看護21

妄想小説

恥辱秘書






第五章 付き添い婦への姦計


 六

 「芳賀課長に言われて、様子を観にきました。吉村役員が、今日はなんだか深く寝入っているようだとかで、心配だから様子を見てくるように言われたのです。」
 そう言いながら美紀は吉村のストレッチャーのほうに近づいてきた。晴江は足首の枷を気づかれないように何気なくストレッチャーの前に吉村を背にして立つ。
 「吉村重役は今、お休みになっているようね。」
 そう言いながら、美紀は応接室の奥のソファのひとつに腰を下ろす。晴江は美紀がすぐ出ていきそうもないことに、絶望に呉れる。
 「看護婦さん、ずっと立っていたら疲れてしまうのじゃなくって。」
 美紀には晴江が手錠で繋がれていることは知らされていない。芳賀に、応接室へ行って、役員の様子を観にきたと告げ、暫くは居るようにと言われただけだった。芳賀が、美紀にあの看護婦の居る部屋へ行けと命じるからには、何かあるのだろうとは薄々は気づいていた美紀だったが、利尿剤を飲まされて繋がれているのだとは知らなかった。が、部屋へ入ってみて、吉村の傍に立つ看護婦の不自然な立ち振舞いから、この娘が尿意を必死で堪えているのだとはすぐに気がついた。
 芳賀が暫く部屋へ居ろと言った意味が、美紀には漸く呑みこめていた。
 
 「あ、私だったら大丈夫です。傍で異変がないか見守っているのが私の役目ですから。仕事ですので慣れていますから。それよりも、ここは私が看護していますので、ご心配なく、お仕事のほうへ戻られて結構ですよ。」
 「あら、私だったら、今は暇だから、大丈夫よ。そんなに慌てて戻らなくても。少しお話でもしないこと。」
 「・・・、あ、あの。眠ってらっしゃる重役を起こすといけないので、ここでお話はしないほうがいいと思います。御免なさい。この場は、私が・・・。」
 最後のほうは震える声になっていた。額に汗を滲ませている晴江の姿をみて、美紀は限界が近いのを知り、これ以上追い詰めないことにする。わざとゆっくりと立ち上がると、出入り口のほうへ向かう。その様子を祈らんばかりの面持ちで見守る晴江である。
 「じゃ、吉村重役のこと。お願いします。」
 そう言い置くと、後ろ手にドアを開けて外に下がる。振り向いた美紀の後ろには何時の間にか芳賀が立っていた。美紀の表情を窺う芳賀に、美紀は目配せで晴江のパニック状態を伝える。
 「ここで待ってろ。」それだけ言うと、美紀の代わりに入れ違いに芳賀が応接室へ入っていく。

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る