妄想小説
牝豚狩り
第二章 半年前
その３
良子の同僚の美咲は、長い間、ミニパトを空けていたことを、本当に申し訳なく思っていた。不可抗力とは言い難かった。自分が巻いた種である。
だから、やっとのことで這うようにしてトイレから出てきた時、ミニパトのワイパーのところにある良子の伝言に、腹を立てる気にはなれなかった。
「ごめん、用ができた。」
殴り書きのような字で書かれたたった８文字の伝言を、（よっぽど急がなくてはならない急用）なのだとしか思わなかった。大方、この頃それとなく仄めかしている新しく出来た恋人に関することか何かなのだろうと考えたのだ。それにそろそろパトロールを終了してもいい頃合いに差し掛かっていた。それで、独りで署に引き返し、所定の場所にミニパトを戻しておこうと考えたのだった。
美咲と良子はこの署に配属されてからずっと一緒にチームを組んでいた。勿論、ローテーションで他のメンバーと組むこともある。しかし、良子との組み合わせが、何をするにつけても一番上手くいった。性格的には正反対のところに居ると言っても良かった。それが却ってふたりが上手く行く一番の要因なのかもしれなかった。良子と違って、外交的な美咲は、外部の男女の集まりにも積極的だった。結婚願望は無い訳ではないが、相手については自分なりの理想を求め、妥協する気は更々なかった。
しかし、良子がお見合いをしたらしく、その相手と結ばれたいと思っているらしい気持ちはよく理解できた。お互いのことが納得して理解出来るところが、二人で長くうまくやれる理由なのだと美咲もよくわかっていた。
あの日は、あまりの恥ずかしさにもう何も考えられなかった。目隠しをされたまま手と足を繋いだ縄だけを解かれて、自分の足で歩いた筈だった。どこをどう歩いたのかは気が動転していてわからなかった。気づいたら、何処かの部屋の中に居た。何時靴を脱いだのかも覚えていない。
そして、縄を解かれながら、服を脱がされていった。抵抗することが出来たのかもしれなかった。が、その時はあまりのショックに、茫然としていたような気がする。そして、冷静になった時に、身に着けていたもの全てを剥がされて、手錠と鎖で繋がれていたのだった。
その部屋は、何の飾り気もない、明り取りの窓が手の届かない位高い位置にしかない、部屋だった。良子が全裸のまま繋がれていたのは、部屋の中央部に二本だけ相対する位置にある太い丸太の柱だった。後ろ手錠に鎖が通してあって、その柱を取り巻くように鎖が繋がれ、南京錠で鎖の端と端が繋がれていた。良子が歩けるのはその柱の周辺１ｍだけであった。
そしてその１ｍ範囲内に置かれていたのは、その部屋で用を足すことの出来るおまるが一つあるきりだった。既にその中には、良子がさっき用を足した小水が入っている。そんな中にするのは我慢がならなかったが、自然の摂理には逆らえない。ここに拉致されて来た時に思わず誰かの前で洩らしたのより、もっと恥ずかしかった。あの時は周りの状況が全くつかめないまま、募り来る尿意に耐え切れなかっただけだった。しかし、さっきそこに洩らしたのは、自分の置かれた状況を知りつつ、そんなところへすることの恥ずかしさに何とかそれをしないで済むようにと考えた末に、とうとう我慢できなくなって、足でそのおまるを引き寄せたのだった。誰かが入ってきて、その中に自分が排泄したものがあるのを見られるのが我慢ならなかった。（そんな我慢も出来なかったのか）と蔑まれるような気がしたのだ。用を足した後にそれが見せしめであるかのように、処理されずに目の前にずっと置かれたままなのも耐え切れない屈辱だった。
その時、部屋の隅にたったひとつある扉でガチャリという音がした。その音から鍵が掛かっているらしいことが判る。すうっと音がして、見覚えのある男が入ってきた。あの違法駐車をしていた男だった。やはりサングラスをしている。
男は、良子の目の前に立っていた。男と良子のちょうど間の床の上に、中身のはいったおまるが置かれている。男の視線がその中に注がれていた。
「み、見ないで・・・。」
恥ずかしさに顔を伏せて、ぽそりと良子は言った。
男は、近づいてきて、足でおまるを横によける。ポチャリという音がした。男は裸でしゃがみこんでいる良子のそばに膝をついて顔を近づける。男の手が良子の顎と捉え、無理やり上向かせる。
「お前、警察官だろ。もっと、しゃんとしたらどうだ。」
軽蔑したような口調だった。良子は口惜しさに唇を噛む。
「何故、こんなことをするの・・・。違法駐車を取り締まろうとしたからなの・・・。それだけのことで何故こんな・・・。何とか言ったらどうなの。」
男はすぐには答えなかった。良子の裸の身体をじろじろ観ている。見つめられて、また恥ずかしくなり、横向きに顔を伏せた。
男は手を離すと、立ち上がって言った。
「警察官だから、何か武道をやっているだろう。何をやっている。」
突然の脈絡のない質問に、良子はちょっと戸惑った。
「ぶ、武道って・・・。別に、柔道も、剣道もやっているわ。合気道も空手も少しは・・・。」
（それが、何だって言うの。）と付け加えようとしてやめた。相手を怒らせても、いいことはないと良子は考えた。
「何が一番得意なんだ。」
男の質問は意味が判らなかった。良子はサングラスで視線の見えない男の顔をじっとみた。冗談半分で訊いているのではなさそうだというのは分った。
「多分、合気道かしら・・・。」
他人に自慢して言うほどの腕ではない。元々、武道は得意ではないし、好きでもない。職務上必要だから、決められた訓練としてやっているだけだ。
「その身体じゃあ、大した腕ではないようだな。」
（先ほど、身体をじろじろ見回していたのは、そういう意味だったのか。）と良子は悟った。女を裸にして、犯そうというのではなさそうだと思った。
（が、まだどうだか、判らない。）良子は男のなぐさみものになって、犯されるところをちらっと想像する。良子は晩生で、まだ処女だった。男女の営みがどういうものか、実体験としては、まだよく知らない。
「まあ、あとで試してやろう。その前に、食事でもして元気を付けておくんだな。」
それだけ言うと、良子から離れて、出ていってしまった。そのすぐ後に、陰気そうな感じの女が盆を下げてやってきた。盆を傍らに置くと、その中からビニルパックに入った清浄綿を取り出し、封を開ける。何をするのかと思っていたら、良子の股間に手を伸ばしてきた。一瞬、こわばって膝を折った脚を閉じようとしたが、股間を拭おうとしているのだと判って、素直に股を開く。しかし、同性だからとはいえ、情けなかった。
簡単に、股を拭き取ると、その清浄綿と、良子の小水の入ったおまるを持って、部屋を出て行き、またすぐに戻ってきて、手の自由が効かない良子に食事を食べさせ始めた。
訳の判らないメイドのような女に、口に食べ物を運ばれて食べさせられるのは、監禁された囚人というよりは、家畜にでもなった気分だった。しかし、実際には腹が鳴ってしまうほどお腹が空いていたのも確かだった。極力、がっついてしまわないようにするのが精一杯で、自分でもはしたないと思うぐらいに食べてしまった。
食事が終わり、メイド女に口まで拭われると、また一人にされた。そばには空になったおまるが再び置かれている。それ以外のものは一切部屋の中にない。暖房が効いているのか、不思議と全裸なのに寒くはなかった。
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