新任教師 美沙子
十五
その夜、美沙子は早めに床に就くことにした。ベッドに身体を横たえたが、すぐに眠れるとは思えなかった。どうしてもその日の放課後に起きた出来事に頭が行ってしまうのだった。
(あんな事がある筈がない。あれは夢の中の出来事なんだ。)
何度もそう思おうと試みてみた。しかし、お尻の傷がまだ疼いていた。風呂に入る前に姿見で裸になった自分の後姿を振り返ってみて、お尻にミミズ腫れが出来ていて赤く痕が残っているのが判った。湯に浸かろうとしたが結局腫れが余計に痛くなるので、身体の前面にシャワーを浴びるだけで我慢することにした。特に股間は念入りに洗い流した。殿井に言われた言葉が気になっていたからだ。
(教務主事が代りにお仕置きをすれば、それで赦してくれると言っていたが、本当だろうか?)
美沙子は殿井が言った言葉を何度も胸の中で繰り返してみる。
(お仕置き、罰、折檻・・・。)
美沙子はまた殿井の前で裸になって縛られた自分を思い返してみる。あの時はああする他はなかったのだと何度も自分に言い訳をしてみる。殿井が自分を裸にして縛ったのは、慰み者にする為ではなかった。ただ、反省を促すために罰として尻に鞭を当てたのだ。それだけの事を自分はしてしまったのだから、ああいったお仕置きを受けるのは仕方のない事なのだ。殿井だって、自分を裸にして自由を奪ったが、犯した訳ではない。あくまで店長の代わりに罰を与える為に鞭を使ったのだ。そうだ、自分は犯されたのではなく、罰を受けたのだ。そう何度も自分に言い聞かせるように自分で自分の言葉を反芻していた。
お尻の痛みはもう大分薄らいではいたが、軽い疼きは残っている。腫れの後もまだくっきりと残っているのに違いなかった。美沙子はぐるっと身体の向きを変えてうつ伏せになってみる。パジャマのズボンをずり下げ、穿いていたショーツも膝の上まで降ろしてみる。剥き出しになった自分の裸の尻を想像してみる。今度は両手を背中に回して交差してみる。
(縛られていた時は、こんな感じだったかしら・・・。)
理科準備室で裸になって縄を打たれていた時の感じを思い出そうとしてみる。手首に回された縄が締まっていくのに、声を挙げそうになっていた。あの感じ・・・。
(マゾ、縛られるのに快感を覚える。そんな筈はない。そんな・・・・。縛られて、鞭で尻を叩かれて、感じてあそこが濡れていたなんて・・・。そんな・・・。)
背中で交差していた片方の腕を今度は胸元に回してみる。ベッドのマットレスに押し付けられた乳房に触れてみる。
(あの時、乳房の上と下を縄できっちり縛られて、乳房が挟まれて前にはみ出すようになっていた。あの時、こんな感じだったかしら。)
美沙子は自分の指で乳首をつまんでみる。
(こんな感じ・・・。ああっ、駄目っ。だめよ・・・)
その時、ふと我に返った美沙子はもう片方の手を股間に当てている自分に気づいた。
(いやっ、私・・・。何してるの?)
慌てて股間から手を離す美沙子だったが、自分の指がかすかに湿っているのにも気づいてしまった。
「さ、店長さん。自由にしていいですよ。」
気づくと美沙子は服を全部脱がされて後ろ手に縛られて床に座らされている。目の前に居るのは、殿井と誰か知らない太った男だった。
(この男が店長なのだろうか・・・。)
見上げた美沙子は目が合いそうになって、慌てて顔を伏せる。
「遠慮はいらないんですよ。だって、この女はマゾなんですから。虐められたほうが嬉しいんですよ。今ももうあそこは濡れてきている筈なんだから。」
「殿井さん、なんてことを言うのです。違います。私はマゾなんかじゃありません。」
「嘘吐きは罰を受ける必要があるんだ。そうだろ。今、この方がお前にお仕置きをしてくれるそうだ。待ち遠しいんだろ、な?」
「い、嫌です。赦してください。解いてください。」
「そうだ、店長。この女はフェラチオも好きなんですよ。どうです。この際だから、フェラチオもして貰ったら。そしたらもっと濡らすと思いますよ、あそこを。」
「嫌っ。やめて。出来ません、そんな事。」
「ほらっ、こっちを向け。これを見ろ。こんなになっちまってるんだ。さ、口を開けて咥えるんだ。」
「嫌です。出来ません。やめて・・・。ああっ・・・。」
何とか逃れようとするが、縄で雁字搦めに縛られていて身動きが自由にならない。必死で身体をのけ反らせて逃れようとする。身体がどこかに堕ちて行くような感覚がする。
(はっ・・・。夢だ。)
ベッドから身体が落ちそうになっていた。慌ててベッドの真ん中に身体を戻す。汗をびっしょり掻いているのがわかった。その時やっと自分が自分の部屋のベッドに寝ていたことを思い出した。窓をみると、もう薄らと明るくなり始めていた。
(何時、寝てしまったのだろう・・・。)
下半身に手をやると、パジャマのズボンとショーツは膝の上に下したままだった。下半身を剥き出しにしたまま何時の間にか寝込んでしまったらしかった。
美沙子が理科準備室で折檻を受けてから、何事もなくその週が過ぎ去ろうとしていた。なるべく殿井とは顔を合わすことを避け、同じ職員室に居る時でも極力殿井のほうは見ないようにしてきた美沙子だった。
殿井の方からも何も言ってきてはいないところをみると、デパートの店長からの問い合わせも止んだらしかった。それが、殿井が折檻される美沙子の後姿を撮った写真を見せたからなのか気にはなったが、美沙子はあの日の事は何も無かったかのように思い返さないことにしていた。そうしていると、あれは夢の中の出来事で、本当に現実にあったことではないように思えてくるのだった。
少し早めに学校へ出ようと下宿先の一軒家を出ようとして玄関脇に設置されている郵便受けに茶色い封筒が差し込まれているのを見つけてしまった。嫌な予感にかられる美沙子だったが、無視する訳にもゆかないと思った。郵便受けから二つに折った封筒を抜き取ると、再び家の中に持って入り、鋏で慎重に封を切る。中から出てきたのは怖れていたトイレを使用中の美沙子の首から上が無い写真のコピーだった。以前送られてきたものは殿井に預けてしまったので確認出来ないが、以前にも送られたのもののうちの一枚であるように思われた。それは(何枚でもコピーは出来るのだぞ)と言わんばかりのメッセージに思われた。
写真の裏には、定規で引かれたような直線で書かれた文字が並んでいた。
(今日も、先日のデートの時と同じミニを穿いてノーパンで出勤する事)と書いてあった。美沙子はデパートの店長の一件は片付いたが、自分を脅している犯人の方は依然として存在している事を改めて知らされた格好だった。その日はリクルートスーツ風の膝丈のダークスーツを着用していた。もう着替えている余裕はなく、男に指定されたミニ丈の薄黄色のスーツを大き目の紙袋に突っ込むと、送られてきた封筒と共に持って出ることにした。
朝の職員会議にはその日は殿井も姿を見せていた。美沙子は本来は音楽が専門だったが、国語の教員免許も持っていて、偶々産休で補助教員が居ない為に週に数回だけ国語の授業も受け持つことになっていた。その日は、朝の一枠目は空き時間ではあったものの、二枠目には国語の授業が入っていた。美沙子は朝一番の空き時間に教務主事に相談に行くことにした。教務主事の殿井から、もし次に脅迫の手紙が届いたら必ず相談に来るようにときつく言い渡されていたからだ。殿井の言うことは無視する訳にはゆかない美沙子だったのだ。
「殿井先生。ちょっと宜しいでしょうか。」
一時間目の授業が始まる時間を過ぎてから、そっと職員室を出た美沙子は他の教師たちには気づかれないように理科準備室のある西校舎へやってきたのだった。手には脅迫めいた指示が書かれた新たな写真が入った封筒と、その指示にあるミニのスーツがいれてある紙袋を提げていた。
「やっぱり君か。入りたまえ。浮かない顔を朝からしていたので、何かあったなとは思っていたんだ。」
「殿井先生。済みませんが少々お時間を頂きたくて。」
「ああ、いいとも。必要なら今回もドアには鍵を掛けておきたまえ。」
いつもの回転椅子に座ったまま殿井は美沙子に指示をする。美沙子は鍵を掛けることを一瞬躊躇ったが、もしもの事を考えて言われた通り内側から鍵を掛けて殿井の前に来る。
「君が来たということは、また何か脅迫文が届いたんんだな。」
「ええ、そうです。」
何もかも見透かされているのだと、美沙子は思い知らされた。
「実は、これが今朝届いていました。」
美沙子は紙袋から既に開封してある封筒を取り出すと殿井に渡す。
「ふうむ。なるほど・・・。」
殿井は美沙子の前で封筒から写真のコピーを取り出すと、しげしげと眺めてから裏の文字を読んだ。
「で、君の来ている服はミニとは言えないから、男の指示には従っていないんだな。」
「ええ。でも持ってきてはいます。殿井先生にまずは相談してからと思ったものですから。」
「そうか。」
殿井は宙を睨みながら少し考えている風だった。美沙子は黙って殿井の意見を待った。
「これは犯人を捜し出すいいチャンスかもしれない。今日は一日、この脅迫状の指示の通りにしてみるんだ。犯人は学校関係者かもしれないし、ひょっとすると生徒のうちに居るのかもしれない。」
「生徒のうちに・・・ですか? まさか、そんなこと・・・。」
「学校にこんな格好をして来いというからには、そういう格好で居るところを確認出来る人間だと言う事だろう。そうなると、学校関係者か生徒しか考えられない。男の指示に従う振りをして、周りの様子を覗うんだ。犯人は何か仕掛けてくる可能性がある。それこそ、犯人を割り出すチャンスになるかもしれない。」
「そ、そうですか。わかりました。では着替えてきます。」
「いや、今ここで着替えたほうがいい。着替えているところを誰かに見つかるとまずい。君としても何も知らない他の人には極力気づかれないほうがいいだろう。」
「でも・・・。」
「私だったら、向こうをむいていてあげるから大丈夫だ。それに脱いだパンティだって、その辺に置いておいて、もし誰かに脱いだパンティがあることが知れてしまったりしたら大変な騒ぎになってしまう。」
「あの、ロッカーがありますから。」
「甘いな、君は。教職員のロッカーってのは、校長とか公務整備員とか何人もスペアキーを持っているのだよ。何かあってからじゃ遅いんだからね。」
「わ、わかりました。今ここで着替えさせて頂きます。」
「それから今日、着てきた服は朝の職員会議で他の先生に見られているから、珈琲を誤って溢してしまったので、ロッカーに置いておいたスペアの服に着替えたんだとでも言っておけばいい。」
「わかりました。それでは今、着替えますので。」
美沙子は殿井が言った通り、自分に背を向けるのを待ってからスカートを脱いで薄黄色のミニに穿き替える。上着のジャケットも着替えてから最後にスカートの中に手を入れてストッキングとショーツを一緒に脱ぎ下す。下着を着替えたスーツの下に潜り込ませようとしていると美沙子の背後から手が伸びてきて袋ごと奪い取られる。
「あっ、それは・・・。」
「大丈夫。誰にも見つからんように私が隠しておいてあげるから。」
そう言うと、殿井はその袋ごと机の脇にあるキャビネットに突っ込んで鍵束から鍵を出して施錠する。
「心配しなくても、このキャビネットは合鍵は誰にも預けてないから私以外は開けられないのだよ。」
「そ、そう・・・ですか。」
美沙子はストッキングだけでも身に着けようか迷っていたのだが、その前に袋ごと殿井に奪われてしまった形になり、スカートの下は文字通りのノーパンになってしまったのだった。
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