黄色ミニ

新任教師 美沙子





  二

 翌日、美沙子はさんざん迷ったあげく、やはり黄色のミニのスーツを着て行くことにした。
 犯人に簡単に服従することは、犯人に付入る隙を与えるようにも思った。が、写真を再び取出して見ると、従わざるを得ないように思えてきた。写真は机の抽斗の奥に判らないようにしまった。

 (スカートの下には下着は着けないこと)と書いてあった。守っていなくても判らないかもしれないと思った。さすがにノーパンで学校に行くのは躊躇われた。スーツはタイトなミニなので、風でまくれるようなことは無いはずだ。美沙子は真新しい白いショーツを穿いていくことにした。

 学校までは、美沙子の家から電車で一駅である。電車の中でも、学校への5分ほどの歩きの中でも、美沙子はまわりが気になって仕方がなかった。常に誰かに覗かれている様な気がしてならなかった。スカートの中の下着も、いつも覗かれているような気がしてならない。かなり短いスカートではあるが、普通に歩いていれば、パンティが覗かれるようなことはまずあり得ない。しかし、美沙子は男の命令に逆らっているという意識が、常に自分を不安にさせているのを感じていたのだ。

 生徒等の「おはようございます。」の挨拶に自分の不安の表情を表さないように気をつけながら笑みで返事を返し、職員昇降口に向かった美沙子だった。
 ミニのスーツに似合うピンヒールの靴から、校内履きの低いパンプスに履き替えようと自分の靴箱を開けて、再び美沙子ははっとする。
 靴箱の奥に、この間と同じ封筒があった。それをひったくる様に取ると、急いで靴を履き替え、職員用女子トイレの個室に飛び込んだ。震える指で、ようやく封筒を開けると中から小さな紙切れの文字が目に飛び込んでくる。
 (いいつけを守らないで下着を着けてきたな。今すぐパンティを脱いで正面玄関の訪問者用の下駄箱の左上の隅の中に入れておけ。言う事をきかなければ、写真を貼り出す。急げ。)
 靴箱の奥には、一枚の写真が画鋲で留められていた。警告であるかのように、今度は顔の部分が口元が分るように下半分だけが残されている。知らない人が見れば誰だか分らない。が、美沙子だと知ってて見れば、分るかもしれない。
 身体のほうは、力を入れて脚を開いて、いまにも放尿しようとしている。いや、どうやって撮られたか美沙子には分っているからそう見えるのかもしれない、そう美沙子は思った。

 紙切れの最後の「急げ」という文字が、気になった。もう躊躇している間は無かった。急いで下穿きを脚から抜き取る。内側のクロッチの部分がほんのり湿っているような気がする。汚れていないか確かめている暇もない。そのまま丸めて掌の中に隠し、急いで個室を出た。
 足早に正面玄関を目指す。すれ違う生徒等の挨拶に笑顔で返そうとするが、顔がひきつってしまう。
 正面玄関には人影はなかった。朝がまだ早いせいだ。
 急いで指定された靴箱を開ける。丸めた紙切れが入っている。
 (パンティをここに残して、音楽室のピアノをチェックしろ。早くしないと、誰かに見つかるぞ。)

 美沙子は茫然となった。が、躊躇している間は無かった。中にある埃っぽいスリッパの上に自分の脱いだばかりの下着を乗せ、蓋をしっかり閉めると4階の音楽室へ急ぐ。

 ここもまだ誰も居ない。奥の教壇脇にあるピアノの前に走ってゆく。閉まっている鍵盤の蓋をそっと開ける。
 もう今では見慣れた一枚の写真が鍵盤の上に乗っかっている。今度は顔の部分が鼻の上あたりまであり、目から上が破り去られている。美沙子は喉がごくんと鳴った気がした。

 その写真をひっつかむと、再び玄関に急ぐ。誰も居ないことをあたりを見廻して確認してから、さっき下着をいれた靴箱をおそるおそる開く。が、もはや下着は無くなっていた。

 その日はもう何の連絡も来なかった。

 短いスカートの下がすうすうするのを心細く思いながら、気もそぞろに授業をした。階段を昇り降りする時が最も緊張した。普通に歩いていれば、覗かれることは無いとは思いながらも、脚を脚を擦り合わせるようにしながら、階段のもっとも外側を小走りに駆け抜ける美沙子だった。


 その日から、何度か郵便箱に手紙が届き、何日かノーパンでの登校を余儀なくされた。美沙子は、黙って従うようになった。命令どおりノーパンで出た日に限って、それを知っているかのように男からは何の指示もなかった。男は美沙子をノーパンで学校内を歩かせるだけで満足のようで、それ以上何もし掛けてこない。従って、美沙子のほうも、どうにも出来ないのだった。

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