妄想小説
牝豚狩り
第二章 半年前
その４
再び男がやってきたのは、１時間ぐらいしてからだった。何も考えられずに、うとうとっとしかけた時だった。ガチャリというドアの鍵が開く音に、はっとして目覚めた。
男は武道の稽古着のような格好をしていた。手にはもう一着持っているようだ。それから鎖がついた何か鉄製の器具のようなものを手にしている。男が裸の良子の足元に座り込んでそれをつけ始めて、やっとそれが足枷なのだとわかった。良子の片方の足首に嵌め、それに繋がる２ｍほどの鎖の反対の端を柱に巻いて、南京錠で留めた。そうして、片方の足だけ繋いで、逃げれないようにしてから、やっと良子の後ろ手の手錠を外した。
ようやく手の自由を与えられた良子は、蹲るような格好で、両腕で胸元を隠しながら、肩をさすった。男は手錠とそれに繋がっていた鎖を部屋の隅に押しやった。そして、立ち上がり、持ってきた稽古着をぽんと良子の前に投げた。
「それを着けろ。」
それは柔道着の上と帯だけだった。胴着の下は持ってきてはいたが、床に置かれたままだった。胴着の下を寄越さなかったのは、足枷の鎖があって穿けないからだろう。
（手錠を外す前に、下を先に穿かせてくれれば良かったのに・・・）そんなことをふっと思った良子だった。それを見透かしたかのように、男が言った。
「下は別に要らんだろ、試合をするのには。それに、今更隠したって始まるまい。」
「し、試合って・・・。」
「足枷の鎖は、邪魔だろうが勘弁してもらおう。もしもということもあるからな。いいか、ルールは簡単だ。相手に参りましたと言わせるまでが勝負だ。技は柔道でも、合気道でも空手でもいい。言っておくが、こっちも別にスポーツのプロという訳じゃない。犯されたくなかったら、真剣に戦うんだな。」
良子ははっとした。
（やはり、犯そうというのだろうか。だったら、最初からこんなことをせずに・・・。）
いろんな疑問を抱きながらも、与えられた胴着を羽織り、帯を固く締める。胴着は股下ぎりぎりまでしかなく、ちょっと動けば、股間も丸見えだろうと思った。ちょっと情けない格好だった。
「いくぞ。」という男の声にはっとなって、良子は立ち上がって身構えた。
男は最初充分に間合いを取っていた。空手のような、少林寺拳法のような構え方だった。それから拳が飛んできた。良子も慌てて身体をかわす。が、全て避けきれるものではない。幾つか打ち身が当たった。その度に、良子の動きも鈍くなる。
はあはあと、良子は肩で息をするようになる。が、男のほうの呼吸は乱れていない。
「そろそろ、締め上げてやるか。」
不気味にそういうと、良子の顔面に拳を突き出してきた。それを両手で受けながら、必死で足を払った。男の身体が勢いで前のめりになる。その勢いを利用しながら、引き込むように倒れ掛かる。男の肩が床に着いたときに良子の手は男の片腕を捻りながら掴んでいた。
「うっ・・・。」
男が苦しそうに呻く。男を自由にしないように、股を大きく開いて、男の身体を挟み込む。胴着がはだけて、裸の脚が丸見えになるが、そんなことを構っている場合ではなかった。
「か、鍵を出してっ。足枷の鍵よ。」
良子も必死だった。心臓がどきどきする。訓練はしていても、こんな実戦のようなことは初めてだった。
「ま、待て。判った。」
男の自由なほうの手が、胴着のポケットらしき場所をまさぐっている。
（あと、ちょっとだ。）
そう良子が思った時、男がポケットから取り出したのは、足枷の鍵ではなかった。良子のはだけた腿に激痛が走った。それに驚いて思わず男の腕を捩じ上げていた手を離してしまっていた。
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