妄想小説
銀行強盗 第二部
八
男がやがてやって来るだろうことは明白だった。その男に対して良子のほうは完全なる無防備なのだ。後ろ手に手錠で繋がれ視界も奪われているのだ。助けを呼ぶことも考えたが足下の携帯は通話中になっている。切って早崎に掛けたところで男はすぐに気づくだろう。それよりは男と少しでも話して何か掴みたかった。
足音はゆっくり近づいてきていた。階段を登っているところから、かなり明瞭に聞こえていた。やがて良子が連れ込まれた504の前で足音が止まる。ギィーッという音で扉が開かれたのが判った。アイマスクをしているが、自分に新たな明かりが向けられたのは感じ取ることが出来た。
「あなたね。銀行強盗の首謀犯さん。」
「そのまま、膝をついてしゃがんで貰おうか。突然回し蹴りを喰らわせられても困るんでね。」
回し蹴りは良子も考えていたことだ。見えなくても近くに寄ってきていれば、一撃で倒せる可能性があると思ったのだ。しかし、男のほうが抜け目がなかった。膝をついてしゃがむのは軍隊が捕虜に対してやらせるやり方で、足を使った攻撃も封じることが出来るのだ。
「随分、用意周到ね。手錠を掛けて目隠しまで着けているのに、もう充分でしょ。」
そう言いながらも良子は男の言う通りに床に膝をつく。
「痛い目に遭いたくなかったら正直に答えるんだな。捜査はどこまで進んでいる?」
「捜査って・・・。私は捜査本部から外されて謹慎自宅待機なの。何も聞かされてないわ。」
「そうは言っても、同僚や仲間からは何か聞いているだろ。」
「捜査は殆ど進んでいないみたいよ。何せ、何の手掛かりも残っていないんだから。」
「今はどっちの方向を調べてるんだ?」
「判らないわ。多分、何もやってないんじゃないかしら。署長も刑事部長も更迭されちゃったらしいし、署内や本庁でも今回の警察の失態の責任は誰がどう取るんだって話ばかりしているみたいよ。」
「なるほど。ま、そんな事だろうとは思ったがな。銀行の方はどうなんだ。」
「支店長はクビになって関連会社の倉庫番に回されたそうよ。」
「まあ、妥当なところだ。何せ、あの銀行の中で一番いい思いをしたのは奴なんだろうからな。当然の報いと言ってもいいだろう。」
良子はその元支店長から受けた最後の凌辱の仕打ちも思い返していた。
「女子行員たちは殆ど辞めたって聞いているわ。あんな映像が流されちゃったんだから、仕方ないわね。未だにネットにはモザイクの掛かっていない動画がアップされ続けているそうよ。」
良子は辞めていない情報管理者の才川のことは伏せておくことにした。
「テレビ局はどうなんだ?」
「担当プロデューサーも担当ディレクターも飛ばされたそうよ。まあ、誰かが責任取らなくちゃならないからそれも仕方ないかも・・・。」
「銀行の二階で撮られていた映像はどうしたんだ。お前も観たんだろ、あの映像?」
良子は口惜しさに唇を噛みしめる。
「あれは、かろうじて放映前にストップが掛かったみたいね。勿論、お蔵入りよ。」
「それは残念だったな。連日の報道では孤軍奮闘した美人警察官って評判になってるからな。局もあの映像は使いたかっただろうな。苦しんでる顔のアップだけでも。」
「やめてよ。放送はされなかったけど、放送局のスタッフは全員観ているに違いないわ。」
「じゃあ、愉しんだのは放送局のスタッフだけかあ。残念だなあ。まあ、ほとぼりが冷めたらそのうち流出するだろうけどな。」
「くっ・・・。どこまで卑劣なの、あなた。」
「まあ、だいたいの様子は判ったから今日のところはこれで終わりにしてやろう。次も呼出しがあったらちゃんと出頭するんだぞ。いいな?」
「呼出しって・・・? 何なの、これは? 私に何がさせたいの?」
「捜査状況の報告ってことさ。今度までにもう少し警察内部の捜査状況を把握しておくんだぜ、お前の警察手帳を変なことに悪用されたくなかったらな。」
「あの警察手帳をネタに私を脅そうっていうのね。くっ、・・・。」
「じゃ、そろそろ俺は退散するんで、その準備をさせて貰うぜ。」
「準備・・・?」
不安に駆られる良子をよそに、男は何やら準備を始めたようだった。突然、良子は男に鼻を摘まれる。
「む、むむむ・・・。ぷはあっ。」
息が苦しくなって思わず開けた良子の口に、男は何かを注ぎ込んできたのだ。それはチューブのような容器に詰め込まれたホットチリソースだった。
「ぐはっ。か、辛らっ・・・。」
思わず口から吐き出そうとする前に良子は口の上全体にガムテープを貼られてしまう。
「むむむむ・・・。ううん、ううっ・・・。」
吐き出すことを止められて、良子には涙を流して堪えることしか出来ない。
「どうだ。苦しいだろう。水が欲しいか、うん?」
男は口の中の辛みに悶え苦しむ良子の顎を捉えて言うのだった。良子が目を瞑って激しく頷くと、男は突然良子の口からガムテープを一気に剥すと、ペットボトルの飲み口を突っ込んできたのだった。
「あっぷ、ううっ・・・。」
辛みに耐え切れず、思わず差しこまれたペットボトルの水をごくごく呑み込んでしまう。しかし良子はそれがただの水ではなく、即効性のある強力な利尿剤だとは思いもしないのだった。
「さて、お次はこっちだ。土下座をして貰うぜ。」
男は膝を突いてしゃがんでいる良子の髪を乱暴に掴むと床に顔を付けるように伏せさせると、頭の上に足を乗せて抑えつける。そして剥き出しになっている裸の尻の中心に何やら突き刺したのだ。
「あ、嫌っ。何っ・・・?」
無防備な菊座に差しこまれた違和感の次に襲ってきたのは、冷たい感触の液体が自分の身体の中に注入されていく何とも言えないおぞましい感触だった。
「さ、あとはこれで栓をしてっと・・・。前のほうは、こっちを突っ込んでやるっ。」
尻の穴の差しこまれた異物の嫌悪感を感じる間もなく、陰唇には何やら太いものが差しこまれる。アイマスクで視界を奪われた良子には想像するしかないのだが、男がアヌス栓とバイブを前と後ろの穴に差しこんだのは間違いなかった。更にはそれらを抜けなくするようにバイブとアヌス栓に括り付けられているらしい縄が良子の裸の股間にTの字にぐるぐる巻き付けられていく。それはバイブとアヌス栓を抜けなくする褌のようだった。縄の最後の結い目が自分の腹のへその下辺りできっちり結わえられてしまうと後ろ手の手錠で拘束されている良子にはもうどうすることも出来ないのだった。
「じゃ、携帯はどっかその辺に残しておいてやるからお前の相棒でも呼んで助けて貰うんだな。次、呼出しした時は、ちゃんと捜査状況掴んで来るんだぜ。あばよ。」
男はそう言うと、良子が点けたサーチライトを消し、携帯を床の何処かに滑らせると悠々と良子を置いて出ていってしまったのだった。
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