ホテル訪問

妄想小説

銀行強盗 第二部



 六

 コン、コン。
 「失礼します。」
 良子は元支店長から指定されたホテルの部屋へ入る。極普通のありふれたシティホテルだが、ビジネスホテルという感じでもない。おそらく支店長時代にはこの手のホテルは接客やら何やらで頻繁に使い慣れているのだろうと良子は思った。部屋にはセミダブルのベッドの他に応接セットが置かれている。
 「犯人に繋がる重要なことを思い出したとお聞きしましたが。」
 先に応接ソファに座っていた元支店長の正面に慎重に座る。さほど短い訳ではないが、タイトなスーツは座ると膝が出てしまう。その膝を食い入るように見つめている元支店長の視線が気になる良子だった。
 「そうだと私は思いますが。」
 「どういった事でしょうか。」
 ここで元支店長はコホンと咳払いをして間を空ける。
 「私の今の身分は昨日お電話したと思います。最早何の権力も威厳もない。ただの倉庫番です。」
 「は? それが・・・。」
 「この先、もう何の希望もない。ただ、老いていくだけの人生をこれから送るのです。」
 「はあ・・・。」
 「でも、あの時の事を思い出すと、たまらんのです。あんな経験は今まで一度も味わうことが出来なかった。」
 「あの時の事・・・?」
 「夢にも出てくるのです。・・・。あんな事はもう二度と経験することが出来ないのだと思うと・・。」
 「率直に仰っていただけませんか。」
 「つまり、そのう・・・。貴方に情報を上げる代わりに、私にもその報酬を頂きたいのです。」
 「お金が欲しいと・・・?」
 「いやいや。金なんか欲しくはありません。あの時の思いをもう一度、もう一度だけ体験させて欲しいのです。」
 「あの時のって・・・。まさか。」
 「そうです。あの銀行強盗たちに命じられてさせられた事です。」
 良子の脳裏に悪夢のような出来事が蘇ってくる。
 「な、何がしたいのです?」
 「あの時と全く同じ事をもう一度だけ、してみたいのです。」
 「それって、つまり・・・。」
 「下着を取って貰って、私に跨って欲しいのです。」
 漸く良子にもこの元支店長が要求していることが呑み込めてきた。考えられない事だった。
 「嫌なら別にいいです。このまま、お別れするだけです。」
 良子は暫く考えてみた。どうしてもこの元支店長が思い出した事というのを突きとめてみたかった。空振りに終わる可能性はないとは言えない。しかしどうしても諦めきれないのだった。
 「判りました。でもお約束してください。あなたが思い出した事を必ず話してくださるって。」
 「勿論ですとも。」
 既に元支店長は相好を崩し始めていた。
 「内鍵を掛けさせて貰っても宜しいですかな。誰かに途中で邪魔をされたくないので。」
 身の危険を感じないではなかったが、武道で日頃鍛錬している自分がこの老人臭い男に組み伏せられるとは思っていなかった。
 「お好きになさってください。」
 元支店長は立上るといそいそとドアに鍵を掛けに行く。
 「そこに、お立ちください。」
 元支店長はソファとベッドの間の隙間を指し示す。
 「最初に奴等はあなたに下着を脱ぐように命じたのですよね。」
 それは脱げという命令に等しかった。そしてその命令に良子は従うしかないのだった。スカートの端を両側で掴むとそろり、そろりと上に引き上げていく。パンティの端に手が掛かったところで、ストッキングごと、引き降ろしていく。支店長は生唾をごくりと呑み込んでいる。
 パンプスを足で引き抜くと、片側ずつパンティとストッキングを一緒に足から抜き取る。
 「あの時、あなたは縛られていましたよね。縛ってもいいですか?」
 支店長は準備よく縄まで用意していた。もはや駄目というタイミングは逸していた。
 「そこまでするんですか・・・。わかりました。どうぞ。」
 良子が両手首を背中で交差させると、荒い息になってきた支店長が良子の背中に回り込み、手首に縄を巻いていく。
 「さ、その縛られた手で、あの時と同じように私の陰茎をズボンから出してくれませんか。」
 屈辱的な事だったが、良子は支店長のいうことに従う。支店長のペニスは既に大きく為り始めていた。チャックを降ろし中に手を突っ込むとバネのようになって反り返ったものが飛び出してきた。
 「じゃあ、私がこのテーブルに仰向けになるので、私を跨いでください。」
 悪夢のような光景を思い出しながら、良子はあの時のことを再現してゆくのだった。

 支店長もあの時のことを忠実に再現しようと努力している様子だった。良子に裸の陰唇を自分の顔に押し付けさせ、散々舐めまわしながら一度空中に射精した後、シックスナインの体位を取らせて良子の口の中に二度目を放出した。違っていたのは、あの時の三度目が勢いなく垂らすようにザーメンを放出したのに対して、三度目にも関わらず立派に屹立させて正面から良子を差し抜いたのだった。強盗犯たち、行員たちに見られての行為ではなく、二人だけの空間だったので遠慮なく、思い通りに事が運べたせいなのだろうと良子は思った。
 「もう解いて貰っていいですか、これ。」
 良子はベッドにうつ伏せになって縛られた両手を差し出す。もし解かないで更に事に及ぶようだったら、足技だけででも支店長を打ち倒すつもりでいた。しかし支店長は素直に良子の戒めを解いた。
 「ありがとう。一生の思い出になった。」
 「お礼はいいですから、思い出したことを話してください。」
 良子はハンカチを出して、口と陰唇を拭うと落ちていたショーツとストッキングを拾い上げて身に纏う。
 「実は犯人たちのリーダー格の男に奥の金庫室に連れていかれて札束を取り出していた時の事なんだが・・・。」
 支店長の話ではリーダー格の男がやけにその場所について慣れている様子だったというのだ。何処に何があるかを予め知っているように思えてならなかったというのだ。
 「金庫室は一般の客が入る所ではないんで、変だと思ったんだが、あとでよくよく考えてみると、もしかすると貸金庫を使っている客ではないかと気づいたんじゃ。貸金庫を使うのは極限られた客だけなんだが、当然ながら金庫室には出入りをするので何処に何があるかはだいたい分かるようになる筈だと思ったんじゃ。」
 (貸金庫を使っている客・・・?)
 それは重要な情報だった。貸金庫を使っている客と言えば、数は限られるし調べる手掛かりは確実に存在するのだ。良子は支店長を置いて一刻も早く早崎に逢う必要があるとホテルの部屋を出たのだった。

良子

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