妄想小説
料理研究家の誘惑
五
ふと、お尻の冷たい感触に目を覚ました千鶴は、身体全体に鈍い痛みを感じる。朦朧としていた意識が次第に覚醒してくるにつれ、自分の今の状態を一生懸命把握しようとする。 (え、わたし・・・。今、何処に居るの?) おそるおそる瞼を開くと、目の前に裸の瑛太が立っていた。股間のモノはすでに勢いを失ってはいるものの、隠そうともせず千鶴の眼の前にその存在を見せつけるようにしている。 手を動かそうとして、千鶴は両方の手が背中からびくとも動かないことに気づく。自分の身体を見下ろしてみると、白いバスタオルに被われてはいるものの、太腿から先も肩も素肌を露出している。 「あ、あの・・・。わたし・・・?」 「ふふふ。やっと目覚めたようだね。自分が何処に居るのか判らないの?」 意地悪な問いに、千鶴はあたりを見回してみる。そこは間違いも無く、自分の東京の仮住まいにしているマンションのバスルームだった。 「えっ、ここって・・・?」 「そう。貴方のバスルームですよ。全然起きないから、ここに運び込むのに苦労しちゃった。」 「え、どうして・・・。」 そう問い掛けながら、千鶴は目の前に立つ瑛太の手に剃刀が握られているのに気づく。それは千鶴がわき毛を処理するのに使っていたものに違いなかった。 「なんで、そないなものを・・・。」 そう途中まで言いかけて、頭に浮かんだことに千鶴ははっとする。 (もしかして・・・。) 起き上がろうとして、両手がどうにも自由にならないのに気づいて自分が後ろ手に縛られていることをはっきり自覚する。しかも着ていた筈の着物はどこにもみあたらないのだ。 「やっと自分が置かれている状況がわかってきたようですね。そうですよ。貴方は裸で縛られているんです。でもそれだけじゃありませんよ。今、お見せしますよ。このバスタオルの下。」 そう言うと、瑛太は千鶴の方に身を屈めて身体を被っていたバスタオルを一気に剥ぎ取る。
「きゃっ、嫌っ・・・。」
予感していたことではあったが、男の前に全裸に剥かれて縛られている自分が晒されることに声を挙げてしまった。しかし、それだけではなかったのだ。
「これで何をしたか判りますよね。」
瑛太は手にした剃刀を掲げて見せる。
「えっ? それって・・・。」
千鶴がこわごわ自分の裸にされた下半身を見下ろすと、あるべき筈のものがそこにはなかった。代りに童女のようなすべすべの縦真一文字の割れ目が剥き出しで晒されているのだった。
「それは贖罪なのです。貴方が私を誘惑しようとしたことへのね。」
「えっ? そ、そんな・・・。」
「これで暫くはもう、旦那さまに抱いて貰うことは出来ませんよ。だって、どうしてそこの毛を失うことになったかなんて、旦那さまには話せませんからね。」
「それから、貴方を縛っている紐は硬い帯締めです。最初は柔らかい帯揚げで縛っていたんですが、痕が残るようにわざと帯締めで縛り直したんです。これで手首の赤い痣が消えるまでは、暫くは京都の実家にも帰れませんね。その帯締めは一晩もがき続ければ朝方には緩んでくるでしょう。手首に痕はくっきり残りますけどね。それじゃあ、僕はそろそろこれで失礼することにします。妻も子供も待っているんで。」
「え? うちをこのままにしておくつもりやおまへんのですやろ? 縄を解いておくなはれ。堪忍どす。後生やさかいに・・・。」
しかし、瑛太は帯締めで後ろ手にきつく戒めを受けた千鶴を置いて、悠々とバスルームを出ていってしまったのだった。
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