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アカシア夫人



 第三部 忍び寄る男の影



 第三十四章

 夫の和樹は結局、三晩、家を空けて山荘に帰ってきた。蓼科での孤独な生活に慣れてきたこともあって、貴子には夫が居ない日が苦痛でもなくなってきていた。むしろ、夫が帰ってきている晩のほうが、不安に感じることさえあるのだった。
 その晩、夕飯を久々に一緒に採った後、それぞれの寝室へ戻っていたのだが、その貴子の寝室へ夫が忍び込んできた際には、貴子は何か嫌な予感を感じたのだった。
 「今日はちょっと趣向を変えてみようよ。」
 そう貴子の耳元で囁いた後、当然のことのように貴子の両手を後ろ手に縛り始めた。それを跳ね除けることが出来ない自分に貴子はすでに気おくれを感じていた。和樹は縛り終えると貴子には何も断ること無しに、いきなり後ろから目隠しを嵌めてきた。何時の間にかちゃんと用意されていたものだった。和樹が今回は何をしようと企んでいるのかも判らずに不安なのに、目隠しをされて視界を奪われると、不安は一層募るのだった。
 「ね、何をするの。おしえて・・・。」
 和樹に嫌がられないように、優しく言った貴子だったが、和樹は答えようとしない。既に和樹が好みのネグリジェに着替えていた貴子は、和樹から肩を掴まれて抱き起こされた。
 「今晩はロフトに行ってしよう。」
 そう耳元で囁くと、和樹は貴子をベッドから起き上がらせる。ロフトの場所は自分の家だからしっかり頭に入っている。和樹が肩を捉えて促しているので、それに従って歩み出せば目隠しされたままでも、辿り着けるのは間違いないと貴子は思う。しかし、それなら何故、目隠しをされなければならないのかが不安なのだった。
 ロフトへ上がる螺旋階段は二階の廊下の奥にある。それを和樹に促されて一歩、一歩昇ってゆく。
 (絞首台へ送られる死刑囚はこんな感じなのだろうか。)
 ふと、貴子はそんなことを思ってしまう。
 ギィーっという音がして、和樹がロフトへ上がる蓋を持ち上げたことが判った。先に和樹がロフトに上がってから、手を伸ばして縛られたままの貴子の二の腕を掴み、上へ引っ張り上げる。貴子は、なるべく短いネグリジェから下穿きが丸見えになってしまわないようにするが、所詮は限度がある。あられもない格好になってしまっているであろうことは覚悟した。
 和樹は貴子をロフトの上に引っ張り上げてしまうと、目の見えない貴子を更に奥へと促してゆく。そして、4本ある柱のひとつまで貴子を引き寄せてくると縄尻を柱に括り付け始めた。
 「ね、こんな事・・・。何をなさろうとしているの。」
 「大丈夫さ。大分、緊張してるみたいだね。ちょっとお酒でも呑んで気を落ち着かせよう。」
 貴子は見ることが出来なかったが、ロフトには既に何か飲み物が用意されていたようだった。和樹が何かごそごそやっているのは気配で判るが、貴子には何をしているのか見る事も出来ない。

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 やがて、和樹が貴子の両肩に手を掛けて引き寄せるのが感じられた。と思うや、唇を奪われる。久々の接吻ではあった。しかし、それは普通の接吻ではなかった。和樹の唇から何やら貴子の口に注ぎこまれてきた。口移しに飲ませようとしているのだった。
 (うぐっ・・・。)
 一口飲み込んで冷たいビールだとすぐに判る。
 「ま、待って。」
 ゴクンと飲み込んで、慌てて貴子は和樹を制する。
 突然、ベッドに忍び込まれて、すぐそのままロフトまで連れ込まれたのだった。何をするつもりか判らないが、その前に用を足しておきたかったのだ。
 しかし、それを言い出す前に次のビールを含んだ和樹の唇が、貴子の唇に当てられてしまっていた。
 (う、うぐっ・・・。)
 ゴク、ゴクっと呑みこまざるを得なかった。
 (ま、まさか・・・。)
 貴子は嫌な予感が次第に現実のものになってゆくのを実感し始めていた。

 「ね、お願い。和樹さんが言うことは何でもするから。お願い、その前におトイレに行かせて、ねっ。」
 貴子はまだそれほどの尿意を催しているとは思っていなかった。しかし、このまま飲ませ続けられていると、どうなってしまうか、心配になってきたのだった。
 「いや、駄目だよ。限界まで我慢して貰わなくっちゃ。その時の顔が観てみたいんだよ。」
 貴子は最初、夫の和樹が何を言っているのか、全く理解出来ないでいた。何をしたいのか判らないが、何かのセックスプレイを試みるのだと思っていた。それがまさか尿意の限界を迎えさせたいなどとは思ってもみなかったのだ。
 「駄目っ、駄目よそんなこと・・・。」
 しかし、既に最早どうにもならない状況にまで追い込まれていることは認めざるを得なかった。夫が最初からそれを企んでいるとしたら、すんなり縄を解いてトイレに駆け込ませてくれる筈はなかった。そう思ったら、急に尿意が強くなってきてしまった。
 貴子は身体をぶるっと震わせた。股間に募るものを抑えようと力を篭めようとすると自然とそうなってしまうのだった。剥きだしの二本の脚を擦り合わせるようにして、尿意に堪えようとするのだった。

 「駄目よ。駄目だったら・・・。ああ、どうしよう。ああ・・・。」
 「大分、近づいてきたみたいだね。限界が・・・。そろそろかい。」
 「もう限界よ。駄目っ、早く解いて。出ないと・・・。」
 「そうかい。じゃ、縄を解くから、脚を開いて。」
 「えっ。早く解いて。」
 貴子は戒めから解放して貰えると思って、言う通り脚を少し開く。しかし、和樹は縄には手を触れずに、貴子の短いネグリジェの裾に手を突っ込んで、ショーツをさっと引っ張り下ろす。代わりに貴子の股間に何かを通したのだった。
 「何、なにするの・・・。」
 それは奇妙な感触だった。股間全体を何かで蔽われるのだ。生理のナプキンのようでもあったが、間違いなくナプキンではないと思った。
 「限界を迎えた時の顔が見えないから、目隠しは外すよ。」
 和樹はそう言うと、貴子の顔からアイマスクを優しく剥ぎ取った。
 「あ、貴方っ・・・。どうしたいの。私にどうしろと・・・。」

 目の前の和樹は、全裸だった。そしてその股間は貴子のほうを向いて屹立していた。
 「まだ、大丈夫なのか。まだ、我慢出来るのか。」
 「が、我慢、なんて・・・。で、出来る訳、な、無いわ・・・。」
 あまりの惨めさにうな垂れて、貴子は下を向いてしまう。しかし、和樹が近寄ってきて優しく貴子の顎に手をあて、顔を上向かせるのだった。
 「駄目だよ。最後の表情をちゃんと見せなくちゃ。」
 和樹の勃起した男根の先が貴子の腿に触れた。貴子は観念した。
 「ああ、もう駄目っ・・・。」

madam

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