妄想小説
恥辱秘書
第八章 書庫室への罠
七
矢作の目つきは、ここへ初めて折り始めた時とは明らかに違っていた。血走っているといってもいいかもしれなかった。興奮して頭に血がのぼってしまっているのは美紀にもよく判った。
美紀は括られた手首を後ろにして書棚を背に立ち上がった。追い詰めてきた獣と追い詰められた獲物のように、お互いを油断なく睨んで立ちすくんでいる。一瞬、美紀の視線が、上へ戻る螺旋階段のほうへチラッと動いた。瞬間、矢作は逃がすもんかと美紀の両二の腕をがっしり掴む。その力の強さに、美紀は振り切れないと悟る。
矢作の両手が美紀の上半身を捉えて無防備となった股間を美紀は逃さず、渾身の力で蹴り上げた。
(ううっ)と唸って、悶絶して矢作が倒れこむ。
そのまま後ろも見ずに、美紀は螺旋階段に走った。裾の乱れはもう全く気にしていなかった。ヒールの高い靴は走りにくく、何度も足を踏み外しそうになったが、構わず駆け上った。手が自由でないので、何度も肩を欄干や壁にぶつけた。
息を切らして螺旋階段の最上部まで辿り着き入口の重い鉄の扉を開けるノブを後ろ向きになって手探りで廻そうとした瞬間に、足首をつかまれた。矢作が必死で追ってきていたのだった。振り切ろうと足をもがいたが、男の力には勝てなかった。そのまま引き倒され首に腕を廻されると、もうどうしようもなかった。両手が手錠で自由にならないのが致命的だった。抵抗する術は所詮なかったのだ。
螺旋階段を頭を抱え込まれたまま、引き下ろされるのに、従う他はなかった。
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