妄想小説
恥辱秘書
第十五章 地位の逆転
六
「じゃ、裕美ちゃん。また明日。運転手さん、車を出して。」
そう美紀が運転手に合図すると、ひと気のない淋しげな公園のそばに裕美を独り残して、タクシーは走りさってしまう。
改めて独りになってみて、裕美はちょっと不安にかられる。その場所は裕美には見知った場所であった。ちょっと遠いが、ひと気のない道を暫く抜ければ、裕美のアパートのほうへ抜けられる場所であった。駅の近くよりはアパートに近く、タクシーを拾えそうな場所ではないが、歩いて歩けない距離ではないと思った。
裕美は近道なので、公園をまっすぐに横切ってゆくことにした。市街地からは少し離れた場所なので、人の気配はない。物淋しい場所を裕美はあられもない格好で独り、横切っていく。裕美はこの時、あられもない格好を隠す筈だったレインコートを店に置き忘れてきたことに気づいていなかった。実際には、店を出る際に、足のふらつく沢村を美紀と両側から支えるのに精一杯で、自分がクロークに預けたコートのことなど考える余裕もなかったのだ。しかし、それとても酔った振りをしている沢村役の原と示し合わせた美紀の演技であったことなど、裕美には知る由もなかったのだ。
夜目には、裕美の格好は刺激的な格好であった。下半身は殆ど裸に近い。かろうじて股上を短いワンピースの裾がなんとか被っているに過ぎない。しかし、こんな夜更けの山奥の公園に誰かが居る筈もないと思いきっている裕美には、却って人目につくよりはましにしか思えなかったのだ。
公園は、中心部分にはなにもないグランドのような広場になっており、その周囲を木立の茂みが蔽っていた。裕美が公園の中央に出て、広場の真ん中にある公園中央にある街灯のそばを通り過ぎ、再び反対側の木立の薄暗い茂みの中を通り抜けようとしている時、その木立の暗がりの中に裕美を待ち受ける男が居るなどとは思ってもみなかった。
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