体育館

新任教師 美沙子





 十八

 「そこでそのまま待っていろ。」
 最後にその一言が聞こえた後、ツーという音が暫くしていたが、携帯はその後静かになってしまった。相手が電話を切って、こちら側も自動的に電源が切れた様子だった。
 ただ立っていても仕方ないので、後ろ手に拘束されたまま、美沙子は脚を折って床に座り込むことにする。短いプリーツスカートの下はノーパンなので床に着くと裸の尻が直接体育館の冷たい床板に触れるのが分かる。ちょっと気持ちが悪かったが我慢することにした。
 (あのメモは殿井に届いただろうか・・・。)
 一抹の不安が美沙子の脳裏をよぎる。その時、体育館の外側で微かな足音がしているのに気づいた。やがてバタンという音がして車のドアが閉められたような音が聞こえたと思ったらエンジン音がして、タイヤの音がだんだん遠ざかっていくのが判った。
 美沙子は体育館の裏側の一部は駐車場になっていたのを思い出していた。そこに停めているのは校長、教頭だけであとは来客用の駐車場になっている筈だ。美沙子が職員室の出退勤の札を返した時には教頭はすでに退勤した後だった。なので、今の物音は校長が帰った音に違いなかった。校長が帰ったと言う事は、よほどの事が無い限り、他の職員も既に帰宅したという事を意味していた。犯人はそれを待っていたのだということに漸く気づいた美沙子だった。校長が帰ったということは、殿井が既にフリーになって近くに待機している可能性が高いことも示していた。
 (いよいよ来るかもしれない)
 そう思って、身を引き締めようとしていた所に頭上で携帯着信音が鳴った。後ろ手に嵌めてしまった手錠のせいで、ステージの上までは手が届かなかった。目隠しをされているので手探りでステージ脇の階段を探し当て、半ば這うようにしてステージの上に置いておいた携帯を後ろ手に取り上げる。手探りで受信ボタンを押す。
 「聞こえていたら、携帯を手に持って、ステージの中央まで這っていけ。」
 さっきと同じボイスチェンジャーを通したくぐもった声だった。音はスピーカーホンにしてあったので、はっきり聞こえていた。
 「聞こえています。今、そちらに向かいます。」
 体育館の外は既に真っ暗の筈だ。体育館内は幾つか常夜灯が点いている筈だがアイマスクを着けさせられた美沙子には真っ暗闇でしかない。それでもステージの縁の感触だけを頼りに美沙子はステージ中央へ急いだ。美沙子がほぼ中央へ到達した時、突然明るいライトが自分を照らしだしたの感じた。アイマスクの縁から少し光が洩れているからだ。
 (照明用のスポットライトで照らしているに違いない。)そう美沙子は判断した。
 「背中の手錠を突き出してよく見せろ。」
 犯人は美沙子がちゃんと手錠を掛けたかどうかを確認しようとしているのだと気づいた。光が差してきているらしい方に背中の両手を伸ばして翳す。
 「手錠は言われた通りきっちり嵌めています。」
 美沙子は後ろ手に持った携帯のマイクに向かってそう話しかけた。
 「ようし、いいだろう。そのままそこで待っていろ。」
 そう答えが返ってくると、さっきと同じようにツーという音がして電話が切れる。美沙子が後ろ手錠でステージ上に蹲っていると、やがてカツ、カツとゆっくり近づいてくる足音が聞こえてきた。
 (誰か近づいてきている・・・。)
 しかし両手も視界もままならない美沙子には何も身構えることすら出来なかった。

 いきなり髪の毛を掴まれ、顔を上げさせられた。
 「何をするのです?」
 しかし返事はなく、今度は鼻を思いっきりつままれた。息が苦しくなり思わず口を開けるとそこへ肉の塊が突っ込まれる。
 「あぐぐぐっ・・・。こほこほっ。」
 つまんでいた鼻は放された代わりに、今度は口が肉棒で塞がれる。男が無理やりペニスを咥えさせているのだということはすぐに気付いた。手錠を掛けられた両手では何も抵抗出来ない。顔を背けることさえ、しっかりと掴まれた髪を抑え込まれているので出来ないのだった。ただ、受け入れてしゃぶるしかなかった。
 最初は男が美沙子の頭を前後に揺さぶっていたが、次第に口が慣れてくると自分のほうから頭を振り始める。その方が楽だったからだ。どうせ逃れられないのなら、早く終わらせたほうがいいと美沙子は考えた。それと同時に、フェラチオをしながら何かを思い出そうとしている自分に気づいていた。
 (何かしら、この感覚。何だったのだろう・・・。あれは、たしか・・・。)
 美沙子が何かを思い出す前に、口の中の肉棒は暴発した。熱いものが口の中に溢れる。美沙子の髪を掴んだ手は、美沙子が口を離すのを赦さなかった。舌を動かすと、ねばねばしたものが口の端から流れ出る。しかし後ろ手錠の美沙子にはそれを拭うことも赦されていない。口の中のペニスが最後にドクッと液を放つと、漸く男は髪をつかんでいた手を放し、ペニスを抜き取る。
 「ぷふっ・・・。むむむ・・・。」
 短いフレアスカートから剥き出しになっているらしい自分の太腿に口から垂れたものが滴りおちるのを感じたが、美沙子にはどうにも出来なかった。男が身支度を整えているらしい気配がする間も、美沙子の方は何もすることが出来ず、ただ下を向いて、口の中のものを吐き出していた。
 それから男は美沙子のすぐ背後に立ったらしかった。美沙子の方にしゃがみ込んできた気配を感じたと思ったら、首に何か巻かれた。あの強制デートをさせられた日に駅前の喫茶店を出てすぐ、ペットショップで着けさせられた首輪を思い出した。
 (首輪を嵌められようとしている・・・。)
 その最中に、ジャラジャラという音がしていて、首輪には鎖が付いていることが音から推測された。その鎖が急に強く引かれた。アイマスクで視界もままならない中、美沙子は強引に立上らされた格好だった。その後もぐいぐい牽くので付いていくのがやっとだった。
 真っ直ぐ牽かれていた首輪の鎖が急に下方向に引っ張られた。咄嗟に階段に来たのだと美沙子は悟る。おそるおそる片足を伸ばして階段の最初の角を爪先で感じ取ると、そおっと一歩目を踏み下ろした。
 階段を降りきると、今度はまた横のほうへ引っ張られていく。美沙子には方向感覚もなく、ただ牽かれるままにすり足でついていくしかなかった。数10mぐらいは歩いたかと思うとぴたりと止まった。何かしているらしいのだが、美沙子には見えない。そのうち、男が離れていくのが足音で判った。
 「え、何処へ行くの?私を置いていくの?」
 しかし返事はない。音がかなり遠くなったと感じた頃、こんどはカラ、カラ、カラという乾いた金属音がし始めた。
 (何の音だろう・・・。)
 何も見えない美沙子には不安しかない。その内、美沙子の首輪に付けられていた鎖らしきものがズルッと動く気配があったと思うと首が微かに引っ張られるのを感じる。遠くでは相変わらずカラ、カラ、カラという音がし続けている。更に首輪がどこからか引っ張られる。
 (もしかして・・・。)
 美沙子が引っ張られるのと逆方向に身体を動かしてみようとすると、それをさせまいとするかのような力が首輪に掛かった。しかもその力は美沙子をある方向へどんどん引っ張ろうとしている。
 (つ、吊られている・・・。)
 漸く美沙子も音の正体に気づいた。体育館に入って来た時に中央の試合用のバスケットゴールが下げられていたのを思い出した。カラ、カラ、カラという聞き覚えのある音はバスケットゴールを収納する際に持上げる時の鎖の音だと気づいたのだ。
 (バスケットリングから吊るされようとしているのだわ・・・)

体育館4

 美沙子は逃れようと身体を動かしてみるが、既に首輪の鎖はかなり巻き上げられていた。次第に上へ、上へと引っ張られていく。美沙子は首が苦しいので、鎖が巻かれる度に吊りあげられていく真下の方へと動いて行かざるを得ない。とうとう美沙子の首輪に繋がれた鎖はまっすぐ真上へ向かって行くところまで巻き上げられてしまった。美沙子が苦しいので爪先立ちに成りかけたところでカラ、カラという音が止まった。最早、どちらの方向にも一歩も足を踏み出せないことが判る。
 再び男が近づいてくるのが足音でわかった。
 「ねえ、どうしようって言うの。」
 返事は期待していなかったが、やはり答えはなかった。
 突然、男がスカートの中に手を入れてきたのを感じた。
 「あ、いやっ。」
 逃れようとしても首輪が動くのを阻止し、両手は後ろで繋がれているので防ぐことも出来ない。男は掌を返して美沙子の裸の陰唇を手の中に掴んだ。くの字に折れ曲がった中指が割れ目に食い込んできた。しかし、美沙子にはどうすることも出来ない。唇を噛んでただ耐えるしかなかった。今度は親指が陰唇の上側のクリトリスの辺りをこねまわしはじめる。中指は相変わらず割れ目の深く食い込んで離さない。
 「ああ、やめてっ・・・。おかしくなりそう。」
 しかし男の手は止まらない。それどころかどんどんピッチが速くなってゆく。
 「ああ、駄目っ。やめてぇっ・・・。」
 美沙子の必死の懇願にも関わらず、男の執拗な股間への責めは激しさを増していたのだが、突然、その手が止まった。
 (えっ、何・・・。)
 美沙子が嫌な予感にかられながら訝し気に気配を窺っていると、男の指がもう一度だけ動いた。その時に、美沙子は自分の身体が思いも掛けない音を発したのを聞き逃さなかった。
 ピチャッ。
 それは間違いなく、自分の陰唇の中から発せられた音だった。
 (嫌っ、そんな・・・。)
 男のふうっーという溜め息は、そんな美沙子を嘲笑っているかのようだった。男は美沙子の陰唇から指を抜き取ると、何かをしている気配だった。一方の美沙子は恥ずかしさに声も挙げられなくなっていた。そんな美沙子はそのすぐ後に股間に異変を感じることになる。男の指が再び美沙子の陰唇に突き立てられたのだった。二本の指は最初は冷やっとする何かドロッとしたものを当てたようだった。それが次の瞬間、かあっと熱い感触に変わった。
 (何、これっ・・・。)
 二本の指は、何かを絡めとっては美沙子の陰唇に塗り込めていくようだった。
 「い、嫌っ。何をしてるの・・・。やめてっ。」
 しかし、男はもう一方の手で美沙子の陰唇を左右に分け広げると、もう一方の手の指で美沙子の陰唇に何やら丹念に塗り込めていく。最初にかあっという熱い感触だったものが、次の瞬間には猛烈な掻痒感に変わっていったのだった。
 「何っ、これ。ああ、痒いっ。痒いわ。いや、何、これっ・・・。」
 美沙子は陰唇を襲う猛烈な掻痒感に我慢出来ず、何とかその痒みから逃れようと片足を交互に持ち上げて陰唇の痒みを逸らそうとするが、足を上げたぐらいではどうにもならなかった。
 「ああ、何をしたのっ。痒くて堪らないわ。ああ、気が変になりそう。ああ、痒いっ・・・。」
 美沙子は股間の疼きに悶え苦しむのだが、自分では痒みをどうすることも出来ない。後ろ手に手錠を掛けられた両手の指を、鼠蹊部から陰唇のほうに伸ばそうとするのだが、どうしても痒みの中心にまでは指は届かないのだった。
 「ああ、助けて・・・。気がおかしくなりそう。」
 美沙子はそう叫びながら身悶えしている。男はその格好を愉しむかのように見守っている。
 「お、お願い・・・です。な、何とか・・・してく、ください・・・。」
 その時、カチンという音が聞こえ、その後何かがブウーンという振動と共に動き始めたのを感じた。その振動の元らしきものが美沙子の股間に押し当てられた時に、思わず愉悦の声を洩らしてしまう。
 「ああ、いいっ・・・。」
 心地良い振動が地獄のような痒みを癒し始めていた。美沙子は思わず、不自由な脚を出来る限り開こうとする。すると、その振動の元は美沙子の痒みの中心である陰唇の奥へと滑り込んできた。
 「あううっ・・・。」
 何だか分からないものの、激しい痒みが癒される心地良い振動に美沙子は我を失いそうになる。
 「ああ、もっとしてっ・・・。」

バイブ責め

 美沙子は自分の股間に挿入されたらしい何物かに、身をゆだねて腰を振り始めた。しかしその愉悦は長くは続かなかった。突然、いきなり股間に挿入されたものはすっと抜き取られてしまったのだ。
 「何、いやっ。抜かないで・・・。ああっ、痒いっ。」
 折角癒された痒みがまた猛然と美沙子を襲ってきたのだ。
 「お、お願いしますぅ。そ、それを当てて・・・。」
 一旦癒されただけに、再度襲ってくる掻痒感は前より一層焦燥感を煽るのだった。その悶え苦しむ様を嘲笑うかのように、振動している棒状のものを今度は太腿の内側に当ててきたのだ。もう少しで痒みの中心である陰唇に届きそうで届かないことに一層の焦燥感を募らせる。
 「お願い・・・。意地悪しないで。それを当ててっ。ああ、痒いの。痒くてたまらないの。お願いだから焦らさないで・・・。」
 一旦太腿の中間あたりに押し付けられていたモノが、外された。男が美沙子の傍で動く気配を感じた。と、その直後、背後の尻の下から振動するそのモノが突き立てられたのだ。
 「ああっ、いい。いいわ・・・。」
 背後から突き立てられたそのモノの先端はクリトリスの裏側あたりを激しく刺激する。
 「あ、駄目っ。そんなにされたら洩らしちゃう・・・。ああ・・・、ああっ・・・。」
 あまりの刺激に、美沙子はもう羞恥心をかなぐり捨てる限界まで追いやられていた。
 (もう、駄目っ・・・。イッてしまう・・・)
 何かが自分の内股を伝って流れ落ちたのを美沙子は感じていた。

 その時、男が突然ビクッと身体を動かした。
 (何? 何があったの・・・。)
 何かの急変が起こったような雰囲気だった。美沙子の股間から振動する棒のようなものを抜き取ると、足音を大きく立てて男が走り去っていくのが判った。
 そのすぐ後、男が走り去っていったらしい方向から声が聞こえてきた。
 「おーい、そこに誰か居るのかあ。」
 間違いなく殿井の声だった。チラ、チラとサーチライトのような光が自分の方に当てられているのをアイマスクの縁越しに感じる。
 「た、助けてっ・・・。」
 「高野・・・君。君なのか。何と言う格好をしてるんだ。」
 「ああ、見ないで。みないでください・・・・。」
 突然、羞恥心が戻ってきて、堪らなくなる。しかし、殿井に助けて貰うほか自由の身になれる術はないのだった。
 殿井がそっとアイマスクを美沙子の頭から外す。薄暗闇にまだ目が慣れなかったが、やはりバスケットリングから鎖で吊るされているのがだんだん見えてきた。
 「手錠を嵌められてるんだね。」
 殿井が美沙子の背後に回って両手首に嵌められているものをチェックしている。美沙子は自分の下半身をみて、はっとなる。スカートの裾が腰の部分にたくし上げられていたのだ。
 「あ、あの・・・。スカート・・・を直して頂けませんか。」
 「うん?・・・。あ、これか。」
 一瞬ちらっと殿井はたくし上げられたスカートの下を見てから裾を元通りに下したのを美沙子は見逃さなかった。
 「あ、首輪のここが外せるようだ。」
 首輪と鎖を繋いでいる部分が茄環のようになっていて手錠を掛けられた自分には外せないのだが、殿井は美沙子の首に手を回して漸く首輪と鎖を解き放つ。
 やっと身動き出来るようになって、美沙子はその場にへなへなと腰を下ろす。まだ股間が痒みに疼いていて何とかしたいが、手錠を掛けられたままでは自分ではどうすることも出来ない。かといって、殿井に掻いて貰う訳にもゆかないのだった。その時、美沙子は薄暗い床の中に何か鈍く光るものをみつけた。
 「あれ、もしかして・・・。」
 「何だね。・・・。あっ、これはどうも手錠の鍵らしい。手を出してっ。」
 殿井は暫く美沙子の背後の手首をいじっていて、何とか手錠の鍵を外す。片方の手が自由になると、もう片方を殿井に任せておいて、自由になったほうの手を股間に当てる。掻きむしらずにはいられないが、殿井が傍に居るのでスカートの上から押し当てるだけで我慢する。
 「さ、こっちも外れたよ。」
 両方の手首から手錠が外されると、痒みに居ても立ってもいられない美沙子は股間を抑えたまま立上る。
 「殿井先生。ちょっと済みません。」
 そう言うと、体育館隅にある女子トイレに走って駆け込む美沙子だった。

 その日の夜は、殿井が車で送ってくれることになった。車中で予定の時間ぎりぎりまで校長室に呼ばれていた為に、自分の席には戻らず西校舎の屋上へ向かったという事だった。そして犯人が忍んでくると思って屋上へ上る階段のすぐ傍の教室に潜んでいたという。1時間待っても誰も現れないので、不審に思い、そおっと屋上を調べてみたが、美沙子も見当たらないので変だと思い、職員室に戻ってやっと置手紙に気づいたのだった。慌てて体育館へ走っていくと、誰かが立ち去るところだったという。後姿しか見えずすぐに見失ってしまい、開いていた一つの扉から中に入ってバスケットリングから吊るされている美沙子の姿を見つけたというのだった。
 「君には申し訳ないことをした。置手紙に最初に気づいてさえいれば・・・。」
 しかし、それは殿井のせいではなかった。それで殿井を責める訳にはゆかないと思う美沙子なのだった。殿井はどんな仕打ちを受けたのかは訊かなかったが、自分の姿を見た殿井には一目瞭然だった筈だと思い、美沙子も黙っていた。
 「呼出しはこれで終わりとは思えない。必ず再度、呼び出してくる筈だ。その時、今度こそ、そいつの正体を暴いて捉まえなくては・・・。」
 「わ、わかりました・・・。どうか、お願いします。」
 もう一度あんな目に遭うのは耐え切れない気持ちだったが、自分を囮にするしかこの脅迫地獄から逃れる手立てはないのだと思うと、殿井の言う通りにするしかないと思う美沙子だった。

 殿井に車で送って貰って、下宿先に帰って一人になった美沙子はベッドに横たわるとその日のことを思い返していた。自分を呼出し、辱めを与えたその男はとことん用意周到だった。本当なら今頃は、囮となった自分を襲いに来るところを潜んで待機していた殿井が捉まえて正体を明らかにしていたかもしれなかった。
 その作戦が上手く行かなかったのは、犯人が突然呼出し場所を変更してきたからだった。
 (もしかしたら、自分達の作戦がどういう訳か事前にばれていたのではないだろうか・・・。犯人は生徒のうちに居るかもしれないし、教職員の中に居るのかもしてないと殿井は推理していた。教室でノーパンで授業をしていた時に、何となく生徒たちからじろじろ見られている気がして、犯人はきっとこの中に居ると半分、確信までしていた。しかし、それは怪文書が事前に回っていたせいだった。確かに怪文書を回したのが犯人だったら、あの教室で自分のスカートの中を覗こうなどということはする筈がない。怪文書を回したのが犯人ではなく、偶然の悪戯だったというのも考えにくい。すると、生徒ではないのだろうか・・・。)
 美沙子は呼び出された後、自分が受けた仕打ちについても考えてみた。
 (携帯電話にボイスチェンジャーを使って電話して指示を出す。手錠とアイマスクを用意しておく。手錠を翳してみせろと指示して確認する。何とも用意周到だ。そんな事が、生徒の知恵でそこまで思いつくものだろうか・・・。)
 そこから先の事は思いだしたくもなかった。しかし、何か引っ掛かるものがあるような気もするのだった。
 (フェラチオを強要されて・・・。そして、どうしたんだっけ。そうだ。バスケットリングの昇降機を使って首輪で吊るされたのだ。そして・・・。ああ、思いだしたくないっ。)
 そこで美沙子の思考回路は停止してしまう。

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