逆襲6

妄想小説

恥辱秘書






第九章 美紀の逆襲


 六

 ストロボに眩んだ目に手をやりながら、もう何も考えることが出来ずに、矢作はただひた走りに走ってその場から逃げ去ったのだった。

 後に残された美紀は、最後の演技に深く息を吐いてから、意を決して螺旋階段に向かった。

 「幸江っ~。幸江っ~。大丈夫~。」大声を上げながら螺旋階段を駆け下りる。泣きじゃくる幸江の肩を抱くようにして後ろ手のストッキングを解く。幸江を抱きかかえるようにして立たせると、膝まで下ろされた下穿きを引き上げてやり、肩を抱いて螺旋階段に導く。

 足元の覚束ない幸江を何とか階段の上まで引き上げ、ドアを開けて外に出た頃には、美紀の仕込んだ発炎筒の煙ももう燃え尽きようとしていた。火災報知器の音は何時の間にか止んでいたが、それも美紀が地下へ降りる前にスイッチを切って止めたものだった。
 外に出た美紀は手にしたバッグにたまたま入っていたかのように装って、爪切りを取り出し、幸江の両手の戒めを解いてやる。

 幸江を工場の隅にあったベンチに腰掛けさせ、(様子を見てくるからここで待っていて)と言って、再び地下書庫へ独り戻る。勿論、矢作が戻ってくる前にビデオカメラを回収しておくためだ。そして燃え尽きた発炎筒も袋にいれて回収する。慌てて走って逃げた矢作が落としていったベルトも、後で動かぬ証拠として突きつける為に回収する。

 幸江のもとへ戻った美紀は、優しく肩を抱いて、気分が落ち着くのを待ってから、そっと話しかけたのだった。
 「火災報知器の音で私も慌てて走っていったのよ。誰かが書庫の戸から出て行ったみたいだったけど、顔は見えなかったわ。下を見たけど、何かの煙を感知して鳴り出してしまったようだけど、火事じゃなかったみたい。灰皿の不始末か何かみたいね。・・・
 「ね、大丈夫・・・。私、何も見なかったことにするから、あなたも誰にも言わないほうがいいと思うわ。犯人は見つかるかどうか判らないし、あなたが傷つくだけよ。」
 そういうと、そっと幸江の顔色を窺がう。幸江は罠に嵌ったとはちっとも疑っていないようだった。独りで地下に居るところを暴漢に狙われたぐらいにしか思っていないようだった。友人だった幸江を騙して矢作の毒牙にかけたことには気が咎めた美紀だったが、なんとか未遂のところで食い止めたのがせめてもの救いだった。

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