妄想小説
恥辱秘書
第八章 書庫室への罠
六
地下書庫というのは、美紀も会社に入って以来、初めて聞く場所だった。そんなところがあることすら、知らなかった。矢作は、今はあまり使われていない古い工場の建物の隙間にある狭い通路を何箇所も曲がりながら、最後にもっとも古い建屋かと思われる工場跡の通用口を抜け、非常口のような鉄の小さな扉の鍵を開けて、美紀を中に招じ入れた。そこは大型船の底のように深く丸いドームのような形をしていて、底のほうへ降りる急な鉄製の螺旋階段が下に延びていた。底まで10m以上はあるように思えた。矢作が壁のスイッチを入れて電灯を点けたが、かろうじて置いてあるものの様子がわかる程度にしか明かりはなく、薄暗くてよく見えなかった。
「気をつけてね。階段、急だから。なにしろ、大昔の貯蔵庫だったところだから。」
何の貯蔵庫だったかは言わなかった。おそらく矢作も知らない時代のものなのだろう。そこを今は滅多に使われない書類の置き場にしているらしい。矢作が先に立ってどんどん降りて行くので美紀は遅れないように着いていくしかなかった。手摺に捕まりながら降りたいのだが、手錠で自由にならない。矢作に手錠を掛けられていることを悟られないようにするので精一杯だった。
降りながら美紀はふと、振り向かれたら、スカートの中が丸見えになってしまうことに気づいた。美紀も、さきほどの看護婦ほどではないが、制服のスカート丈は芳賀から命じられてかなり短めにさせられていた。振り向かれた時、スカートの前を抑えることすら出来ない。
先に地下に降り立った矢作が壁に設置されていた大きな懐中電灯を外し点灯したと思ったら、突然後ろを向いて、下から美紀のほうを照らしたのだ。
矢作の喉がごくっと鳴ったのが聞こえたような気がした。
「あ、危ないから・・・。気をつけておりて・・きなよ。」
矢作はちょっと引き攣ったような声でそういうと、懐中電灯の先を美紀の足元に向けた。急いで駆け下りた美紀だったが、頭の中では矢作の目に焼きついたものを想像していた。白く浮き上がった二本の脚の付け根に見えてしまう三角のデルタゾーン。暗い中にもくっきり浮き出て見えた筈だ。
恥ずかしさに目を被いたくなった瞬間に足を滑らせてしまい、転げ落ちそうになったのを矢作の腕で抱えられた。わざとではないだろうが、矢作の掌が美紀の胸を鷲掴みにするようになってしまった。慌てて横へ飛びのいた美紀だったが、身体に豊満な胸をつかまれた感触が残っていた。おそらく、矢作も突然倒れ掛かってきた美紀の身体の感触を反芻しているはずだと思った。
「ご、ごめんなさい。」
美紀は、先に自分のほうで謝っておいて、何事もなかったような振りをした。が、心の中では相当動揺していた。何せ、誰も居ない暗い中に男とふたりきりだ。歩いてきた距離からすると、大声を上げても誰にも聞こえないかもしれない。
「ちょっと薄気味悪いから、早く捜しましょう。」
そう促した美紀だったが、自分では何処に何が仕舞ってあるのか見当もつかない。すべては矢作にやってもらうしかないのだ。
「えーっと、1985年っていうと、確か、この辺。いや、もっと奥だな。」
ひとりでぶつぶつ言いながら何列も並んだ鉄製の高い書類棚に懐中電灯の明かりを当てながら捜している。
「あっと、この辺りだな。ええと、・・・そうあんた。目がいいかな。わしは暗いとあまりよく見えなくて。この高いあたり、ちょっと見てくれんかな。監査関係って字がないかな。」
そう言いながら、書棚の最上段あたりを照らしている。矢作は小柄なので、元々背の高い美紀のほうが背格好は上だ。それでも、2mぐらいある最上段となると、薄暗さもあってよく見えない。
矢作が奥から踏み台のようなものを持ってきた。最上段の書類を取る為に常備してあるらしい。矢作はその踏み台を使うように言って、手にした懐中電灯を美紀に手渡そうとする。しかし、美紀にはそれを受け取ることが出来ないのだ。一瞬の沈黙が流れた。
咄嗟に美紀は、矢作に気づかれてはならないと思い、後ろ手に書類入れを手にしたまま、踏み台の上にあがり、背を伸ばす。
「私が捜すから、矢作さん、下から照らして。」そう言って、矢作に懐中電灯の明かりを当てるよう指示する。確かに1985年頃の書類らしいのだが、古いものでファイルの背表紙の文字が消えかかっていて、判別しにくい。もっとよく見ようとつま先立って背を伸ばしたとき、矢作の視線がずり上がってしまった短いスカートから覗いている美紀の白い太腿に注がれているのを感じた。
「いやっ。変なとこ、見ないで・・・。」
大声で言った美紀だったが、矢作の目線は、美紀の言葉など聞こえていないことを示していた。突然太腿に身体で抱きつかれた。慌てて踏み台から飛び降りようとしたので、矢作にスカートをそのまま捲り上げられるような格好になってしまった。
「おおっ、・・・。」
スカートの下から顕わになった白い下穿き丸出しの下半身に、思わず矢作の口から声が出た。
抱きついた矢作の手を振り解こうともがいたことで、前のめりに転んでしまい、手にした書類入れを取り落として、手錠の掛かった手首を矢作の目の前に見せてしまう。前のめりに倒れたのにも関わらず手を突くことも出来ずに肩でかろうじて倒れこんだ美紀だった。両手を後ろ手に括られていることは明白だった。
その手錠に矢作の手が掛かった。
「あれっ、ずっとこんなもの嵌めていたんだ。」
肩越しに振り返ると、興奮した顔をした矢作の目がすぐ傍にあった。
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