土下座

アカシア夫人



 第六部 未亡人の謎




 第六十五章

 車の中では平静を保っていた貴子だったが、山荘に入るなり、居間の床に土下座して夫の前にひれ伏したのだった。
 「和樹さん。御免なさい。私、貴方に謝らなければなりません。貴方との約束、守ることが出来なかったんです。」
 和樹が無言で立っているので、おそるおそる貴子は顔を上げて夫のほうを覗いみる。貴子には和樹の表情は冷徹そうに見えた。
 「どうしても外さなければならなくなってしまったのです。決して貞潔を破るような真似はしていません。エ、エステにお友達から誘われて・・・。それで、シャワーを浴びなくてはならなくなってしまったのです。」
 「シャワーを浴びなくてはならないような事をしたっていう訳か。」
 それは男との情事を意味するようにも聞こえた。
 「違うんです。オイルマッサージを受けることになってしまって。私、知らなかったんです。そういうのもあるって。顔と爪だけだと思っていたので。あ、あの。これです。これが、その時の招待券です。お友達に招待券があるから無料で受けられるからって誘われて・・・。」
 貴子は朱美から貰ってきた半券を差し出しながら和樹に許しを請うのだったが、和樹はそれを見ようともしないで冷たい返事を返すのだった。
 「罰は受けて貰うよ。取り合えず今日はいいと言うまで身に付けたままでいるんだ。」
 それだけ言い渡すと、車のキーを取り上げて出ていってしまったのだった。

 何時戻ってくるのかも判らないまま、貴子は夕飯の準備をした。しかし和樹は一向に帰ってくる様子もなかった。先に食べている訳にも行かず、お腹が空いたままただただ待つしかなかった。その間にも、意地悪く尿意は募ってきた。なるべく水分は採らないようにしてきた貴子だったが、それで自然の摂理が止まる筈もなかった。その日何度目になるのかも判らなかった。もう限界なのではと思いながらも、立ったまま穿きっ放しのオムツの中に放尿するしかなかった。
 (ああ、もう許して・・・。あんまりに惨めだわ。)
 いつまでも帰って来ない夫を待ちながら貴子は目に涙を溜めていた。

 夫が帰ってくる車の音がしたのはもう9時を過ぎていた。
 「貴方、お食事は。」
 「は、もう済ませてきたよ。それより、出掛けるよ。」
 「えっ、今から?このまま・・・で?」
 貴子が言ったのは、勿論スカートの下の紙オムツのことだった。察してくれると思ったのだったが、和樹は何も言わずに車に乗るように促す。貴子はお腹が空いて鳴りそうなのを我慢して車に乗り込む。
 和樹が貴子を連れていったのは、別荘地の入口に近いところにある小さな公園だった。小さい子供が居る家族も誘致できるようにと作られた公園だったが、子供が遊んだという形跡もなく、無駄に使われていない空き地に近い場所だった。それでもに申し訳程度には遊具が設置されている。ブランコと滑り台、それに小さめのジャングルジムがあるだけだ。
 公園の脇に車を駐めた和樹は貴子についてくるように命じ、そのジャングルジムの前に立つのだった。
 「さ、服を脱ぐんだ。」
 貴子は辺りを見回す。夜9時過ぎの公園だ。それでなくてもこの辺りには人影はない。だからと言っても、一応、吹きっ晒しの屋外だ。そこで裸になれというのだった。殆ど使われることのない公園には隅っこに一本、電柱が立っていて心許ない電灯がひとつだけ点いているきりだ。真っ暗ではない代わりに、煌々と照らされている訳でもない。そんな中で裸になれと命令されたのだ。貴子には逆らう資格もないのだと思い知らされた。
 「わかりました。」
 ブラウスを脱ぎ、スカートを腰から外して傍のジャングルジムに掛ける。ブラジャーと紙オムツだけの惨めな格好になる。

madam

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