姦計a

妄想小説

恥辱秘書






第十四章 再びの仕組まれた接待


 十

 両側から支えるようにして沢村を何とかタクシーの前まで運び込んで、美紀は目で先にタクシーに乗り込むように目で合図する。手で沢村の身体を支えながら、タクシーの後席に滑り込むので、ワンピースの裾を押さえることも出来ない。寄りかかってくる沢村の体重を支えるのが精一杯で、裕美は脚を大きく広げたまま後席のシートに座り込まざるを得なかった。そのあられもない格好をサングラスをしたタクシーの運転手も見逃さなかった。裕美は自分の短いワンピースがずり上がり、その下に穿いたものを運転手に思いっきり覗かれているのは知りながらも、隠すことも出来ないでいた。
 膝の上に手を置いて、やっとデルタゾーンを隠すことが出来たのは、美紀と協力して何とかタクシーの後席の真ん中に沢村をおろし、美紀とふたりで沢村の両サイドに乗り込んでからだった。それまでに、隠しようのない短いバドガールの衣装の裾の奥に、パンツの代わりに着けていた紙おむつを運転手に覗かれていた。しかし、そんな裕美もまさかその運転手が、変装した芳賀だったとは思いもしないのだった。
 裕美に取って、起きているのは裕美と美紀、そして目の前のタクシーの運転手だけだと思った帰り道になってから、美紀の口が妙に饒舌になったのだった。
 「でも、吃驚しちゃった。今日のこと。」
 「えっ、・・・。」
 裕美は目の前のタクシーの運転手を気にして、美紀の話題を制しようとする。が、美紀は裕美の制止を無視して、当人にしか判らないよう言葉遣いには気をつけながらも声高に話し掛けてくるのだった。
 「あれって、何時からのことなの。」
 「・・・、あれって・・・。」
 「いやねえ、口では言えないでしょ。頻繁にくるやつ。」
 「そ、そんな。・・・」
 裕美は恥ずかしさに顔を赤らめる。
 「大丈夫よ。心配すること、ないわ。ここだけの話だもの。ただ、どんな感じなのかなって思って。あれの使い心地・・・。」
 裕美は、前のタクシーの運転手が何を想像するか知れず、気が気でない。
 「あれでする時は、立ってするの、座ってするの。ねえ、誰にも言わないから教えて。」
 (誰にも言わないからって、前にタクシーの運転手が居るじゃないの)と目配せで、裕美は美紀に合図するが、美紀は(どうせ、何の事を話しているんだか、わかりっこないわよ。)という顔で平気でいる。
 「ね、お願い。あの話はここではやめて。」
 「そう、平気なのに。・・・それにしても、沢村さんたら、裕美ちゃんのコスチューム、すっかり気に入っていたみたいね。」
 それで裕美は自分の服を店に置いてきてしまったことを思い出したのだ。店を出る時には、沢村が、ぐでんぐでんに酔っ払って、それを介抱するのに気を取られていて、ついうっかり忘れてしまったのだ。
 「美紀さん、私の服だけど、・・・。」
 「あっ、あれね。ボーイさんが気を利かして出入りのクリーニング屋さんに出してくれたの。一日で出来るんですって。」
 「えっ、何ですって。」
 裕美は、自分の衣服を勝手に処理されたことよりも、自分の犯した粗相を何人もの他人に見られてしまうことのほうにショックを受けた。
 「大丈夫よ。クリーニング屋さんに、会社のほうに届けてもらうように手筈しといたから。業務命令での仕事の上のことだもの。会社の経費でおとしても誰も文句は言わないわ。」
 裕美はお金のことより、自分の私服が会社に届けられることで、誰かに(何があったのか)を訊かれることのほうを心配していた。しかし、当事者でない美紀は、そんなことは気づいてもいないという振りをしていた。

 これまでは何かにつけ、自分の上司より二つ上のランクの秘書、普通の庶務席しか与えられていない自分に比して、専用の秘書室を与えられている裕美に引け目を感じ、卑屈になってしまう美紀だったのだが、もうすっかり裕美のことを自分のはした女のように感じていた。慎重に選んだ言葉で裕美をいたぶることにも快感を感じて、ついつい有頂天になっていた。

 タクシーが街中に入ってきたところで、美紀はふと思いついたように裕美のほうを振り向いて声を掛ける。
 「ねえ、今夜は私が最後まで沢村さんを送っていこうかしら。裕美ちゃんも一緒に行きたい?」
 「えっ、わ、私は・・・。もし、お願いできるのでしたら、私はどこかこの辺で先に下ろして貰えると助かるわ。」
 一刻も早く、沢村等とは別れて帰途につきたい裕美には、願ってもない美紀の提案だった。
 「それじゃ、そこの角で止めてくださらない。」

 タクシーは駅から少し距離のある大通りに差し掛かったところで停まり、裕美を下ろした。
 タクシーを降りてしまってから、裕美は自分の格好に気づいたのだ。バドガールの超ミニのワンピースは、宴会の余興では持て囃されても、街中を真顔で歩くというのには、とても恥ずかしい格好だった。タクシーを降りるのに、寝込んでいる沢村を跨ぐようにして外に出ようとして、自分が店から借りた衣装のままで出てきていること、しかもそれが下半身を殆ど晒してしまうような格好であることに気づいたのだ。(しまった)と思ったが、最早後に引くことも出来なかった。

 裕美を外に出し、車のドアを閉めてからも、美紀はタクシーをすぐには出さずに、街中に娼婦まがいの格好で放り出された裕美の姿を眺めていた。裕美もタクシーがすぐに出ないので、歩き出す訳にも行かず、暫くは立たされ待っていなければならなかった。
 悪戯をした罰で立たされた生徒を見下すかのように、暫く眺めてから、美紀は運転手に目配せする。車が発進して、裕美の前を離れると、運転手はサングラスを取った。それはタクシー運転手に変装した芳賀だったのだ。タクシーが走り出すと、沢村も寝入った振りから起き上がって遠ざかってゆく裕美の恥ずかしい姿を振り返って眺めるのだった。
 「ふふふ、・・・・ふっ、ふっ、ふっ、・・・・あっはっはっは。」
 突然沢村役の原が笑い転げだすと、つられて芳賀も、美紀さえもが騙された裕美の滑稽さに笑い転げるのだった。

 裕美が下ろされた場所は駅から200mほど離れた場所で、駅への道は明るい繁華街になっている。その辺りでタクシーを拾おうとしても、駅構内のタクシー乗り場に近過ぎて、停まってくれるタクシーは居ない。否が応でも駅までの道を歩いて行かねばならない。人通りも決して少なくない目抜き通りである。芳賀は裕美に恥ずかしい身なりを衆目にわざと晒させる為に、あらかじめ裕美を下ろす場所を決めていたのだ。裕美が自分の身なりも忘れて、早く別れたいが為にタクシーを降りるというのを見越して、美紀に声を掛けさせたのだった。
 裕美はすれ違う男たちが、嫌らしい目で短いバドガールのワンピースから剥き出しの太腿の付け根を覗き込んでくるのに堪えなければならなかった。同性のおばさん連中は、裕美のあられもない姿に、露骨に侮蔑の眼差しを投げかけてきた。裕美は周りの視線に気づかない振りをしながら下を向いてただ駅へ足早に急ぐ他はなかった。
 終電間際の駅は、タクシー乗り場も長蛇の列で、そこでも裕美は恥ずかしい思いで剥き出しの下半身をずっと晒さねばならないのだった。

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