妄想小説
恥辱秘書
第十五章 地位の逆転
二
裕美は唇を噛んで、恥ずかしさを堪えながらスカートの裾の前を両手で掴み、ゆっくりと上へ持ち上げる。やがて、裾の下に、裕美の薄手のシルクのショーツの端が覗いてくる。その日は何故か「情報屋」と名乗る男からの朝の儀式の指示はなく、昨日のような妙に頻繁に募ってくる尿意も不思議と止まっていたのだ。
「いいわ。じゃあ、今度からは沢村さんの接待の時は、すべて私の指示に従って頂戴。トイレに立つのも私の承諾を貰ってからよ。いいわね。」
「えっ、は、はい。・・・ わかりました、深堀さん。」
「じゃあ、行っていいわよ。またそのうち指示するから待ってなさいね。」
意気消沈してうなだれたまま、設計本館の屋上を後にする裕美の背中を、美紀は追い詰めた獲物を見守るかのような視線で追っていたのだった。
同じ頃、芳賀は芳賀で、専務の長谷部に対して、手を打っていた。裕美を思い通りに操るための駄目押しだった。
「長谷部専務でしょうか。済みません、秘書も介さず直接お電話差し上げたりしまして。」
「ああ、いいんだよ。内村君はちょっとどこかへ出掛けてしまったみたいなんだ。時々、何も言わずにふいっと居なくなることがあって、困るんだがね。」
「専務、その内村裕美嬢のことなんですが。ちょっと変な噂を小耳に挟みまして、それで内密のご相談が・・・。」
「何かね。あの例の沢村という購買部長関係のことかね。」
「さすがに、専務は察しが早ようございます。実は、さるN社の知り合いから聞いた話なんですが、内村嬢が沢村さんから身体の求めに応じているんじゃないかなどという噂があるというんです。」
「何だって・・・。いったいどういうことなんだ。」
「私が同席しております接待の席では、決してそのようなことは御座いません。私も目を光らせておりますので。ただ、私も内村嬢のことを常時監視しておる訳ではありません。普段や、休みの日の素行となりますと、責任も負いかねません。・・・私は、専務のことを心配しております。何も事情の判らぬ輩が詮索して、専務が色仕掛けでN社の購買部長をたぶらかそうとしているなどと噂を立てられてもいけないかと存知まして・・・。勿論、沢村部長の体面を傷つけたり、機嫌を損ねたりしますと、商売上の取引に影響しかねません。そこは、私のほうでうまく内村君も使いながら、取り繕いますので。専務のほうからは、一言だけ、内村君に釘を差しておいて頂ければ宜しいかと・・・。」
これは巧妙な誘導尋問の罠だった。
その後、秘書室に戻った裕美は、長谷部にインターホンですぐ来るように呼ばれたのだ。
「ちょっと変なことを訊くが、君、まさかN社の沢村っていう購買部長から、セクハラまがいのことは受けていないだろうね。」
直接思いもかけないことを長谷部にいきなりずばりと言われて、裕美は心臓が止まるような思いをした。が、咄嗟にそれを悟られてはならないと顔色が変わるのを誤魔化し平静を装う。
「飛んでもありません。専務の代理として接待には参りましたが、そんな怪しげなことはしておりません。お酌をして差し上げて、お話を伺う程度のことです。それは殿方のことですから、そういう誘惑も多少なりとも感じられたりするかもしれませんが、それをうまく受け流して交わすぐらいのことは、私にだって出来ない訳ではありませんわ。」
「そうか、そうならいいんだ。うまく処理してくれていたんだね。それで安心した。まさか、僕が秘書の女の子を使って、相手先の購買部長を垂らしこもうとしてるなんて、勘ぐられたりしちゃ困るからね。これからも、うまく受け交わしてくれよ。頼んだからね。」
「え、ええ・・・。」
その場は取り繕ったものの、これで裕美は、沢村とのことを、長谷部に相談出来なくしてしまっていることに、その時は気づいていなかった。沢村からの誘いを、長谷部を通じて断る道を自分で封じてしまっていたのだ。
そんな裕美に追い討ちを掛けるように、その場を去ろうとする裕美の背後から長谷部が声を掛けた。
「おっと、危うく忘れるところだった。さっき開発総務の芳賀課長からまた電話があってね。明後日、もう一度、その沢村部長の接待があるそうなんだ。僕はまた本社への出張でどうしても抜けられないんで、君、悪いがもう一度、私の代理で一緒に行ってやってくれんか。芳賀君の話に寄ると、沢村部長は君が来る日は、結構、機嫌がいいらしいんだ。きっと、君の男の扱いかたがさぞかし上手いんだろうね。あは、あは、あは・・・。」
長谷部は裕美の苦悩をよそに、上機嫌だった。反面、絶望に呉れてしまう裕美なのだった。
裕美は窮地に思案して、美紀に助けを求めることにした。最早、今となっては、自分の恥ずかしいこともすべて知っている美紀にしか相談を打ち明けられない。最近、急に居丈高になっているのが鼻に付く美紀だったが、自分独りでは到底、沢村の相手などうまく処理して切り抜けれる自信はなかった。美紀のはした女となっても、助けを乞いたかったのだ。
「そう、判ったわ。一緒に行ってあげる。その代わり、何でも私の指示に従うのよ、いいわね。」
そうきっちり言い放つ美紀だった。
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