妄想小説
恥辱秘書
第十九章 奈落の出向先
七
このところ美紀はすっかり専務付きの役員秘書になりきっていた。元々入社の時から役員秘書を志望していて、それがやっと念願叶ってそのポストを手にいれたのだった。美紀は秘書室と専務執務室を我が物顔で立ち回っていた。
それだけではなく、美紀は自分の上司である専務の長谷部に対しても、時々挑発的な仕草を見せて、長谷部がどぎまぎするのをみて楽しんでいた。あの事件以来、長谷部は性的な事にすっかり萎縮してしまっていた。自分の自制が効かなくなってしまうことを極端に怖れて、臆病風を吹かせているという雰囲気が漂っていた。美紀が長谷部の予定を確認しながら目の前で自慢の脚を大きく組み替えたりすると、きまって長谷部は目を逸らすのだった。短く詰めたタイトなスカートで長谷部の前でしゃがんで見せたりしても、びくっとして背を向けてしまうのだった。
そんな美紀の挑発行為を見せ付けられた後は、決まって長谷部は特命専任部長の芳賀を呼びつけるのだった。
「本当に大丈夫なんだろうな。まさかあのコピーがまだあって、出回っていたりしないんだろうな。」
「大丈夫ですって、専務。私が交渉した相手は、N社の購買部長の息がかかった男ですよ。あの沢村部長の知り合いに変なことをしたりすれば、大変な損失をこうむりかねないことは重々承知しています。それだからこそ、危ない筋にあのテープを流したりせずに、こちらに買い取って貰うことを提案してきたんですよ。」
「そうか、それならいいんだが・・・。私に返して貰ったテープは音声が入っていないんだが、あれも気になるんだ。」
「それなら心配要りませんよ。あれは交渉した男から聞いたところに拠ると、テープを持ち込んできた情報屋がわざと音声を消したそうです。そのほうが、余計にセクハラで女にいうことを聞かせているような臨場感が出るからなのだそうです。それにあの手の監視カメラは元々音声を録る用には出来ていないので、明瞭な音は取れないものらしいですよ。」
「そうなのか。それでか。ならいいんだが・・・。」
テープはオリジナルと、裕美に吹き替えさせたものと、音声を消して長谷部に渡した3バージョン作ってあった。それぞれ別々の用途に使うつもりで作ってあったのだ。勿論、長谷部はそんなこととは露知らない。
「そう言えば、N社の沢村様からまた接待の要請が来ているのですが、如何致しましょうか。」
「さ、沢村っ?そんな奴のことは知らん。お前には特命専任部長に任じさせてある。幾らでも使えるコーポレートカードだって持たせているだろ。そういうことは全部お前の判断で処理しろ。」
「そうですか。承知致しました。今後は私のほうで判断させて頂くということで、毎回お伺いは立てないことに致します。」
「それでいい。全て任せる。」
その返事を聞いたところで、芳賀は胸ポケットに手をやり、ボイスレコーダーのスイッチを切る。いざという時の為に、長谷部の言葉を証言に使えるように録音しておいたのだった。
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