forced drink

新任教師 美沙子





  四

 「オレンジジュースをふたつ。」
 男がそう告げるのを美沙子は俯いたままで聞いていた。
 「かしこまりました。」
 ウェイトレスも美沙子の痴態に気づいていない振りをしてくれた。が、注文をとって奥に下がりながらも、ちらちらと美沙子のほうを振り返って見ているのに美沙子は気づいていた。

 「私にどうしろというの。」
 美沙子はウェイトレスが行ってしまってから、斜め横の男に向き直って尋ねた。
 「いちにち付き合ってもらう。まだ時間はたっぷりある。ゆっくり楽しませてやるよ。」
 男はゆっくり低い声で初めて口を利いた。

 「外から男達がお前の下半身を見上げているぞ。」
 美沙子ははっとした。確かに駅から出て来る何人かが喫茶店のガラス越しに美沙子の姿に気づいて、ちらちらと見上げている。美沙子と目が合うと、すっと視線をそらすが、あきらかに美沙子の脚の間を注視している。
 普通のミニなら、脚をうまく組めば下着が覗けるようなことはない。しかし、男が指定した超ミニでは、どう脚を組んでも下着の端が覗いてしまう。脚を斜めに揃えて外の街路から見えないようにすれば、男のほうにパンティが丸見えになる。男と反対側を向けばウェイトレス等や入り口から新たに入って来る客に丸見えだ。
 男に懇願する様に美沙子は男に向き直る。男の目線が痛いように美沙子の剥き出しの股間に注がれるのを感じる。

 「こうやって一日貴方の言うことを聞きます。だから、あの写真は全部返してください。」
 「あの写真? そうか、写真か。・ ・ ・ 」
 「こんなことして、何が楽しいんですか。」
 男はしかし、美沙子には答えずに、暫く考えている風だった。

 「外の奴等にももっとサービスしてやれよ。」
 「ええっ。」
 「脚をまっすぐ外に向けるんだ。さっさと言うことを聞け。それとも俺の言うことが聞けないか。」
 美沙子は唇を噛んだ。ゆっくりと膝頭をガラス張り越しの外に向ける。最初に来た時よりも次第に人通りは増えはじめている。駅から出て来る男等はちらちら美沙子の脚の付け根のほうを覗き上げている。中には駅の方向に向かいながら振り返ってみているものもいる。美沙子は知り合いに会わないか不安で仕方がない。

 その時、ウェイトレスがオレンジジュースを運んできた。美沙子にはわざとゆっくりやっているのではないかと思われるほど、時間が長く感じられた。再び美沙子は下に俯いているしかなかった。

 「飲めよ。」
 男はストローのついたグラスを美沙子のほうに押し遣る。美沙子は乾いた喉が鳴ったような気がした。しかし、両手の自由を奪われたまま、ストローに顔を延ばしてすする格好を考えると、躊躇われた。
 あたりを見回し、ウェイトレスがこちらを見ていないのを確かめてから、顔を下げてストローを口にする。なかなかすぐにストローを咥えることが出来ない。男はその姿を黙ってみている。屈辱的な格好だった。

 半分以上を飲み終わった一息ついたところだった。
 「待てよ。さっき素直に言うことを聞かなかった罰を与える。」
 男はそう言うと、テーブルからスパゲッティなどに使うタバスコの赤い壜を取り上げた。訝しげに見上げる美沙子の前で、男は蓋を開けると美沙子のグラスの残ったジュースの中にタバスコを落とし始めた。それも少し味を付けるというような量ではなかった。
 オレンジジュースの色が変わるのではと思うほど、タバスコソースを垂らした後、男は美沙子に飲み干すように命じる。
 美沙子は哀願するような目で男を見るが、男は冷たく顎でグラスを指し示す。

 美沙子は目を閉じるようにして、ストローを再び咥える。口の中に激痛が走ったようだった。その痛みが喉から胃の中にゆっくり流れていく。
 「どうだ、辛いか。」
 美沙子は目に涙を溜めて男を見る。
 「全部飲み干せ。」
 男は非情だった。やっとの思いで美沙子はそれを飲み干す。口の中全体がひりひりしている。苦しむ美沙子の表情を、明らかに男は楽しんでいた。

 「辛いか。・ ・ ・ よし、俺のジュースをやろう。」
 そう言って、男は自分の前にあったグラスを差し出す。男は口もつけていない。美沙子は口の中の痛みに、遠慮も出来ない。男はグラスは差し出しはしたが、充分美沙子の前まではグラスを持ってきていないので、両手の自由のない美沙子は身体を男のほうに乗り出すようにしなければならなかった。男の眼下で唇を突き出してストローを咥えねばならなかった。
 喉のひりひりを癒す為に、しかし美沙子はそんな格好もかまっていられない。すこしジュースを口に含むと嗽をするような感じで、口の中を洗い、一気に飲みこむ。半分飲んでもまだ、口の中のひりひりは残っている。ジュースの残りが少なくなってきたところでようやくどうにか治まってきた。が、男は残り少ないジュースのグラスを取りあげ、ふたたびタバスコソースを入れはじめたのだ。
 「ま、まさか。」
 美沙子は恐怖で顔を引き攣らせる。
 「罰と言ったろう。すぐに癒されたんでは罰の意味がない。俺の言うことは素直に聞く気持ちになるように、よく思いしらせてやる。」
 男の声は冷たく響いた。
 今度は、男はストローのついたグラスを手に持って、美沙子の口元に差し出した。あたりを憚って、美沙子はさっさと飲んでしまうしかなかった。美沙子は涙をながしながら、その辛いジュースのストローを口にする。
 一度、その辛さを知った美沙子は、しかしなかなか飲みこむ勇気がなかった。躊躇していて、男が何をしているのか気づく余裕もなかった。美沙子が辛いジュースに気を取られている間に、男はポケットから出した白い錠剤を、最初にウェイトレスが持ってきたグラスの水に溶かし込んでいた。
 やっとの思いで、美沙子はジュースのグラスを空にする。

 苦痛にゆがむ美沙子の顔に男は手を伸ばし、美沙子の顎を掴んだ。
 「水を飲ましてやるよ。」
 そう言って、男は水の入ったグラスを取り、美沙子の口元に押し当てた。
 「飲みたいか。」
 美沙子は顎を掴まれ、グラスを口に当てられたまま目で頷いた。
 男は急にグラスを傾ける。美沙子が水を飲み込もうとするよりもっと急激にグラスを傾けるので、美沙子の口の端から水がこぼれ、美沙子のスーツの胸元とスカートを濡らしてしまう。
 「ううっ。」 (待って)と言ったつもりだった美沙子だが、声にならなかった。
 水を飲んで一息ついた美沙子だったが、グラスの半分は美沙子のスーツの上にこぼれていた。
 スカートの股間のあたりで染みのようになっている。水なので乾けば染みにはならないものの、乾いてしまうまでは、異様に目立ってしまう。

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