妄想小説
銀行強盗 第二部
三
「あの・・・。ここからの事は銀行の防犯カメラを見ていただくと言う事では駄目でしょうか。」
一瞬、良子の口から防犯カメラという言葉が出て、一同の間にどよめきが走った。
中央で場を取り仕切っていた監察部長らしき男が隅にいた部下に目配せすると、その部下らしき男が部屋を走り出ていった。
「防犯カメラの映像との照合はあとですることになるが、証言は逐一取っておく必要がある。映像と証言の食い違いというのも重要な捜査情報になるのは君もよく分かっているだろう。」
良子はもう何かに触れないことで隠し立てをすることは自分を不利に追い込む以外の何物でもないと悟って、正直に憶えている限りを証言することに腹を決めた。
「下着を奪われてからスカートを捲り上げろと命じられ、逡巡しているとカウンタの上にあがるように命じられました。そしてカウンタの上で人質になっていた行員や客たちに向かってしゃがむように言われました。」
またも一同にどよめきが走る。
「し、しゃがむって、どんな格好をさせられたというんだ。」
「そんな・・・。貴方が今、想像してる通りですっ。」
つい剥きになって、そう言い切ってしまった良子だったが、明らかに場の雰囲気は悪くなった。
「あ、あの・・・。両手を挙げたまま、スカートの中を隠すことも出来ずに脚を開きました。」
良子は状況を淡々と述べるしかなかった。良子を観る男達の目の色が明らかに変わってきたのを痛い様に感じていた。
「何の為にそんな事を君に命じたのだと思うかね。」
「何の為って・・・。」
(男の貴方なら分かっている筈だわ)と思う良子だったが、そうは口にせずまた淡々と答えた。
「おそらくあそこにいた人質の人達におとなしくしているように諭させる為でしょう。何かしたら、こんな目に遭うんだぞという脅しではないでしょうか。」
「な、なるほど・・・。」
「それでずっと晒し者にされていたという訳か。他には何かされなかったのか?」
「カウンタの上で、ズボンのベルトを鞭にしてお尻を打たれました。」
「お尻を? スカートの上からかね。」
良子はこの辱めに唇を噛んで堪えた。
「いえ。スカートを捲るよう言われました。」
「スカートを捲って丸出しにしたお尻をベルトの鞭で打たれたのだね。」
「そ、そうです・・・。」
その時、さきほど部屋を走り出ていった監察部長の部下らしい男が部屋に戻ってきて、監察部長に何やら耳打ちをする。監察部長の眉間がその瞬間潜められたのを良子は見逃さなかった。
(もしかして・・・。)
「やはり、その場の状況は事細かに説明して貰いたい。被尋問者の証言等は食い違いがないか後日照合するので、隠し事はしないように。」
監察部長の口から洩れたのはその一言だった。それで、良子は防犯カメラの映像を押収し損ねたのではないかと推察したのだった。しかも、良子がどう誤魔化したところで、あの場に居た人質たちに一人ひとり尋問されたら、あの場で何があったかはビデオ映像がなくてもいずれ知られてしまうことも良子は思い知らされたのだった。
「それで、お尻を鞭打たれてどうなったのだ?」
「その後は両手を後ろ手に縛られました。」
「警察官だということがばれて、彼らも警戒したという訳だな。それでもう解放されたのか。」
「・・・。い、いえ・・・。」
さすがにその後の事は良子も言いよどんだ。支店長とのことをどう切り出そうかと思っていたのだ。その時、ふと良子が思い出したことがあったのだ。
「そうでした。一つ、思い出したことがあります。私が警察官であることに気づかれてしまう前に私の業務用の携帯に着信があったことは話したと思います。その時、その携帯の着信音声を聞いていたリーダー格の男が、警察に感づかれた惧れがあると言ったのです。そしてそのすぐ後にプランBに変更すると言って、誰かに二階の仲間に報せにゆかせたのだでした。」
「何だね、そのプランBと言うのは?」
「わかりません。ただ、話しぶりからするとその場の状況に応じて、あらかじめ幾つかの対応策を考えてあって、何かがあったら別のプランに変更するというようなニュアンスに聞こえました。」
「すると、君は警察に銀行強盗が行われていることが何等かの形で判ったので、そのプランBというのに変更したと考えているのかね。」
「おそらくそうだと思います。ずっと警察にはばれずにいた場合はプランAか何か判りませんが、別の行動に出たのだと思います。多分、そのまま金を強奪して銀行を出たのでしょう。」
「すると、君の最初の私用携帯の方の110番通報で警察が銀行強盗を察知したらしい事を知って、プランBに切替えたというのだな。」
「そう考えるのが自然です。その後、プランBの準備が出来るまで時間が必要だから私を辱めるのは一旦おあずけにすると確か言ったと思います。」
「プランBの準備? 一体何だね、それは。」
「その後、リーダー格の男は私に言うことを聞かせる為に捉まえていた女子行員に銃を突きつけたまま、一階奥の隅のほうへ連れていって電話を掛けさせていました。電話の相手は放送局のようでした。」
「するとつまりはプランBの準備というのは放送局へ通報するという意味だというのだな。」
「それがプランBに必要なひとつのアイテムだったと思います。ヘリを用意というのも微かに聞こえました。多分、放送局に逃走用のヘリを用意させていたのだと思います。」
「その間、君はどうしていたのだね。」
「それは、必要な事でしょうか?」
「もちろんだよ。」
「私は・・・、リーダー格の男から見張り役が私を縛った男に代わられ、私自身は銃を突き付けられたまま、ロビーにあった長椅子を跨がされて座っていました。」
「長椅子を跨がされて・・・? 言っている意味が分からんが。」
(本当にこいつは意味がわからないと言っているのだろうか・・・)そう思いながら良子は嫌々ながらに説明する。
「私は後ろ手に両手を縛られていました。既にスカートの下の下着も奪われています。その状態で脚を開いて長椅子を跨いで座らされたのです。」
「裸の股間を剥き出しにしたまま、座らされたということか?」
「そ、そうです・・・。」
「その男の目には、そ、そのう・・・、君の股間が丸見えだったと・・・。」
「そうですっ。」
あまり必要とも思えない自分の状況を事細かに確かめてくる監察官に半ば嫌気が差してきて、口調がとげとげしくなるのも構わずにそう言い放った良子だった。
「そんな事よりも、犯人たちが作戦をプランBに切替えたという事のほうが重要じゃありませんか。」
「むむむ・・・。何が重要で、何が重要でないかは、後で冷静になって総合的に判断する必要がある。彼らが作戦を何かからプランBへ切り替えた理由は何だったと君は思ったのかね?」
「おそらく電話口の向こうから聞こえてきた音声で、話し手が警察の人間だと気づいたようでした。私の業務用の公的携帯はGPS機能が付いていますから、それで場所が特定されると考えたのではないでしょうか。リーダー格の男は音声を聞いた後、何も返事をせずにすぐ電源を切っていました。」
良子の口からGPSという言葉が出た瞬間にまた監察官たちにどよめきが起こった。再度、監察部長らしき男が目配せすると、また部下らしき男が部屋の外へ走り出た。おそらくはGPSによる位置確認がされていたかどうかを確認に行ったらしかった。それで初めて良子は110番通報の無言電話を掛けた際に、自分が掛けたらしい事は判ったのに、公用携帯のGPS機能での場所特定はされていなかったらしいことに気づいたのだった。それは自分の部下、早崎巡査のみならず、警察全体の不始末を意味していた。
「で、その後どうなったのかね。」
「女子行員の一人に放送局らしきところに電話を掛けると、準備が整うまでまだ時間が掛かるからと言っていました。」
「時間が掛かるから・・・? 時間が掛かるから何だね。」
「・・・・。その間に・・・、私を辱める続きをすると言ったのです。」
「君を辱める? 何をされたのだね。」
「支店長が連れて来られ、ネクタイを外されて両手をそのネクタイで縛られました。」
「すると、既に縛られていた君と支店長の二人がその場で縛られたというのだな。」
「そうです。」
「で、それで・・・。」
「私は・・・・、私は後ろ向きで縛られた手を伸ばして、そ、その・・・、支店長のズボンのチャックを降ろして、男性自身を取り出すように命じられました。」
「男性自身って・・・、ぺ、ペニスの事かね?」
「そうです。」
「君はそれで、それをしたのか?」
「はい、仕方ありませんでした。」
「で・・・?」
「支店長は股間を露わにしたまま長椅子に仰向けに寝るように命じられ、私はその身体を跨ぐように命じられました。」
「跨ぐって・・・。ノーパンのままでか・・・。」
「そう・・・です。」
口惜しさを堪えながら、良子はそう答えた。口惜しさは決して犯人グループたちへのものではなく、監察官たちへの好奇心へ向けられたものだった。
「君は下着を付けていない股間を支店長に覗かせたのだな。」
「いえ、覗かせたのではなく、覗かれるように命令されたのです。」
「すると、その後、もしかして・・・。」
「そうです・・・。」
「うん? そうです・・・とは?」
「膝を曲げて腰を落とすよう命じられました。」
「君から膝を曲げたんだな。」
「いいえ、違います。私は一度拒否しました。」
「そしたら?」
「男たちは囮になった女子行員にナイフを突きつけ脅しました。それで仕方なく腰を落しました。」
「支店長は無理やり、その・・・、君の・・・股間を、押し付けられたのだな。」
「いえ、違います。私が拒否したら、支店長が・・・、その・・・、蛇の生殺しみたいなことはしないでくれと・・・、つまり・・・舐めさせてくれと・・・頼んできました。」
「君は支店長が頼んだから、自分から進んで股間を、その・・・支店長の顔に・・・。」
「いえ、違います。あくまで、囮の女子行員を使って脅されていたからです。進んでではありません。」
「君は・・・、そのう・・・、支店長に自分の股間を舐められた? そういう事だね?」
「そうです。」
「それで、君は感じていたのかね?」
「えっ? どういう意味ですか。」
「つまり、君は気持ち良かったのかと訊いているんだ。その、支店長にあそこを舐められて・・・」
「そ、そんな・・・。わかりません。憶えていません。」
「つまり、気持ち良かったかもしれないと・・・。」
「濡れていたんだろ、あそこが・・・。」
「えっ、何て事を・・・。わかりません。感情を押し殺していましたから。」
「支店長のほうはどうなんだ。気持ちよさそうだったかね。」
「私にはわかりません。・・・。でも、勃起はしていたみたいです。最後は射精して果てていましたから。」
「見たのかね、その瞬間を?」
「はっきり見てはいません。そう、感じました。その直後、支店長の股間に白濁したものが飛び散っているのは観ました。」
「それで終わったのだね。」
「・・・。いえ。」
「と、言うと?」
「次には体位を変えさせられました。」
「体位を変える?」
「それまでと逆向きに跨ぐように命じられ・・・。というか、彼等の何人かに身体を抑えられて無理やり逆向きにさせられ・・・。支店長の・・・萎えていた・・・男性自身を、口に含むように・・・命じられました。」
「で、君がそうしたのだね。」
「そうです。」
「で、君自身の方は?」
「股間を再び逆向きで支店長から吸われました。」
「吸われた? 舐められたのではなく・・・?」
「同じ事です。」
「もう一度訊くが、気持ちよかったのかね、その時。」
「・・・。憶えていません。」
「支店長の方はどうだね。勃起はしたのか?」
「口に含んで暫くして勃起してきました。それだけではなく、最後はもう一度射精しました。」
「君の口の中にかね・・・。」
「いいえ、顔を叛けましたから。」
「そうすると、支店長は二度、射精したというのだね。」
「いえ、正確には三度です。三度目はもうしっかりとは勃起しておらず、萎えた男性自身から白濁したものを垂らしたという感じでした。」
一同は聞かされた衝撃的な事実に半分酔いしれてさえいるかのようだった。
「客観的に見て、君は支店長に犯されたと言えると思うか?」
「・・・。いえ・・・。でも、支店長が望んだのは確かです。」
「それでは、視点を変えて支店長は君に犯されたと言えると思うかね?」
「支店長が? 犯された? 意味がよくわかりません。」
「ネクタイで後ろ手に縛られて自由を奪われ、そしてペニスまで君の手によって晒された・・・その支店長が君に君の陰部をなすりつけられ、ペニスは口で吸われ、そして射精までさせられた。それは客観的にみて、支店長が君に犯されたという事にはならないだろうか?」
「何を仰っているのです。私は女子行員を囮に取られて、嫌々そういうことをさせられたのです。決して私の方からしたのではありません。」
「まあ、いいだろう。その辺は他の人質になっていた行員たちからも証言を聞いて裏付けを取ることにしよう。長くなったので、一旦ここで休憩に入ろう。」
一方的に良子の証言は打ち切られ、査問会は休憩に入ったのだった。
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