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アカシア夫人



 第六部 未亡人の謎




 第六十三章

 「ふうん、女友達か。いいよ、でもあれはしなくちゃ駄目だよ。」
 「え、いいの・・・。貴方との約束はちゃんと守るから。」
 貴子は意外にもすんなり日曜のお出かけを許してくれたことに驚いていた。すぐにその事を朱美に伝えることにする。

 「じゃ、スカート捲くって。」
 それは貴子が独りで出掛ける為の屈辱の儀式だった。下着を膝の上まで下ろした上で、スカートを捲くって股間を和樹に確認させるのだ。前の晩、風呂に入った際にきちんと処理して剃り直してある。それを確かめさせた後で、スカートを捲り上げたまま和樹が貴子の腰に紙オムツを嵌めるのを待たねばならない。膝のショーツも奪われてしまう。持ち物も検査されるので、替えのショーツを持って出ることも出来ない。もっとも一回剥がすと判ってしまう特殊なテープで留められているので、途中で紙オムツを外してショーツに穿き替えることも出来ないのだった。

 「じゃ、行っておいで。帰りはまた迎えにくるから。」
 茅野駅前のロータリーでレンジローバーを降りた貴子に、和樹は車に乗ったまま運転席のサイドウィンドウを下げてそう告げたのだった。
 「行ってきます。駅に着く前に電話しますから。」
 そう言うと、貴子はもうじきやってくる東京行きの特急電車に乗る為に、ホームのほうへそそくさと急ぐのだった。

 貴子が朱美と落ち合ったのは、前回東京へ来た時に、偶然岸谷と出遭った銀座の交差点から程近い、さるデパートの入口だった。朱美が指定してきたのだ。
 「今日は、貴子さんをエステにご招待するわ。私の行きつけの店よ。」
 「え、エステ・・・?」
 「大丈夫よ。只なんだから。年に一回だけ、顧客サービスで、常連の客にもう一人分ゲストとペアで只になる招待券が出るの。フェイシャルトリートメントしながらネイルケアをして貰えるの。リラックスするわよ。」
 「そ、そう・・・なの。」
 貴子は朱美が通い慣れているようなので、後に付いてゆく。貴子自身はもう随分長い間エステなど行ってなかった。山荘のある高原の別荘地と茅野ぐらいの地方都市では、エステサロンなど望むべくもなかったのだ。

 一流デパートの最上階付近にあるそのエステサロンは、かなり高そうだった。朱美はしょっちゅう通っているらしく、若い受付嬢が朱美の姿を認めると恭しくお辞儀をして迎え入れるのに貴子は圧倒された。
 奥の部屋に案内されると、斜めに傾けられる豪華なソファに案内され、朱美と二人並んで座ることになる。若い女性のエスティシャンがそれぞれに付いて、フェイスケアを始める。両手はソファの両側にある台の上に置くと、別のネイリストがやってきて、爪のケアを同時にしていく。
 「ねえ、貴子さん。旦那は大丈夫だった?」
 エステの施術師が居る前で、朱美が突然プライベートなことを訊いてきたので貴子は戸惑う。
 「ええ、まあ・・・。」
 「大丈夫よ、ここの人達は。ここはきちんとした会員制の場所なので、何を喋っても大丈夫。秘密はちゃんと守られるんだから。」
 「で、でも・・・。」
 貴子は朱美が何を言い出すのか気が気でない。

 「はい、終りました。」
 三十分ほどで、フェイストリートメントとネイルケアが終った。
 椅子から起き上がろうとすると、女性の施術師は貴子にふかふかの大きなバスタオルを手渡す。
 「今日はオイルマッサージも付いているのよ。ラッキーよね。」
 突然の事に貴子が戸惑っていると、朱美はバスタオルを受け取って、着替えをするのにカーテンで仕切られた場所へどんどん勝手に行ってしまう。
 「あちらで服をお脱ぎになって、こちらのベッドにうつ伏せになってください。」
 バスタオルを渡した後、施術師は貴子に朱美が向かったのとは反対側の壁際にあるカーテンのほうを指し示す。
 (ど、どうしよう・・・。)
 朱美がもうカーテンの向うへ行ってしまったので、自分はいいからとは言えなくなってしまった。
 カーテンで仕切られた着替え室に入ってはみたものの、貴子はどうしていいか判らない。
 (服を脱ぐって、下着もっていう事なのかしら。下着って言っても、そういう訳にもゆかないし・・・。)
 カーテンを薄めに開いて外を窺がうと、朱美がもうバスタオル一枚を身体に巻きつけただけで、ベッドにうつ伏せになろうとしていた。

madam

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