降参

妄想小説

牝豚狩り



第二章 半年前

  その12


 「どうしたの。また考え事。」
 美咲の声に、ふっと良子は我に返った。また思い出したくないことを思い出して、頭の中がそれで一杯になっていたのだった。
 「彼の田舎で何があったのか知らないけど、あまり思いつめないことよ。」
 「ううん、大丈夫。彼とはうまくゆくと思うから。はっきりしたら教えるから、今はそっとしておいてね。」
 美咲は何も疑うことなく、書類を持って出て行ってしまった。独り残された良子はまた溜息をついてしまう。
 (もう思い出してはならないのだ。忘れなくてはいけない。)
 そう言い聞かせる良子だった。

 あの日、結局良子は解放されたのだ。放り出されたというほうが近いかもしれない。説明されたルールでは、捕縛し連れ帰った者の所有になることになっていた。が、結局、連れ帰って監禁するのは主催者の薦めにしたがって、断念したのだ。

 女を自分の下へ連れ帰って監禁するのは簡単なことではない。いつも気をつけて見張っていなければならないし、逆襲を受ける怖れも充分にある。手枷、足枷、首輪に鎖で繋いでいても、油断することもあるのだ。それに普通の素人には、奴隷を飼うのに充分な檻などを作るスペースもなかなかままならない。よっぽどのマニアぐらいしか、実際には獲物を持ち帰れないのだ。持ち帰った場合でも、数日で持て余して主催者に戻されることも多かった。とにかく長く手許に置くことは犯罪の発覚する危険も増すので、主催者としても好ましいことではなかった。特に、扱いに慣れていない初級者の場合は尚更である。

 しかし、ゲームとしての趣向を盛り上げる為には、ゲーム開始前の案内に「獲物を捕獲できれば、持ち帰りも可能」としておくことは必須条件だった。何としても自分が獲得したいという気持ちで臨まなければ、楽しめないからだ。

 サディスト男は、それで主催者の薦めに従う代わりに、最後に陵辱の限りを尽くした。後ろから散々犯しまくった後、再び樹に吊るして体中を鞭で打ちまくった。鞭打つという行為は、再び男の欲情を呼び覚まし、再度男自身を硬く勃起させた。
 鞭打ちは、失禁するまで止めないと言われたが、良子には裸で吊るされた格好で立ったまま尿を洩らすのも耐え難い屈辱だった。しかし、鞭の痛みに次第に麻痺してくる緊張感が限界を超えさせた。
 立ったまま恥ずかしそうに垂れ流す良子の姿を観て、男は頂点に達し、縄を緩めて良子を正座させてから、顔面に射精した。そして拭うことを許さないまま、今度は男のほうが萎えた陰茎から放尿を初め、良子に口を開けて受け止めることを強要したのだった。

 それで男は満足したようだった。飲尿までさせられた良子は、良子に捕縛された二人の客が怒りの復讐心に燃えて帰ってくる前に、来た時と同じように袋詰めにされ、車のトランクに入れられて運び出された。
 主催者たちに助け出された二人の失敗したハンターたちは、良子が既に居ないのを知って、存分に口惜しがる。しかし、それは主催者の思惑でもあった。口惜しければくやしいほど、またリピーターとなって、更に高いビッドにも応じてくれるのが判っているからだ。

 良子は場所を知られないよう、高速道路を使って、遥か遠くの田舎まで運ばれ、受付で顔を見られる心配のないモーテルの部屋へ連れ込まれた。男達はスタンガンを使って良子の手足を痺れさせてすぐには動けなくしてから、手錠と首輪の枷を外し、いつの間にか居なくなっていたのだ。

 主催者の男達は、暫くの間モーテルに係留出来、自力で電車を使って帰ることの出来る金を置いていった。それを使えば、身体の傷を癒して回復を待ったのちに、誰にも知られずに家へ戻ることが出来るのだった。そしてそうさせることで、獲物の心の中だけに事件をしまいこむ気持ちを起こさせ、犯罪として発覚しないようにさせる工夫なのだった。そんな意図があるとも知らず、まんまと良子は、事件として明るみに出さず、自分の胸にしまいこむことを決意するのだった。

 モーテルの部屋には電源を切られた良子の携帯電話も戻されて置かれていた。その電源を入れ、過去のメール記録を調べて、美咲等同僚には、(急な用で彼の田舎へ暫くいかなければならなくなった)と嘘のメールが打たれていたことを知ったのだった。

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