新任教師 美沙子
五
「行くぞ。」
突然、男は立ち上がった。美沙子は付いていかざるを得ない。縛られて背中に回している手に男はポショットを握らせる。
一見、ただ普通に背中に手を廻しているだけのようにも見える。が、スカートの股間あたりの染みは異様だ。粗相をしたかのようにも見える。美沙子はつとめて平静を装い無視した。
男がレジで金を払っている間は、男の蔭に隠れるようにして立っているしかなかった。スカートの染みに気づかれたくなかったからだ。
男に付いて「テラス」のドアを出ると、男は再び顎で先に下りるように命じた。
美沙子は唾を飲みこんだ。眼下には、もうかなり人通りがある。階段はかなり急だった。手は後ろに回しているので、前を隠すこともできない。美沙子は意を決して一気に降りることにした。
が、その時だった。男の手が美沙子の背中に廻した手で持っていたポシェットを払ったのである。ポシェットは美沙子のすぐ足元にぽとりと落ちた。
美沙子は男をなじるように振り返る。が、男は冷たく(拾えよ)と言わんばかりに顎でポシェットを示す。
再び美沙子は眼下を見る。何人かの男が美沙子のほうを見ている。極端に短いスカートから股下ぎりぎりで脚をあらわにしている。覗きたくなるほうが、男の心情だろう。
ぐずぐずしている暇はなかった。じっとしていれば、余計に階段下の男等の視線の餌食になるだけである。
そのまましゃがめばパンティが丸見えになってしまう。美沙子は横向きに膝を折るようにして腰を落とし、縛られた背中の手を伸ばしてポシェットを探る。下から見れば、いかにも不自然が格好だったが、かまっている余裕はない。
背中越しなので、目で確認が出来ない。手探りで、やっとのこと、美沙子の指先がポシェットの端を探り当てた。そのまま掴み取ろうとするが、何故か持ち上がらない。
男がいつの間にか傍にきて、やっと探り当てたポシェットの端を靴で踏み付けていたのだった。
「な、何をするんですか。」
男の仕業に気づいて、なじるような目で美沙子は男のほうを見上げた。
「脚のほうがおろそかになっているんじゃないか。」
男のほうに気を取られて、美沙子は膝頭を真正面に向けてしまっていた。慌てて膝を横に組もうとするが、その美沙子の肩を男が急に突いた。
「あっ、・ ・ ・ 」
バランスを失って階段を落ち掛けた。両手の自由を奪われていて、咄嗟に脚を開いて踏ん張るしかなかった。何とか階段から転げ落ちずに済んだものの、尻餅をついて両脚を広げる格好で、パンティを丸見えに晒してしまうことになってしまった。
すぐに脚を閉じて立ち上がった美沙子だったが、恥ずかしさに階下の通行人のほうを見ることも出来なかった。下を俯いて階段を駆け下りた美沙子だったが、両手を背中に縛られたままでは、一人で逃げてゆく訳にもいかなかった。
階段の下で、男がゆっくり降りてくるのを待つしかなかった。
やっとのことで男は降りてくると、美沙子の背後の手に再びポシェットを掴ませた。
「こうして持ってないと、不自然だろ。」
美沙子は口惜しさに唇を噛み締める。
「ほら、行くぜ。」
勝手にどんどん歩き出す男を、後ろ手に縛られた格好をポシェットで隠すようにしながら、美沙子はただ男の後を付いて行くしかなかった。
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