アカシア夫人
第六部 未亡人の謎
第六十七章
目の前の手紙にもう一度目を落としてみる。そこには卑劣な文章が並んでいるのだ。
「今夜の夜会には同封したものを必ず装着すること。従わなければ、あの写真が町中にばら撒かれることになるのだ。そうなったら、もうこれまでのような貴婦人面は出来なくなるどころか、世間に対して顔を出すことすら叶わなくなるのは充分判っているだろう。」
その同封されたものというのは、この醜い卑猥な形のモノなのだ。双頭のディルドウという言葉は何処で聞いたのだったろう。
柔らかいのは表面と一面に付けられたイボだけで、芯は硬い金属製のもので出来ているようだ。その奇怪な形の棒に取り付けられた装着用のベルトは、ガーターベルトみたいだ。
さっきこの心棒のこちら側を挿入してみた。やはりローションを付けてでないと痛くて仕方ない。ローションを塗ったうえでもヌルッと入ってくる感触がおぞましくてならなかった。
固定用ベルトはしてみることは出来なかった。ベルトの先を入れるバックルに鍵穴が付いている。差し込むとラッチが掛って、抜く方向には動かなくなる。一旦締めてしまうと鍵が無ければ外せない構造らしい。しかし、こんなものを嵌めて夜会に出る為には、しっかりベルトを締めておかなければ、もっと恥かしいことになってしまう。
腰に装着したら、もう片方の側が自分の股間から男性のものが生えたみたいに突き出されてしまうのだ。それはまさしく殿方の勃起したペニスそのものだ。そんなものをぶら下げて皆の前に立たねばならないなんて・・・。夜会用ドレスで本当に隠せるだろうか。こんなものを嵌めたままでは、ショーツはおろか、ペチコートだって穿くことが出来ない。ただスカートを重ね着するだけしか出来ないのだ。
ああ、もうそろそろ用意しなくてはならない時間だ。いまのうちにトイレに行って出しておかなければ。外して貰うまではトイレに行くこともままならないのだから。
さあ、これで暫くは大丈夫。でも何時まで持つだろうか。でも、やらなければならないのだわ。さあ、そろそろこれを嵌めなければ。
ベルトはこれとこれをこのバックルに嵌めてっと・・・。そしてこちらを引っ張るのね。ああ、締まってしまった。やはりもう元には戻せない。自分では外せないのだわ。
ああ、嫌。この感触・・・。結構、重いのだわ。腰を揺らすと、ぶらんぶらんして内側のほうが肉襞を抉るようだわ。でも揺らさずに歩くことなんて出来ない・・・。
そうだ。鏡の前に立ってみよう。どうかしら。立っているだけだったら股間が膨らんでいるなんて判らないかもしれない。大丈夫そうだ。でも油断は禁物。
あっ、誰か来た。
「奥様、ご用意は出来ましたでしょうか。」
下男の貞男だわ。そうだ。もう一つ命令されていたのだった。
「お前の屋敷に居る下男を部屋で誘惑すること。太腿を覗かせて興奮させてやること。」
こんな下卑た男に、太腿を見せなければならないなんて・・・。ああ、何だってそんな理不尽なことを要求するのだろう。まさか、こいつが犯人。いや、そんな知恵はない筈。
「貞男。こっちへ来て私が靴下を履くのを手伝いなさい。」
「わかりましてございます。どのようにすれば宜しいのでしょうか。」
「こっちへ来て私の脚の前に傅きなさい。」
「畏まりました。」
目の前に貞男が蹲っている。その貞男に向けて脚を出して見せなければならないのだ。
「お前の横のテーブルに載っている絹のストッキングを取るのです。そして私の足に履かせなさい。」
貞男がやりやすいように脚を組んでやろう。ああ、こんな男が私の足に触れるなんて・・・。
「そっとやるのよ。そう、上へあげていって。」
スカートを捲くっていかなければならない。でも、股間のモノを晒してしまわないように注意しなくちゃ。そうだ。たくし上げた裾で股間を隠そう。
「ほら、膝の上にまで持ち上げて。そしてガーターベルトに留めるのよ。」
「ガーターベルトとはどれのことで御座いましょうか?」
くっ・・・。もっとスカートを持ち上げなければならないの。まあ、この男ったら。今、生唾を呑み込んだわね。
「ほら、裾の下にぶらさがってるでしょ。その紐の先の金具で留めるのよ。そう。それでいいわ。そしたら、今度は反対の足。」
こいつ、私が脚を組み変えた時、裾の奥を覗こうとしたわ。
「奥様。それではこちらのお足も・・・。」
まあ、貞男ったら、股間を膨らませてる。勃起してるのね。そうだわ。脚を組み替える時に、足の先で触れてみよう。
「あ、奥様・・・。す、済みません。ぶつかってしまって。」
わ、やっぱり硬くしてるわ。下男の分際で、私の脚を見て勃起させるなんて。
「さ、さっさとこちらも膝の上まで引き揚げてガーターベルトに繋いでっ。そう、それでいいわ。」
私がスカートを降ろすのを本当に惜しそうに見てたわね。あっ、手で勃起してるのを隠そうとしてる。
「今度は、私のドレスの背中のホックを留めるのを手伝って。」
「ええと、どれで御座いますか。」
「ほら、これよ。これと、これ・・・。」
早くしてよ。両手を背中に廻してると手が攣りそうだわ。
「あ、何するの。お前、手を離して。手首から手を離しなさい。駄目、やめて。」
「離さないさ。もう、我慢出来ない。今、縛り上げてやる。」
「な、何するつもり。そんなことして只で済むと思っているの。やめて。」
「おう、ちょうどいい物があった。このバスローブの帯で括り上げてやるっ。」
「ああ、そんな・・・。お願い、縛るなんて。やめてっ。」
「お前が悪いんだ。俺を挑発して変な気にさせるからだ。そんなにやられたいならやってやるぜ。」
「何を言っているの。お前、自分の立場が判っているのっ。」
「立場かっ。両手の自由も奪われた、そんな立場のお前が何を言ってるんだ。さあ、逃げられないように、首もこの椅子の足に縛り付けてやるぜ。」
「あ、やめて。うっ、首が絞まる・・・。あ、そんな事したら・・・。ああ、繋がないで。いやよ。」
「ほら、いい格好になったぜ。犯してくださいってばかりに、土下座で尻突き出して。」
「お前が無理やりこんな格好にさせたのじゃないの。ああ、こんな格好苦しいわ。解いて。解いてったら・・・。」
「駄目だね。さ、今、犯してやるから。スカート、捲り上げてやるぜ。ほらっ。」
「あっ、止めて。お願い・・・。ああ、見ないでえっ。」
「おや、こいつは何だ。」
「お願い、見ないで・・・。」
「こんな物、嵌めていたのか。これじゃまるで勃起したオスじゃねえか。どれっ。」
「ああ、やめて。そ、そんな・・・。ああ、こじらないで。ああ・・・。」
「へえ、ここをゆすると、中のモノが暴れるって訳だ。しかし、これじゃあ、出来ねえなあ。鍵が掛ってるのか、このベルト・・・。」
「わ、わかったわ。この嵌められたモノ、外せないの。だから・・・。だから、口でしてあげる。咥えてあげるからそれで許してっ。口でいかせてあげるから、それだけしたらこの紐、ほどいて。ね、お願いっ・・・。」
「ふっ、ふっ、ふっ。フェラチオか。それも悪くないな。ようし、ほれっ。さ、咥えるんだ。」
(あぐっ・・・。あふ、あふっ。)
「ほれっ、もっときつく吸うんだ。舌も使えっ。」
(うぷっ、うぷっ、・・・っくっ。)
「ううむ、何か物足りないなあ・・・。そうだ。もう一つの穴があるな。」
「うぷっ・・・。な、何ですって。」
「尻の穴に決まってんだろ。充分、硬くなってきたからな。唾でべとべとになってきたし、ずぼっと突き刺してやるさ。」
「や、やめてっ。そんなこと・・・。で、出来ないわ。そんなこと。」
「出来るさ。やるのは俺のほう。お前はただやられていればいいんだよ。さっ。」
「や、やめてえ。お願いっ・・・。」
「ほれっ。前の穴が駄目なら、こっちで犯してやる。綺麗なすぼまり方だな。」
「やめて。見ないで。あっ、あうう。だ、駄目っ・・・」
「まだ、指を差しただけだぜ。ほれ、こうして少し滑りをよくして・・・。ああ、いい感じだ。さ、そろそろ本物を挿してやろう。ほれっ。」
「ああ、やめてえ。裂けちゃうぅぅ・・・。あひぃぃぃ・・・。」
「うううっ。よく締まるぜぇ。きつい穴だ。」
「だ、駄目よっ。俊ちゃん、そんな事しちゃあ。」
「何、言ってんだよ。奥さん。ほら、旦那があっちから見てるぜ。さっきから。」
「え、何ですって。あ、和樹・・・さん。ち、違うの。違うのよ。私からじゃないの。私が誘ったんじゃないの。」
「あら、貴子さんたら。貴方が、ノーパンでやってきて、男達をそそのかしたんじゃなくって。」
「えっ、朱美さんまで・・・。私だけ、こんな格好で・・・。ああ、見ないでっ。恥かしい・・・。」
はっとなって貴子は我に返った。
(ゆ、夢なの・・・。今のは。)
貴子はシーツの中から手首を出してみる。手錠でついた赤い痕が薄っすら残っているが、縛られてはいない。
(手錠・・・の、痕?これは・・・。)
貴子にはどこからが夢で、どこまでが現実だったのか区別さえつかなくなっていたのだ。
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