妄想小説
銀行強盗 第二部
十二
すうっと空気が流れたことで非常階段の扉が開いたことが分かる。
(来たっ・・・。)
いきなり背中の手錠の鎖を掴まれる。ちゃんと掛かっているか確認している様子だった。それから背中を押されて廊下に出たようだった。全裸に後ろ手の手錠を掛けられて進まされる様は、牢に送られる囚人そのものだと良子は思った。もし客かホテルマンに出くわしても、そう勘違いするのではとさえ思われた。やがてあるドアの前で止められた。
ドアが開く音がして部屋の中へと突き飛ばされる。ガチャリとオートロックが閉まる音が背中の方で聞こえた。
後ろからいきなり頸に何かが巻かれた。
(首を絞められる)
一瞬、そう思った良子だったが、そうではなかった。それは幅のある革のようなもので出来たものらしかった。
(首輪ね・・・。)
そう気づいた時にはその首輪に鎖が付けられたらしく、ジャラジャラ音がしてやがて上の方に引っ張られる。
「う、く、苦しいわ。」
良子の声に少しだけ上に引っ張り上げる鎖が緩められたが、反対側が何処かに繋がれたらしく、身動きが出来なくなる。
「ね、もうこのアイマスクは不要でしょ。」
「そうだな。お前の怯える顔も見れないとちょっと楽しめないからな。」
そう言ってアイマスクがやっと外されたのだったが、男は銀行の時と同じ目抜き帽を被っていた。 貴方の顔はもう知っているからその目抜き帽も不要と言って遣りたかったが、カードは出来るだけまだ取っておきたかった。
見えるようになった良子は自分が置かれている状況がやっと確認出来るようになる。首に嵌められた首輪は鎖でぶら下り健康器のような組み立て式の鉄パイプの台の真上の棒に付けられた滑車に伸びていた。そこから鎖の端がベッドポストまで伸びていてそこで固定されている。立っているのがやっとで、一歩たりともその場所から動くことが出来ないのだった。
「さて、それじゃあ警察がどこまで掴んだのか話して貰おうか。」
『警察が』という言葉で、男は捜査が警察組織で進められていると思っているようだと良子は推理する。
「この間も言ったけど、私は謹慎中で捜査会議にも加えて貰えてないのよ。」
「ふふふ。じゃあ、この間のテレビ番組で言ってたのは、何だったのかな?」
「テ、テレビって・・・? あれっ、観てたの?」
「そんな下手な小芝居は不要だ。どうせ、俺を誘き出す為の作戦のつもりだろうがな。」
「あなたも分かってて乗ってきたっていう訳ね。」
「お互い、手の内は少しずつ明かしていくのがゲームのルールって訳さ。」
「ゲーム? あなたはゲームのつもりでやっているっていうの?」
「まあ、半分はそんなとこかな。金が目当てでないことだけは確かさ。で、どうなんだい。何か掴めたのか?」
「捜査情報なんて言える訳ないじゃない。」
「そうかな? まあ、時間はたっぷりあるんだから、じわじわと聞き出すか。おそらくは、あの銀行の情報管理をやってるっていう女行員からだな、情報元は。ほう、その顔は図星って訳だ。分かりやすい女だな、お前は。」
「もうあの子を襲っても無駄よ。全部知ってることは警察側が聞きだしたのだから。」
良子はわざと警察側という表現で、組織全体でやっていることを匂わせる。
「あいつからの情報ってことになると、やっぱり防犯カメラ関係だな。あの女、得意そうに操作してたからな・・・。」
「・・・。」
「その顔振りからすると、俺たちが脱出する際の防犯カメラの映像は復元出来たようだな。それを使って俺たちを割り出そうって訳か。」
「時間の問題よ。」
「時間の問題か・・・。それだけじゃなさそうだな。あの防犯カメラの映像だけから俺たちを割り出すとしたら数年掛かっても不思議じゃないからな。まだ、あるだろう、何か?」
「・・・。」
「裸で何も抵抗出来ない状況だからな。痛めつけて吐かせてもいいんだが、お前みたいな訓練している奴は普通の拷問みたいのじゃ、なかなか吐かせられないからな。」
『拷問』と聞いて、良子はちょっと顔をこわばらせる。
「今日はいいものを用意してあるんだ。いささか古典的なものだが。ヨーロッパでは中世の頃に実際に使われたこともあるそうだ。掻痒責めっていうんだが・・・。」
「そーよー…責め・・・?」
「これさ。」
男は小さな茶色の小瓶を取り出す。
「こいつは肥後ずいきの十倍以上の効き目があるんだそうだ。塗られると気が狂いそうになるほど痒くなるらしいぜ。俺は試してみたことがないから知らないが。」
「な、何をするつもり・・・?」
「掻痒放置プレイってとこかな。お前がどこまで我慢出来るか、ここで見ててやるよ。」
「何ですって?」
「降参って言ったら、バイブを当てて痒みを癒してやるよ。でも、どこまでも頑張るっていうんなら地獄の痒みと闘うことになるがな。一番効き目がある一番敏感な粘膜にたっぷり塗りたくってやるぜ。こいつを塗ってバイブを当てられると、逆に天国にも昇るような愉悦を味わえるらしいぜ。天国と地獄、どっちを選ぶかはお前次第だ。さ、脚を開きな。」
「い、嫌よっ。止めてっ・・・・。」
男は恐怖に歪む良子の顔も何のそので、首輪で吊られている良子の片膝を掴んで持ち上げると股を開かせる。
「やめて・・・。お願い。赦してっ・・・。」
「じゃあ、早いとこ吐いちゃうかい?」
「い、言えないわ。」
「じゃあ、好きにするがいいさ。ほれっ。」
ぬるっとしたクリーム状のものが指先から陰唇の内部に塗り込められる。すっとひんやりした感触が急にカッと熱い感触に変わる。その途端に思いもしなかった掻痒感が募ってくる。
「じゃあ、後ろの穴にも塗ってやるか。」
「や、やめてえ・・・。うっ、ああ・・・・。」
「さて、準備は出来た。暫くはここでお前の悶え苦しむ様を愉しませて貰うとするか。」
男はそう言うと、吊られている良子の真正面のソファに悠々と腰を落とすのだった。
良子は不自由な拘束された身のまま、お尻を振って何とか堪えていたが、10分と持たなかった。
「こ、降参よ。バ、バイブを当てて頂戴っ。そしたら話すわ。」
「ふふふ。意外と持たなかったな。そんなに強力なのか、この薬・・・。」
「お、お願い・・・。早くぅ・・・。」
男は片手にバイブを取り上げると、良子に近づいて首輪の茄環を外す。
「そこにしゃがんで尻を上に持ち上げるんだ。挿してくださいってな。」
良子は床に崩れ落ちると蹲る。そして尻を持ち上げる代わりに手錠を嵌められた両手の先を足首の方に伸ばすのだった。
(あと、もうちょっと・・・。)
良子の指が肌色の絆創膏に隠された足首のアンクレットを探り当てる。信号を送るスイッチに指が何とか届こうとしていた。
「お前、尻を出さないで何やってるんだ。おやっ、何かそこに嵌めているな。何だ、それは?」
男が良子の足首に手を伸ばしたのと、部屋のドアが支配人の持ったマスターキーで開けられたのがほぼ同時だった。
「安倍きよあきっ。公務執行妨害現行犯と銀行強盗首謀の容疑で今からお前を逮捕するっ。」
突入OKの信号を部屋の外で受け取った早崎だった。後ろには援護要請を受けた所轄の刑事が数名待機していて一斉に部屋に雪崩込んできたのだった。
早崎の声を聞きながらも、良子は自分の股間の痒みを何とかして欲しいことばかりを考えていたのだった。
「は、早崎っ・・・。逮捕よりも前に、私の、こ、股間をどうにかしてっ・・・。」
そう言いながらも、ついに失神してしまう良子だった。
完
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