妄想小説
恥辱秘書
第九章 美紀の逆襲
三
芳賀より先に5階に戻った美紀は、廊下の隅にある女子更衣室にそっと忍び込んだ。各人のロッカーが並ぶ中に幸江のものを見つけるのは簡単だった。そして幸江がロッカーに鍵を掛けていないことも知っていた。そこを開けると、いつも昼食時に幸江が持ってきているお茶を入れた魔法瓶をそっと取り出す。ポケットから芳賀に渡された薬包を出すと注ぎ口から中身を垂らし込み、よく混ざるように蓋をしっかり閉めてから静かに振る。そして何食わぬ顔でそれを元あった場所に戻したのだった。
そして昼休みが来て、いつものように、幸江と空いている会議室に弁当とお茶をいれた魔法瓶を持ち込み並んで食べ始める。
「ねえ、幸っちゃん。午後一番に重役から頼まれた書類探しを手伝ってくれない。急いでいるらしいんで、私一人で探していると間に合わないかもしれないんで・・・。」
怪しまれないように弁当をつつきながら、何食わぬ顔で芳賀に教えられた通りに幸江を誘う。
「ねえ、これ食べてみない。実家から送ってきた韓国製のキムチなんだけど、凄っく美味しいの。ちょっと辛いけど、病み付きになるわよ。」
そう言って、これも芳賀に事前に渡されて弁当の中に仕込んでおいたキムチの漬物を幸江に薦める。罠だと思いもしない幸江は、勧められるまま美紀の弁当から漬物をつまみ食べてみて、あまりの辛さに思わずお茶を飲み込む。勿論、これは幸江に多目にお茶を飲ませる為の手段なのだが、幸江はそんな企みがあるとは想像も出来なく、「辛いけど美味しいわね。」などといって、どんどん自分のポットからお茶を喉に流し込む。
昼休みが終わると、美紀は幸江に地下書庫のことを教え、自分は先に行っているから資料管理室へいって鍵を貰ってきてほしいと頼んで鍵のありかを幸江に教える。書庫前の扉で幸江の来るのを待って、二人して地下へ降りてゆく。書棚から古いファイルを何冊も取り出して、小さな事務机の上に積み、二人で順にファイルを開いていって、架空の書類を捜し始める。勿論実際には無い架空の書類で、幾ら探しても見つかる筈はないのだが、美紀は何食わぬ顔で真剣に探す振りをして、時々目をあげて、幸江の様子を観察する。
「書類探しって、退屈で眠くなるわねえ。」といいながら軽い欠伸をする幸江を見て美紀は頃合いだと判断し、携帯電話を机の下で繰って芳賀に合図のメールを送る。
暫く間をおいて、美紀の携帯が鳴る。勿論芳賀からの示し合わせておいた電話である。
「あ、幸っちゃん。ちょっとごめん。」と言って席を立ち、架空の電話を装う。
「あ、はい。はい、わたしです。・・・え、今からですか。・・はい、すぐに。」
目の前の幸江は半分こっくりを漕ぎ始めている。
「ねえ、幸っちゃん。重役に呼ばれちゃった。ちょっと行ってくるから、お願い。探すのやっててくれない。終わり次第戻るから。」
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