美咲ポーズ

妄想小説

牝豚狩り



第八章 思いがけぬ手掛かり

  その6



 これ迄の調査で、唯一の手掛かりである秘密のサイトに辿り着き、美咲に打って貰った芝居のおかげで、嘗ての牝豚狩りの被害者である森山はるかのところまで行き着いた。その時のハンターであった可能性が高いその医師はパソコンのアドレスを細工して、今のところ泳がせている。
 良子の下へ美咲から電話の相談があったのは、その医師から再び誘いが掛かったが、どうしたらいいかというものだった。
 秘密のサイトが封鎖されている今の期間、何らかの情報が得られれば、次に備えることが出来るかもしれなかった。冴子は美咲に協力をして貰えるよう、良子を通じて頼み込むことを考えた。

 冴子を中心とした作戦グループは、美咲を加えて四人に増えていった。医師篠崎から情報を引き出す為のアイデアが四人の中で練られる。その中でも、美咲の大胆な発言は皆の驚愕を引き出していた。
 実際に篠崎医師と対面している美咲の発言には、説得力があった。美咲は、篠崎がチアガールのユニフォームに異常なまでの興奮を示すという。それは、美咲に薬を飲ませて眠らせ、チアガールの服を着させてあられもない姿態の写真を撮るところを目撃していた冴子にも同感に思われた。美咲の作戦案は、態とチアガールの格好をして見せて、篠崎を興奮させることによって、隙を出させ、喋ってはならないことを引き出させようというものだった。しかし、問題はどうやって、チアガールの格好をして篠崎と逢うという場面設定を作るかだった。今の時点では相手に怪しませてはならなかった。だからある程度自然な成り行きでなければならない。四人はそれぞれに思いつく限りのアイデアを出し合っていた。

 結局、最終的には美咲自身の案が採用されることになった。美咲は篠崎が指定した地下に個室のあるバーへ、以前に仕立て直した駒澤大チアリーディングクラブの衣装を紙袋に携えて、向かったのだった。篠崎が予約した店の隣のブースには冴子が手を回して部屋が予約され、冴子、良子、瞳の三人が待機して控えるということになった。
 その日の美咲は、それだけでもかなりセクシーなスリットの入った、純白のタイトドレスという出で立ちだった。その衣装を提案したのも美咲だった。美咲は男心をくすぐるにおいては天才的なひらめきがあったのだ。美咲は篠崎がそのセクシーなドレスをあまり気に入らないだろうことを読んでいたのだ。

 何杯目かのグラスを重ねた後、美咲はいよいよ切り出すことにした。
 「ね、篠崎さん。この前あった時、私、チアリーダーのユニフォーム着て寝てたでしょう。何時の間に着替えたのかなって、不思議だったんだけど・・・。」
 美咲は篠崎に鎌を掛けるように、しかしあまり疑り深くならない口調で軽くそう尋ねる。篠崎の顔に明らかな動揺が走るのを見逃さない。
 「あ、あれは・・・。た、たしか僕も酔ってて、よく憶えてないんだけど、君が着て見せてあげるって言ったんじゃなかったかな。」
 実際には美咲は薬で眠らされていて知らない。だが、冴子からその時の様子は聞かされていたのだった。
 「やっぱり。そうじゃないかと思った。私、酔いが回るとつい調子が乗っちゃうの。」
 おどけた表情でそう言うと、明らかに篠崎は安堵の表情を見せた。それを確認すると畳み掛けるように美咲は続けた。
 「実は、今日も持って来ちゃった。じゃん、ほら。」
 そう言うと、傍に置いておいた紙袋からユニフォームの上着を取り出して広げてみせる。
 篠崎の顔は赤くなってきている。動揺しながらも興奮してきているのが美咲には手に取るように判る。
 「ねえ、着替えて来ようか。好きでしょ、この格好。」
 美咲は相手の思いを見透かしているかのように、謎めいた表情で上目づかいに篠崎を見上げる。篠崎の喉がゴクンと鳴るのが感じられた。
 「ええ?・・・着てみせてくれるの・・・。」
 美咲には篠崎が一生懸命に平静を装おうとしているのが判る。
 「ちょっと待っててね。トイレで着替えてくるから。」
 そう言うと、美咲はコートと紙袋を手に、席を立つ。独り残された篠崎は興奮を覚まさせるように、水を口にする。

 トイレで美咲は良子と落ち合う。篠崎と美咲との会話は美咲のハンドバッグに隠されたマイクですべて隣のブースの三人に筒抜けになっているのだ。
 「大丈夫?美咲。あまり無理しないでね。」
 「大丈夫よ。任せておいて。私、こういうの、得意なんだ。男を手玉に取るってやつ・・・。」
 良子は何度か美咲と合コンなるものに出たことがあり、美咲の言っていることが実感できる。天性の性格なのだろうと良子はいつも思っている。
 個室でさっとチアガールの格好に着替えてしまうと、さっと上からコートを羽織る。
 「じゃ、行ってくるね、良子。」
 そう言うと、飛び跳ねるように、篠崎の待つブースへ消えていった。

 「どう、やっぱり似合うでしょう。」
 美咲はコートを広げて、その下のチアガールの格好を見せつけるように篠崎に顕わにする。
 短いスコートから大胆に出した太腿は、わざとストッキングを着けない生脚にしている。美咲は男が何を欲しているか、本能的に判っているのだった。
 その生脚の膝を篠崎の座った膝にわざと当てるようにして座ると、美咲はテーブルのグラスを二つ取り、ひとつを篠崎に渡す。
 「じゃ、もう一度、かんぱ~い。」
 美咲は巧みな話術で篠崎の緊張を解いてゆくのだった。

 「ね、私もこういう格好するのって、好き。コスプレっていうのかな。何か、いつもの自分と違う自分が出せちゃうっているか・・・。篠崎さんも好きでしょう、この格好。」
 上目遣いに見上げると、篠崎も嘘がつけずについ本音が出てしまう。
 「実は、そうなんだ。」
 「男の人って、大抵そうよね。チアガールとか、バニーガールとか・・・。」
 美咲は巧みに言葉で誘いを掛ける。
 「人によって違うみたい。僕はバニーガールはあんまり好きじゃない。やっぱり一番は、チアガールかな。」
 「へえ、人によって寄って違うんだ。」
 「そうさ、僕はチアガールが好きだけど、ナースがたまらないって奴もいるし、中には剣道着が好きな奴なんているし・・・。」
 イアホンを当てている隣室の三人が突然緊張して顔を見合わせる。
 「剣道着なんて、何処がいいのかしら。」
 「聞いた話だけど、稽古着として下に穿く袴ってのがあるでしょ。あれって、脇のところが開いていて、そこから白い腿がちらっ、ちらって覗くのがたまらなくそそるらしい。」
 「へえ、初めて聞いた。そんな話。他には・・・。」
 「そう、やっぱり一番多いのは、警察官じゃないかな。婦人警官の制服。」
 美咲は自分自身が婦人警察官なので、一瞬どきりとする。が、すぐに表情を繕う。
 「へえー、ポリスウーマンかあ。今度私も着てみようかなあ。」
 「いや、美咲ちゃんはチアガールのほうが絶対似合うよ。うん、凄くいい。」
 篠崎は嫌らしい舐めるような目つきで美咲の身体を上から下まで見つめなおしている。
 「ねえ、篠崎さんはどういう処で、そういう話を仕入れているの。剣道着がいいとか、婦人警察官がいいとか。」
 「えっ、ああ、その、友達から聞いた話なんだ。なんでも、そういう趣味のものたちだけが集まって、書き込みとかしてるサイトがあるらしい。」
 「サイトって、インターネットのこと?わあ、興味あるう・・・。」
 「え~っ、駄目だよ。エッチなことも一杯書いてあるらしいから。」
 「え、エッチなこと。益々興味が沸いてきちゃうわ。どんなエッチなことなのかしら。」
 「いや、何。なんかさ、妄想みたいなことだけど・・・。自分の好きなキャラクタの格好させた女の子を山に放って、みんなで追いまわすみたいなこと・・・。ま、妄想だけどさ。」
 いきなり話が核心に迫り、隣室の三人に再び緊張が走る。
 「へえ、そんなこと空想すると、興奮しそうね。何か、私もこの格好で山の中走ったりして・・・。」
 「い、いや。ちょっと待ってよ。リアル・・・過ぎるよ。」
 篠崎は額いっぱいに溜めた汗をテーブルにあったおしぼりで拭いながら、水を飲んで興奮を抑えようとする。かなり動揺してきていて、それを抑えようと必死のようだった。

 「ちょっとおトイレ行ってくるわね。ちょっと待ってて。」
 美咲は切替が必要と感じて、機敏にコートを取って立ち上がった。

 「どうしよう。何を聞き出したらいい。」
 「そうね。出来たら、場所のこととか、どうやってそういうサイトに行き当たったかみたいなことに話が持っていけるといいんだけど。でも、無理はしないでね。急がないこと。徐々に安心させて、つい喋らせるのが一番いいのだから。」
 冴子はそうアドバイスする。
 その日は結局、それ以上の核心には迫れなかった。美咲は次もチアガールのコスチュームを持ってくるからと篠崎に誘いを掛けておくのを忘れなかった。

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