呼び止め

新任教師 美沙子





 十九

 次の日は漸くやってきた休日だった。その週は、美沙子にとって怒涛の一週間だったと言える。じっとして身体を休めたかったが、逆にじっとしているとその週の出来事がいろいろ思いだされてしまって居ても立ってもいられなくなってくる。それで美沙子は気分転換に街へ出てみることにした。それでもあのデパートだけは近づけなかった。
 駅前広場に立って、駅ビルのほうを見上げてみて、パーラーのガラス窓に気づく。
 (そうだ。あのパーラーに呼び出されてから、色んなことが始まったのだった。)
 美沙子はパーラーの窓際の席に目を凝らしてみる。あの席にミニスカートで脚を開いて座らされた事を思い出す。下着を丸見えにして脚を開かされていた自分の姿が目に浮かぶ。
 (ああ、何て事を・・・。)
 嫌な思い出を掻き消す為にその場から立ち去ろうとしている美沙子に声を掛けるものがいた。
 「おい、ちょっと・・・。おい、お前だよ。ちょっと待てよ。」
 まさか自分の事ではあるまいと思いながら振り向く。見覚えのある顔がそこにあった。あの時、将にあのパーラーで自分に窓の外に向かって脚を開くように命じたあの男だった。
 「やっぱりそうか。後姿が似ていると思ったんだ。やっと見つけたぜ。」
 男はそう言いながら近づいてくる。
 「お前の事、ずっと探してたんだ。もう一回、会いたくてね。」
 「何ですか? 私にはあなたに何の用もありませんけれど。」
 きっぱりそう言い切った美沙子だったが、早く逃げなくてはという一心だった。
 「そんな冷たい言い方、すんなよ。いろいろ一緒に愉しんだじゃないか。」
 「愉しんだ? 私が愉しんだとでも思っているの?」
 「ま、そう硬いことは言わないでさ。」
 「失礼します。」
 そう言って踵を返した美沙子だったが、立ち去ろうと動き出す前にその腕をしっかり掴まれてしまった。
 「ちょっと待てよ。大声出すと困るのはどっちかな。へへへっ。」
 男は厭らしそうな目つきで美沙子を眺めている。
 「ま、こんな人ごみの中じゃ何だから、もう少しひと目に付かないところで話そうか。」
 そう言って美沙子の腕を取って強引に路地裏に牽きこむ。そこはビルとビルにはさまれた狭い路地裏で、ひと気がない場所だった。
 「何をしようって言うつもり?」
 「もう一回、二人で愉しもうぜ。」
 「何を言ってるの。あの時は貴方が私の秘密を握っていると思っていたから言う通りに従っただけの事よ。だけど貴方は何も掴んでいなかった。」
 「うっ・・・。まあ、そうだけど。でも、お前はあの時、他人に知られたくない色んな事、したよな。俺は全部見てたからな。」
 「そ、そんな事・・・。何言ったって、証拠のない事でしょ。」
 「証拠? ・・・。ま、そう言われりゃそうだが。」
 その時、美沙子はひとつあることが閃いたのだった。それは、この男は自分を罠に落とし込んだ本当の犯人を知っているという事だった。
 「ちょっと待って。・・・。あなた、私といいことしようって言ったわね。」
 「ああ、言ったさ。だから・・・?」
 「貴方にいい事、してあげてもいいわよ。但し条件があるけど。」
 「じょ、条件・・・?」
 「そうよ、条件。・・・。SMプレイよ。ただし、今回M役はあなただけどね。」
 「SMプレイのM役だって? どういう意味だよ。」
 男はおどおどしながらも、興味深々という顔つきに変わってきているのを美沙子は見逃さなかった。
 「M役を演じるっていうんなら、フェラチオしてあげてもいいわよ。」
 男が突然(フェラチオ)という思ってもみなかった言葉を美沙子が口にしたのを聴いて、思わず生唾を呑みこんだのをしっかり確認していた。

 「あそこよ。大人のオモチャって書いてあるでしょ。あの地下の店に行って手錠を買ってくるの。2セットよ。それから目隠しに使うアイマスク。」
 美沙子は以前に通りがかった時に偶然目にしたことのある地下の大人のオモチャの店の前まで男を連れてきた。自分は入った事はないが、どんな物が売られているのかはだいたい想像がついた。
 「私はここで待っているから、行ってきなさい。もちろん、お金は貴方もちよ。」
 「わ、わかった。ちょっと待ってろ。」
 男はだいぶ気が急いているようで、興奮しながら店へ小走りになって向かった。

 「ここにしましょう。私はここで待っているから、あなた先に入って部屋を取ってきて。首尾よく鍵をゲットしたらこっちに向かって合図して。」
 「わ、分かった。」
 男は想像通り、ラブホテルで部屋を取るのは慣れている風だった。勿論、美沙子には未経験の事だ。だから、外で待っていて男に部屋を取らせることにしたのだった。
 暫く待っていると男がラブホテルの目隠しになっている塀から顔だけ出してOKのサインを指で示す。美沙子は辺りを見回して誰も見ている者が居ないことを確認してから、ゆっくりホテルの入り口に向かう。
 「4階の403号室だ。」
 男がエレベータを呼ぶボタンを押す。
 「待って。その前に両手を後ろに出してっ。」
 美沙子は男がホテルの部屋を取りに行っている間にチェックしておいた大人のオモチャの店で男に買わせた手錠を取り出す。
 「えっ、もうそいつを使うのかっ。」
 「そうよ。それが条件だと言ったでしょ。」
 そう言いながら、男の股間にズボンの上から手を伸ばす。男はゴクンと喉を鳴らす。すでにそこは硬さを帯び始めている。
 手錠の扱いにはもう慣れていた。手首に嵌めると抜けないようにきっちりとラッチを奥まで深くする。男の両手の自由を奪うと、降りてきたエレベータの庫内に男を促して乗込む。四階まで上がっていく間のエレベータ庫内でも、男のその気を高めるようにズボンの上から股間を弄る。

 部屋の鍵はカードキーを受け取った美沙子が男に代わって開ける。部屋へ促し、自分も後からついて入ると男は待ちきれないと言わんばかりにキスを迫ってきた。しかし、美沙子はそれを冷静に押しのける。
 「駄目よ、まだ。さ、これを着けて貰うわよ。」
 そう言って美沙子が取り出したのはアイマスクだった。男の視界を奪うと、胸倉を掴んでベッドのほうへ引き寄せ、文字通り押し倒す。目が見えない上に、後ろ手で自由を奪われている男は簡単にベッドの上へ転がった。
 「おい、乱暴すんなよ。」
 「乱暴? SMプレイって言ったでしょ。乱暴じゃないわよ。これは、プ・レ・イっ。」
 そう言うと、男の背後の手錠の鎖を掴みそこにもう一つの手錠の輪を掛ける。そうしておいて、その反対側の輪を鋼鉄製のベッドの枠の柱に嵌めてしまう。
 男の自由な動きを完全に封じてしまうと、やっと美沙子は緊張から解かれる。それまでは男から暴力で犯されてしまわないかと内心冷や冷やだったのだ。こうまで簡単に男が話しに乗ってくるかは自信が無かった美沙子だった。
 「おい、お前っ。まさか、俺を騙して財布から金だけ掏り取ろうってんじゃないだろなあ。」
 男はいささか不安になったようだった。
 「ふん、み損なわないで。貴方が私に掏り取られそうなお金を持っているように見えると思ってるの? そんな事ある訳ないでしょ。目的はここよ。」
 そう言うと、男の急所を手でぎゅっと力を籠めて握る。
 「あうっ。お、おいっ。もっと優しく握れよっ。」
 男は悲鳴を挙げそうだったが、確実に股間のモノは硬くなってきていた。それを確認すると、美沙子は男のズボンのベルトを緩める。男は募って来る期待に、興奮しているようだった。
 ズボンのチャックをおろし膝まで下げると、ビキニブリーフの下で早く出してくれとばかりに肉塊が大きく、そして硬く膨らんでいるようだった。ブリーフも引き下げると、ブルンと大きく触れながら、屹立したモノが天を向いた。
 「いい気持にさせてあげる前に、貴方には聴きたいことがあるの。」
 思いも掛けなかった問いかけに男は一瞬、不安な表情を見せる。
 「貴方にこの前、私を辱めるようそそのかした男の事よ。白状して貰うわよ。」
 「あ、だって・・・。お、俺、あいつの事は殆ど知らないんだよ。ほんとだよ。嘘じゃないって。」
 「どうやってそいつとは知り合ったの?」
 「知り合ったって言ったって、向こうから話しかけてきたんだよ。あのお前を呼び出したらしい喫茶店でだよ。俺はあそこの常連だから、何時ものようにあそこで珈琲を呑んで休んでたんだ。そしたらアイツの方から近づいて来たんだ。」
 「貴方の知ってる男?」
 「し、知らないよ。初めてあったんだ。向こうは俺を知ってたかどうかわからないけど。」
 「それで・・・?」
 「女といい思いをしないかって持ちかけて来たんだ。お前の命令なら何でも聞く女が居るってね。それで、どういう意味だっていうと、あの例の計画を書いた紙を見せられたんだ。あの日の計画が一部始終書いてあって・・・。」
 「それじゃ、あの日の事は全部その男が作ったシナリオに沿ったものだったって事?」
 「そ、そうだよ。俺がそんなシナリオ、思いつく訳ないじゃないか。第一、女が言う通りに縛られてタバスコ入れたオレンジジュースを言われた通り呑むなんて、そんなことがある訳ないと思ってたさ。」
 「ふうん、そう。それで、その男はどんな奴だった?」
 「どんなって・・・。帽子被って、黒いサングラスしてたし・・・。あ、そうだ。あの日、俺がしてたサングラスだって、そいつがしろって貸してくれたんだ。」
 「何歳ぐらいだった?」
 「うーむ、中年と・・・、老人の中間ぐらいかなあ。」
 「次に見たら、そいつだって分かる?」
 「顔はちょっと自信ないけど、声ははっきり憶えているな。」
 「ふうん、声、聞いたらわかるのね。」
 「ああ、多分間違えないと思うな。」
 「・・・・。本当でしょうね。あれ、そこに果物ナイフがあるわ。嘘言ってたら、アンタのここにぐさっと突き刺すわよっ。」
 「じょ、冗談やめてくれって。ほ、ほんとだからさあ・・・。勘弁してくれよお。」
 「そ、いいわ。今は・・・。信じとくわ。じゃ、そろそろ、お待ちかねでしょ?」
 そう言うと、一旦は萎えかけたペニスの裏側に指を這わす。途端にそのモノは天に向けて反り上がる。ペニスの下の陰嚢を手の平に握って何時でも握りつぶせる体勢にしてから、美沙子はいきり立つそのモノを口に含んだ。
 「ああっ、たまらん・・・。}
 口の中で男のそれは、更に硬さを増した。
 (ああ、これだわ。この感触・・・。)
 美沙子にはフェラチオという体験はこの男に強要されたデパートの男子トイレの個室の中が初めてだった。その時は、初めての事だったし、それまで強要されていた思いも掛けない事に気が動転していてどんなだったかはっきり憶えていない。しかし、この男と別れる直前に公園の水道栓に括り付けられて口に含まされた時には、二度目だったこともあってその感触は記憶に残っていた。男のモノとは口に含むとこういう感じなのかとしみじみ思ったのだった。美沙子は体育館で正体の知れない男のモノを口に含まされた時に何となく感じた疑惑を思い返していた。

 結局、男は美沙子の手と口で三度イカされていた。さすがに精を使い果たした風で、三度目に射精した後はぐったりして手錠を嵌められたまま寝入ってしまったようだった。
 男が寝入ったのを確認すると、美沙子は男の持ち物を検め、免許証から住所、氏名などを調べ上げてメモを取っておく。携帯の番号を確認しておくのも怠らなかった。
 (早川、幸男か・・・。使えるかもしれないわね。)
 それから美沙子は寝込んでいる男の鼻を思いっきり抓みあげる。男は息が苦しくなって途端に目覚める。
 「な、何するんだよお。」
 背中の不自由な両手を揺すりながら男が訴える。美沙子はアイマスクを外してやってから手にしたデジカメのレンズを男の方に向ける。
 「情けなく萎えちゃってるチンポを記念に撮っておいてあげるわ。リベンジポルノっていうんだったかしら。これは笑える画像だわ。ほらっ。」
 そう言ってシャッターを押すとデジカメが閃光を放つ。
 「や、止めろっ。こんな格好、撮るなっ。」
 今度は手錠の鍵を出して男の目の前に翳す。
 「私はこれでもう帰るから、貴方は自分で自由を取り戻すのよ。くれぐれも鍵をベッドから取り落とさないようにね。そうじゃないと、ベッドメーキングのオバサンに恥ずかしいところ、見られちゃうわよ。」
 そう言うと、手錠の鍵を男の前にポトリと落とす。二つ目の手錠でベッドポストに繋がれている男にはその鍵を手で拾い上げることは出来ないが、上半身を伸ばして口で咥えるのはぎりぎり出来る距離の筈だった。そこからどうやって、自分で手錠を外すかは男に自分で考えて貰うことにして、美沙子は悠々とラブホテルの部屋を出たのだった。

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