forced drink

ナイトバーでの痴態



  三

 ウェイターが何やら運んできた。オレンジ色の細長いグラスになみなみと注がれた飲み物だった。ウェイターはそれを男と圭子の前のカウンターに二つ置く。男がウェイターに何やら耳打ちすると、ウェイターは前掛けのポケットからストローを2本取り出してグラスに挿す。男が目で合図すると、「ごゆっくり。」と声を掛けてウェイターは下がった。

 そのグラスを男は圭子に差し出す。(呑め)という仕種だった。
 圭子は両手は後ろ手に繋がれているので、男が差し出すまま、唇を近づけてストローですするしかなかった。きつい酒だった。(スクリュードライバーだわ)圭子は咄嗟に思い当たった。以前に友人に聞いたことがあった。男が女を不覚にさせるのに常套とされる飲み口のやわらかい、しかし酔いのきつい酒だ。圭子は酒に強いほうだが、男に有無を言わさず飲まされるのでは、どこまで耐えられるか自信がなかった。

 男に促されるまま、仕方なく圭子はグラスを飲み干す。すかさず男は自分のグラスを空になった圭子のものと差し替える。2杯目は、そんなにすんなり入らなかった。ぐいぐい押し付けられるので、無理に喉に流し込んだ。すこし頭がくらくらするような気がする。と同時に自分の緊張感が和らいでゆくのを感じる。それはしかし安心感を与えるものではなく、却って圭子を不安にさせるものだった。

 更に男はテグスの束を取り上げた。そして圭子の剥き出しの太腿を眺めている。圭子が不安に思っていると、男は腰を屈めるようにして手にしたテグスを圭子の片方の足首に通した。そしてテグスの両端をもって徐々に持ち上げる。テグスの片側がぴっちり閉じている圭子の脚と脚の間をするすると滑ってゆく。膝頭まで持ち上げたところで、男はテグスを結わえて輪にする。更にもう一度身体を屈めてもう一方の脚にもテグスを掛けた。両方の膝はテグスの輪によって繋がれた格好となった。

 それから男は立ち上がった、片方のテグスをカウンタの片方の端のテープルの脚に通す。そしても一方のテグスも反対側のカウンタの端の脚に通した。圭子は男の意図に気づいてはっとする。

 男はテグスの片方を手繰り寄せながら、圭子をカウンタの後ろ側のほうに向かせる。膝頭が横に引かれるのと同時に肩を押されて圭子はテーブル席の他の客たちのほうに向かざるを得ない。そうしないと脚を広げなくてはならなくなってしまうからだ。すっかり反対側を振り向くと、今度はテグスが緩み反対側のテグスが引かれ始める、圭子は今度は反対側に回転しなくてはならなくなる。男は操り人形を手繰るように圭子をテグスで自由に右へ左へと膝を回させて楽しんでいる様子である。圭子はうっかり脚を開いてしまわないようにする為に男のテグスの動きにあわせるのが精一杯である。手が自由でないので、椅子に背中で捉まっているのがやっとだ。手を膝の上にスカートの前を隠したいのにそれも出来ない。何度か右、左と回されているうちに、すこしずつ膝と膝の間が開いてしまう。テグスがピンと張っていて、どうしても脚をぴったり閉じることが出来なくなってしまった。
 テーブル席の客のうち何人かがこっそり圭子の様子を伺い見るようにしているのに気づいた。圭子は脚をよじるように何とか前を隠そうとするが、膝と膝はうっすら離れてしまっていて、スカートの奥が覗けそうになってしまっている。
 おそらく近くでまっすぐ見られたら、下穿きまで覗いてしまっているに違いなかった。

 圭子は首を男のほうに向けて、許しを乞うような目で見つめる。しかし、わざわざ男はこれが狙いで準備までしたのだろう。許してくれる筈もなかった。
 男はすこしテグスを緩めた。圭子はほっとして、膝と膝をぴったり合わせる。しかし実はこれは次の段階への準備でしかなかったのだ。
 男はもう一本のテグスをさきほどと同じように大きな輪に作り圭子の首に更にかぶせた。輪からテグスが一方長く下に垂れている。これが何の意味を持っているのかを圭子が知るのはもう少し後になってからだ。

 先に首に掛けられた天井の梁に掛けられたほうのテグスを男は引き出した。頸が絞まってきて苦しくなり、それから逃れるために背筋を伸ばす。テグスは更に引かれるので、圭子は不安定なスツールの足載せの上に立ち上がらざるを得なくなる。
 「いったいどうするつもりなの ・ ・ ・ 。」
 思わず、圭子は男をなじるように言った。
 「苦しいだろ。もっと背を伸ばせよ。楽になるぜ。」
 更にテグスを引きながら男は冷たく言う。圭子はスツールの足載せの上で精一杯爪先立つようにしなければならなかった。


 「いっそ、椅子の上に乗ったらどうだい。」
 そう言うと、男はさらにテグスをぐいと引く。たまらず何も考えずに圭子は片膝を折ってピンヒールのパンプスを履いた足をスツールの座面に載せる。手は背面でスツールの背を持っているだけの不安定な格好である。しかし頸に食い込むテグスの痛みから逃れることの他は何も考えられなかった。男は更にテグスを引いていくので、それにあわせて椅子の上に上がらざるを得ない。膝は大きく割れて、前から見れば下着は丸見えの筈だ。だが、今にもひっくり返りそうな格好で圭子は必死でそれどころではない。
 「椅子の上はあぶないからカウンターの上に乗ったほうがいいんじゃないのか。」
 男に言われる前に、おぼつかない足で、圭子はカウンタに乗り移っていた。両手が背中で自由でないので、椅子の上では身体がふらついてしまう。カウンタに何とか乗ったが、足元はピンヒールでそれでも安定はよくない。男は圭子がカウンタの上に身体を乗せてしまうのを見届けて、更にテグスを引いて、とうとう圭子にカウンタの上に立たせてしまった。一旦立ってしまうと、もうしゃがむことも出来ない。そのまま磔のように後ろ手で高いカウンタ上に立たされてしまった。



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