回想7

妄想小説

恥辱秘書






第十八章 切迫した吹き替え編集


 五

 あの日以来、長谷部のほうも思い悩んでいた。取り合えず本社への急な出張が続くことを電子メールで秘書には連絡を入れたものの、そう何日もそれを続けるという訳にはゆかないことも重々承知していた。本社には、出張役員の控え室があるので、居場所が無いという訳ではなかったが、この事態をどう収拾したらいいのか、ひとり個室に篭って思いあぐねていた。
 (たしかに、あの日、裕美は妙に挑発的だった。いや、あの日ばかりではなく、暫く前から急にセクシーな様子ばかり見せるようになっていた筈だ。)
 長谷部は自分の秘書の様子を思い返していた。秘書の内村裕美は、まじめにきがつくような実直な女の子だった。いや、長谷部は少なくともそう思っていたのだ。それが自分からスカートを短く直してきたり、お化粧も何時の間にか多少派手目になってきていた。しかし長谷部にはそれが嫌ではなかった。むしろ、今までの生真面目な素振りには物足らなさを感じていたぐらいだ。秘書は多少はセクシーなところがあってもいいのではなどと思ったことさえあったくらいだった。最初のうちは好きな人でも出来たのだろうぐらいに軽く思っていたのだ。(それが・・・・。)

 長谷部が目を閉じると、恥ずかしそうに俯きながら、スカートの裾を持ち上げていった裕美の姿がすぐに浮かんでくる。何故そんな格好を裕美が突然したのだったか、長谷部にはどうしても思い出せない。自然な成り行きだったような気もするが、そうではなかったようにも思えた。
 裕美が縄を持ち出してからは、もう自分を完全に見失っていた。どんな行為に及んだのかさえ、はっきりとは思い出せない。気づいたら、下半身裸になって、自分のモノを露わにしたまま、床の上に縛られてやはり下半身を剥き出しにしたまま横たわっている裕美の淫らな姿を前にして呆然と立ち竦んでいたのだった。
 裕美に自分のモノを咥えさせていた時の感触も、うしろから串刺しにした時の感触も、もはやはっきりとはしない。しかし、そういうことがあったという微かな記憶は拭おうとしても拭えないのだった。
 何か挑発的な行為があったからと言って、長谷部の取った行動は許される筈はないと長谷部自身が感じていた。執務室に中から鍵を掛けて、秘書と二人きりになったのだ。そんな場で、あろうことか、秘書を縛ったのだ。自由を奪っておいて、犯したのだ。あの時の自分は常軌を逸していたとしか思えなかった。
 (困ったことになった。)
 長谷部にはどうしていいか、うまいアイデアが浮かんでこなかった。美紀から電話が掛ってきたのはそんな時だった。
 「長谷部専務、深堀美紀という方から電話が掛ってきていますが。」
 「えっ、ふかほり?誰だったかな。まあ、繋いでみてくれ。」
 「承知致しました。今、お繋ぎします。」
 暫く沈黙があって、カシャッという切り換え音の後に、甲高い女性の声が聞こえてきた。

 「吉村設計本部長の秘書のようなことをしております深堀と申します。」
 「ああ、吉村君の・・・。」
 顔はすぐには浮かんで来ないが声には聞き覚えがあるような気がしてきた長谷部だった。
 「お忘れかもしれませんが、N社の沢村と仰る購買部長さんの接待を、お手伝いさせて頂いた者です。」
 「沢村・・・?すると、芳賀君の部下の深堀さんか。」
 「ええ、そうです。その深堀です。」
 沢村という名前を聞いて一瞬、長谷部の顔が曇り始めた。(あの件には自分は直接タッチしないようにして、全て芳賀という男に任せておいた筈だ。)
 それで、深堀という秘書にも直接は会っていなかったのだと長谷部も得心する。
 「実は、あの接待の時に一緒に仕事をした専務の秘書の内村裕美とはとても親密な仲なんです。」
 「ゆ、裕美だって?」
 沢村の次に突然出てきた名前に、長谷部は思わず電話を取り落としそうになった。
 「ええ、そうなんです。実は私たち、会社の同期入社で、普段からとても仲良くさせて貰っているんです。それで・・・。」
 それまで妙に明るい甲高い声だった美紀のトーンが最後のところで急に低くなった。その言葉の後にあった妙な間に、長谷部は思わず唾を呑みこんで言葉を待ち構えた。
 「裕美から相談を受けたんです。事情はよく判らないんですが、精神的に落ち込んでいて、暫く会社を休みたいっていうんです。」
 事情はよく判らないという美紀の言葉に一縷の希望を見出した長谷部だった。
 (全てを打ち明けた訳ではないのかもしれない。)
 「落ち込んで・・・?暫く、休みたい・・・?」
 「ええ、そうなんです。そんな事なら自分から休むって言えばって言ったんですけど、そんな事も出来そうもないくらい落ち込んじゃっていて、それで私が代わりに連絡しておくから、暫く実家に帰ってゆっくりして来なさいって話しておいたんです。」
 「そ、そうだったのか。い、いや、連絡が来ないから、変だとは思っていたところだったんだ。」
 「ええ、それで、ただ、裕美が言うには、休むって言っても長谷部専務はとてもお忙しい方だから、秘書が突然居なくなるととても困るだろうって言うんです。それで、暫くの間、私に秘書を代わって欲しいって言うので引き受けちゃったんです。そうでもしないと裕美、倒れこんじゃいそうな様子だったんです。」
 「そ、そうだったのか。い、いや・・・。私としてはそれでも構わないんだが、君の部署は急に君が居なくなったら困るんじゃないか。」
 「それで、上司の芳賀にも相談したら、専務の業務のほうが会社にとって遥かに重要なんだから是非行って助けてあげなさいって言われたんです。実際、私のほうの部署は他に女子社員が何人も居ますから、お互いで助け合うことは何とか出来るんです。」
 「そうなのか。判った。明日にでも、そっちの執務室に出るつもりでいたので、そっちで明日会って相談しよう。判った。じゃあ、明日また。」
 一先ずはほっと胸を撫で下ろした長谷部だったが、それが芳賀と美紀による策略であったとは思いもしないのだった。

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