逆襲9

妄想小説

恥辱秘書






第九章 美紀の逆襲


 八

 施錠されていると思った屋上への扉の鍵はかかっていなかった。矢作もこの建屋の屋上へあがるのは初めてだった。そっと扉をすり抜けて入ると、奥のほうにこちらに背を向けた美紀らしい姿を認めた。
 ゆっくり音を立てないように近づいていった矢作だったが、美紀まで5mほどまで近づいたところで急に美紀が振り向いた。腕を組んで矢作を睨みつけていた。その視線と気迫に思わずひるむ矢作だった。
 「ここへ来た意味は判っているわね。貴方は自分のしたことの罰を受けるのよ。」
 「な、何だって。俺がなにしたって言うんだ・・・。」そう強がりを言った矢作だったが、最後のほうの声はかすれてしまっていた。
 「貴方はもうすぐ定年だったわね。あんなことが明るみに出れば、退職金は全部パアよ。どうする・・・。」
 「お、俺にどうしろ・・・と。」
 「早期退職制度があるでしょ。あれに応募して辞めて国に帰るのよ。そしたら長い単身赴任生活からも解放よ。」
 矢作も早期退職制度のことは知っていた。しかし、優遇を受けるのはずっと若い世代で、矢作のように退職間際の年代となれば、積み増しは殆ど無い。定年ぎりぎりまで貰える年収を考えると、最後まで会社にしがみついたほうが絶対徳の筈だ。

 矢作は顔を上げた。(こんな小娘の為に、今までの苦労を棒に振らなくちゃならないだと・・・)
 意味もない怒りがこみ上げてきた。
 「畜生、お前なんかの為に、・・・」そう口走ると、矢作は美紀に掴みかかった。

 それは、美紀には当然想定された成り行きだった。その為の動作も何度も練習した。芳賀に事前に渡されて、何度も使い方を練習した防犯用のスタンガンを胸元からさっと取り出すと、掴みかかってくる矢作の手の甲に当てた。
 「うぎゃあ・・」
 悶え苦しむ矢作の背後にすかさず回ると、美紀は矢作の首筋に再びスタンガンを当てる。
 「あうぅ・・・」
 この一撃で、今度は力なく一声を発しただけで崩れ落ち、気絶してしまう。倒れこんだ矢作の肩を引っ張り上げるようにして塀際まで矢作の身体を運び、芳賀に渡された二つの手錠で両手首をそれぞれ別々に欄干の手摺に繋いでしまう。
 屋上の塀際にバンザイの格好で繋がれてもたれかかるように気絶している矢作のポケットから美紀は鍵の束を抜き取ると、その場を後にする。勿論、屋上への扉を施錠するのも忘れない。

 美紀にはまだすることが残っている。矢作の席のある書類管理室の家捜しだ。机の抽斗の鍵、ロッカーの鍵は見当がついた。幸い、事務所は誰も居らず、忍び込んで矢作の机を開けても咎めるものが居ない。順に抽斗を調べ、ロッカーも調べる。それらしき物がないので、今度は鍵の束から単身赴任の独身アパートの鍵を探しだす。
 独身アパートは既に芳賀が調べていた。総務に明るい芳賀は、こういうところは痒いところに手が届くほど精通している。用意しておいた社用車に飛び乗ると、(用で外出する)と守衛に挨拶して、矢作のアパートを目指す。
 そして、さほど苦労することなく、背広などが仕舞ってある洋箪笥の奥に、妙に大事そうに書類袋にいれられたメモリーカードを探りあてたのだった。
 会社で下手に保管して誰かに見つかることを懼れたのだろうと思った。写真のコピーなども用心して取っていないことも判った。取り返すべきものを手に入れると、美紀は会社に舞い戻った。

 美紀が屋上に戻ると、既に矢作は正気に返っていた。が、誰かに見つかることを憚って大声も上げられないでいたようだった。
 美紀の姿を認めると、頑丈な手摺の鉄枠に嵌められた手錠をガチャガチャいわせて反抗しようとするが、両手を繋がれているのでどうすることも出来ない。
 美紀は傍まで来ると、手にしたメモリーカードをかざして見せる。
 「これは返して貰うわよ。」
 それを見届けると矢作ももう観念したようで、がっくり首をうなだれた。
 「さあ、これで田舎へ帰る決意がついたかしら。おとなしく退職すれば、あの証拠は明るみにはしないわ。私は約束は守るわ。だけど、貴方を自由にする前にしておかなくちゃならないことがひとつあるの。」
 そう言うと、さっと矢作の身体に近寄り、屈みこんで矢作の腰元を掴む。そして素早い手つきで、矢作のベルトを解き、ズボンのチャックをずり下ろしてしまう。
 「な、何をするつもりなんだ。」と慌てる矢作を尻目に、するするとズボンを脱がせ、つぎにはパンツにまで手を掛けてそれを膝まで下ろしてしまう。だらしなく垂れた矢作の陰茎が美紀の目の前に露わになる。美紀には目を背けたい憎き矢作の男性自身だった。が、それがいましも鎌首をまた上げようとしていた。
 括られた矢作の陰部を剥き出しにしてしまうと、一旦美紀は立ち上がった。手にはバッグから取り出したスタンガンをかざしている。矢作は恐怖に顔が引き攣る。
 「これは、今度貴方に変なことを考えないようにする荒療治よ。・・・何をするか判る?・・・これを貴方のそこに押し当てるの。・・・するとどうなると思う?」
 美紀は芳賀に教えられた通り、矢作に与える恐怖心を出来るだけ大きくする為にわざとゆっくりゆっくり諭すように話してゆく。見上げる矢作の額からは脂汗が垂れてきていた。

 「これを一回当てられると、それは激しい痛みが走るの。・・・でもそれだけじゃあないのよ。・・・その時の激痛の思いがいつでも蘇えってきて、貴方は一生、もう立たなくなってしまうの。・・・つまりインポよ。もう一生インポになって立たなくなるっていう訳。・・・あんなことをした貴方への罰としては、うってつけね。どう、・・・。」
 「や、やめろっ。やめてくれ。そんな、・・・なんでもするから、・・・ゆ、許してくれっ。」
 しかし、美紀は矢作の恐怖を煽るように、何度もなんどもスタンガンを矢作の目の前でかざし、矢作に恐怖心を焼き付ける。
 スタンガンによる衝撃でインポになるというのは、芳賀がでっちあげた嘘だ。しかし心理的な恐怖心を植えつけることで、精神的なインポになってしまう効果は持っていた。既に、矢作のそのモノは恐怖にすっかり縮こまってしまっている。

 「うぎゃあああ~・・・・」
 3度目の衝撃を股間に受けて、再び矢作は悶絶する。正気を失ったのを確かめてから美紀は矢作の手錠を外した。口から泡を吹いて倒れている矢作をそのまま残し、美紀は屋上を後にした。

 芳賀の席に戻ると、乾いた淡々とした声で一言、「終わりました。」と告げて、芳賀から借りた手錠、スタンガン、ビデオカメラの入ったバッグを手渡す。その中には幸江のはしたない格好が写ったテープも入っている。それを芳賀が何に利用するのかは、美紀は考えないことにした。美紀の痴態を修めたメモリーカードだけは自分の手に残したかった美紀だったが、芳賀がそんなことを許す訳がなかった。それは矢作のアパートから戻った美紀が、スタンガンを渡される際に早々に取り上げられてしまったのだった。

 翌日、書類管理課を訪れた美紀は、そこに居た女事務員から、矢作が急遽、早期退職制度を使って退職したのだというのを知らされたのだった。

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