理科室の悪魔
第三部
六十四
慌てて美津子は膝の部分まで下していたショーツを引き上げると教卓から滑り降りるのだった。スカートも引き上げて一礼をしてから教室を出ようとする美津子に向かって拍手とざわめきが沸き起こった。美津子にはそのざわめきは嘲笑のようにしか聞こえなかったのだった。
「いよっ、前島先生!」
理科の授業をする為に教室に向かっていた美津子はいきなり背後から背中を叩かれる。
「えっ? な、何っ・・・。」
振り向いた美津子の背後に居たらしい男子生徒がにかっと笑うと足早に美津子を追い抜いて教室の方へ向かっていく。
(あれは、確か・・・。今度の理科の授業の生徒だわ。いったい何だって急に・・・。)
走り去っていく男子生徒の背中を見送りながら美津子も足を進めようとしているところにまた背中を叩かれる。
「えっ、なあに・・・?」
振り向くと別の男子生徒だった。
「前島先生っ。理科の授業、愉しみにしてるよっ。」
それは美津子がかつて一度も掛けられたことのない言葉だった。
「どうしたの、急に・・・?」
その生徒も足早に美津子を追い抜いて教室の方へ走って行く。
「先生っ。」
背中を叩いてきたのは、又もやこれから授業をするクラスの男子生徒だった。
「どうしたの、君っ。」
「前島先生の授業、愉しみにしてるよっ。」
この生徒も同じような声を掛けては美津子を追い抜いて走っていく。
(何なのかしら? 今日に限って・・・。次から次へと。)
教室に入った美津子はクラス全体が何時もと違ってざわついているような気がした。
「みんな。静かに席に着いて。授業を始めるわよ。」
美津子の声で一旦教室は静まり返る。
「えーっと。前回の授業までで一通りの区切りの単元まで来ています。今日は来週から始まる中間試験の問題範囲について説明しておきたいと思います。」
そう言うと、黒板に向かってチョークで試験範囲を教科書のページで書き示していく。途端に教室内にくすくす笑いが起き始める。
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