理科室の悪魔
第三部
六十
翌朝、学校に登校して職員室に向かおうとしていた美津子は早速朱美達に廊下で遭遇してしまう。朱美と悦子の他は事情を知らない別の生徒たちだった。朱美たちと接するのは何としても避けたい美津子だったが後ずさりしようとした時には既に朱美と目線が合ってしまっていた。
「あら、前島先生。ごきげんよう。」
先手を打たれて朱美に挨拶されてしまった美津子はもう逃げる訳には行かなかった。
「お、おはようございます、皆さん。」
変なことにならなければいいがと心落ち着かない美津子に朱美の次のひと言はまさに冷や水を浴びせるようなものだった。
「先生っ。昨晩もあれをなさったの?」
「えっ、あ、あれって・・・。」
「やだわ、先生ったら。あれって言ったら、ほらっ。先生が直々に加代子に指導なさったあれに決まってるじゃないですか。」
すぐに美津子は朱美が昨晩オナニーをしたかどうか白状させようと迫っていることに気づいた。しかし朱美と一緒に居る悦子の他は事情を知らない筈の女生徒だった。美津子は咄嗟に何かうまい嘘を吐いてその場を逃れられないかを考える。しかし朱美達にはもう二度と嘘を吐かないことを宣誓させられていた。そして昨夜美津子は朱美達に散々辱めを受けられたことでどうしても自分を慰めないではいられなかったのだ。
「あ、あの・・・。そう。えーっと、し、したわよ。いつもどおりにね。」
美津子は事情を知らない筈の他の二人の女生徒等に何の事を言っているのか悟られないのを祈るしかなかった。事情を知らない二人の女生徒はきょとんとして互いに顔を見合わせて不審そうにしている。
「先生っ。昨夜は何か使ったの?」
美津子は朱美の問いがバイブを使ったのかという悪意に満ちた問いであることに気づく。しかし美津子はもう嘘を吐くことは許されていないのだった。
「え、ええっ。何時も通りにね・・・。最近はずっと使っているわ。」
「あら、いやだ。最近はずっとですって。ねえ、悦子。どう思う?」
「いや。私だったら、いつも使ってるなんて恥ずかしくてとても口に出せないわ。」
「ねえ、先輩っ。何の事を言ってるんですか?」
「ああ、貴女。香取さんの後輩なのね。そ、それはね・・・。個人勉強用の道具なの。先生なのに勉強用にそんな道具を使うのは恥ずかしいことだけど・・・。私もまだまだ勉強が足りないから、使っているのよ。」
「へえーっ。そうなんですか。勉強用の秘密兵器なんですね。今度、私達にも教えてくださいね。」
「えっ。あ、そうね。今度また、機会があったらね。それじゃ、私は職員室に行かなくちゃならないから。また後でね。」
美津子は背中に冷や汗を搔きながら職員室に小走りに向かう。朱美と悦子が何も知らない筈の二人に今の会話の種明かしをしていないことを祈るしかない美津子だった。
(ああ、この先あの娘たちに逢う度にあんな質問をされて私は正直に答えるしかないのかしら・・・。)
その日はそれ以上は何事もなく無事に終えた美津子だったが、夜一人になって悶々とせざるを得ない。そうなるとその後、何を前夜にしたのかを告白せざるを得ないと分かっていながらも自分を落ち着かせる為にどうしても愛用のバイブに手が伸びてしまうのだった。
次の日は再び香取朱美や奥津悦子等に出遭ってしまわないように少し早目に登校し、足早に職員室に入ってしまった美津子だった。おかげで苦手な朱美や悦子に朝は顔を合わさないで済んだのだが、下校時刻を大分過ぎてから美津子自身も退校しようとして校門に近づいたところでばったりその二人と出遭ってしまった。それはあたかも美津子の下校時刻を見計らって、校門を通るのを待っていたかのようだった・
「うっ・・・。あ、貴女たち。まだ校内に居たの? 下校時刻はもうとっくに過ぎているわ。早くお帰りなさい。」
「先生っ。それより明日はまた性教育の授業がある日ですよね?」
それを訊かれて美津子はどきっとする。
(そうだ。そうだったわ。またこの娘たちを前に性教育を教えなければならないのだ・・・。)
「そ、そうだったわね。」
「先生っ。下着は綺麗な汚れてないものにしてきてね。」
「えっ、何ですって?」
美津子は自分の耳を疑った。
「いやだ、先生ったら。何度もそんなこと、言わせないでっ。じゃ、先生、さようなら。」
「あ、さ、さようなら・・・。」
去っていく香取朱美と奥津悦子を見送りながら、ついその場に立ち竦んでしまう美津子だった。
(綺麗な下着で来てね・・・? 汚れてない下着で来て・・・だったかしら。何だってそんなことを私に言うの?)
それは美津子にはとても屈辱的に響いた言葉だった。明らかに自分を見下しているのだと感じた。
(あの娘たちったら、私が毎晩オナニーをして下着を汚しているんだろうとでも言いたいのかしら・・・。)
彼女等の先生として生徒から注意されるような言葉では決してあり得ない。そんな事を生徒から言われるような筋合いはないのだと自分に言い聞かせようとする美津子だったが、彼女等の言動には一抹の不安を拭いきれない美津子だった。
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