teatime

アカシア夫人



 第六部 未亡人の謎




 第六十八章

 朝早くに、夫の和樹はいつもの週明けの通り、東京へ仕事に出掛けていった。また三日間は留守になるのだ。
 朝の片付け物を終えた後、貴子はハーブ茶を淹れて、バルコニーのデッキチェアで寛ぐことにした。明け方観ていた夢のことが頭にちらつく。
 (あのアダルトDVDのせいだわ。武蔵野夫人だったかしら。軽井沢夫人のほうかな。)
 夢の中で、貴子は軽井沢夫人になりきっていた。夜会で招待客の前に出るのに、股間に双頭のディルドウを装着させられる夫人・・・。そして下男にお尻を犯される。
 (嫌だわ。確かに最初はビデオの中の貞男という下男だった筈なのに。)
 何時の間にかその貞男は、俊介に変わっていた。その後、和樹と朱美まで現れたのだ。
 (エステなんかに行って、恥かしい思いをしたせいなのだわ。)
 その夢のあまりの衝撃の強さのせいで、その晩に夫に辱めを受けた記憶のほうが既に薄らいできてしまっているのだった。
 (そうだ。気晴らしの為に、またあの電動自転車で少し走ってこよう。)
 思い立った貴子は、いつものショートパンツに着替える為に寝室へ戻るのだった。

cycler

 ちょっと大きめのTシャツに思いっきり短くしたジーンズで作ったショートパンツを穿く。Tシャツの裾は最近の若者と同じくベルトの中に織り込まないので、Tシャツは飛びっきり短いミニワンピースみたいに見えてしまう。最近の若者の中にはわざとそういう格好をしてセクシーさを挑発している者も多いのだが、貴子はそんな若者のファッションの事は知らないで同じ様な格好をただ涼しいからというだけで知らずに真似てしまっているのだった。
 貴子が自転車に跨ると、Tシャツの裾から下に穿いたショートパンツがちらちらと見え隠れする。人の行き交いの多い街中だったら、擦れ違う男たちに毎回振り返られていたに違いないのだろうが、ひと気の殆どない新興別荘地の為、そういう視線を感じることがないだけに油断に繋がってしまっているのだった。

 (あっ・・・。)
 例のバードウォッチャーが棲む、すずらん平のほうへ行ってみようとして、アカシア平を降りていった貴子は、別荘村の出口のところで、小さな公園をみつけて思わず声を挙げそうになってしまった。
 そこは紛れも無く、貴子が和樹に連れ出されて繋がれたジャングルジムのある公園だったからだ。
 貴子は自転車から降りて、小さなブランコの脇に自転車を置くとジャングルジムのほうへ向かって歩いてゆく。繋がれた覚えのある場所を身を屈めて調べてみると、全体的には鉄パイプが錆び付いている中で、一箇所だけ擦れて光っている場所がある。貴子が嵌められた首輪に繋がっていた鎖で擦れた痕に違いなかった。その場所を頼りに、貴子が洩らしてしまったゆばりの痕を探るが、すっかり乾いていて跡形もない。
 ふと、貴子は自分が嵌めさせられていた紙オムツのことを思い出した。
 (あの時、和樹が外して傍にあったゴミ屑入れの籠の中に放り込んだ筈・・・。)
 横のほうに目をやると、確かに少し離れたところに鉄の網で出来た円筒形の籠がある。貴子が近づいて中を調べたが、既に空だった。
 (こんなところにも、ちゃんとゴミ回収業者が来てるのかしら・・・。)
 ごみを持ち去った者が、それが何かに気づかなかった筈はないと貴子は思うと思わず顔を赤らめてしまう。しかし、それを身に付けていたのが自分であったと判る筈はないのだと思い返す。それでも恥かしさは決して消えない。
 昼間の公園は、あの夜の時とは全く印象が異なっていた。ひと気が無いのは変わらないのだが、こんなに見通せる場所だったのだと思うと、貴子には顔から火を噴いてしまうのではとさえ、思われるのだった。
 誰かに見咎められてはいないかと、辺りを確かめた後、貴子は足早にその地を去ることにしたのだった。

madam

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る