帯メールも消してはいないから、どんな口調で美咲とやり取りしてきたか、どんな文章なら自然かだってわかってしまうのだ。おそらく、「暫く急に彼の実家へ行かなければならない事情が出来てしまったの。署には休暇願いを出しておいてくれない。」などとでも書いた携帯メールを良子が出した風を装って送っているのだろう。
 「充電器持ってくるの、忘れちゃった。もうすぐ電池きれそう。」とでも打ったら、その後ずっと電源を切って向こうからの電話に出なくても怪しまれないのだ。

 良子は、もはや自分が居なくなったことで警察が捜索してくれることを期待できないことを悟った。

 次に良子がさせられたのは、写真を撮られることだった。男はデジカメを用意していた。後ろ手に柱に繋がれたままの状態で何枚も写真を撮られた。態と膝を持ち上げさせられ、ぎりぎり股間が見えるかみえないか、きわどい格好の写真も撮られていた。それらは決して、陰部を露出させられているようなきわどい写真ではなかった。むしろ、そういう姿態を想像させ、観てみたくなることを煽って誘うような写真と言えた。表情も、怖がっている様子や、反抗しているような表情を多く撮られ、けっして笑ったり喜んでいるような表情は要求されなかった。
 良子には、(貴方には決して屈服はしないわ)というような凛とした表情こそが、この男が求めていた顔なのだとは思いもしなかった。

 最初のうちは、身代金要求の為の証拠写真として撮っているのだろうと思っていた。しかし、男がいろいろ要求するポーズや表情は、なんとなくそれ以外のことに使うのではないかという気がしてくるものだった。

 「私のそんな写真をいったい何に使うつもり。」
 良子は思い切って、男に切り出してみた。すると意外な返事が返ってきたのだった。
 「募集に使うんだよ。我こそはという男をつのるためにね。」
 「募集って・・・。」
 「国仲良子。24歳。神奈川県警、現職警察官巡査。特技、合気道。モットー、・・・そうだな。正義の為には、どんな卑劣なことにも最後まで負けずに戦うこと、そんなのでどうだろう。」
 「何を言っているの、いったい・・・。」
 「制服のスカート丈を勝手に短くさせてもらったのも、より刺激的になって貰うためだ。なかなか魅力的な脚の写真が撮れた。」
 「魅力的って・・・。よく裸にして写真を撮らなかったわね。」
 「警察官が制服を着ていなかったら、意味はない。君の裸に、制服姿ほどの魅力があるとでも思っているのかい。・・・まあいい。ああいうプロフィール紹介とさっきの写真で、どんな男達が群がってくるか想像してみるといい。」
 男の言葉は謎めいていた。が、数日の後にそれがどんなことを意味していたのか、身を持って知ることになるのだ。

 男はそれ以上は、もう何も話さずに、良子の横から近寄ってきて、素早く良子のスカートのジッパーを開けて、スカートを奪い取ってしまった。下半身が丸裸にされた。
 「どうして、こんな辱めをするの。」
 男は(何て馬鹿な質問をするんだ)という顔をしながら、良子を見下した。
 「だって、そうじゃなければ、一人で用を足せないだろ。いちいち呼ばれても困るんだ、こっちは。」
 男はおまるを指差して説明した。良子は、ここへ拉致されてきたときの屈辱を思い出していた。あの時、完全にお漏らしをしてしまったわけではなかったが、制服も汚してしまったのは間違いない。
 (それで、綺麗に洗濯して、アイロンまで掛けていたのか。)
 良子は、見知らぬ給仕をしてくれる娘のことも思い出していた。
 (また、あの女に股間を拭われなければならないのだろうか。こんなことが何時まで続くんだろう・・・。)

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