アカシア夫人
第四部 突然やってきた闖入者
第四十二章
和樹がカメラを構えながら、顎を振って合図する。何をしろと言っているのか貴子にはよく判っていた。
貴子は少し俯くようにしながら唇を噛み締め、徐に括約筋を緩める。生温かい感触は何度してみても慣れるものではなかった。音や臭いがしないか、そればかりが気になった。が、俊介は気づいた風もなかった。貴子は和樹に終ったという合図で軽く頷く。
「じゃあ、いいよ。」
そう言われて漸く貴子は許されたのだった。
「あんな事は、もう許してくださいね。」
帰り道の車の中で、貴子は和樹のほうを見ないまま、ぼそりと言ったのだった。
「あいつ、お前が目の前で何をしていたか知ったらどう思うだろうね。」
「言わないでください、そんな事。私、そんな事が世間に知られたら生きてゆけません。」
貴子は涙目を装う。和樹は逆に満足げだった。
しかし心の中で貴子は俊介の前で放尿してみせる自分を想像していたのだ。それは恥かしいだけではないような気がしてきていた。さきほど俊介の直ぐ前で洩らしてしまった時も、出し終えた後は不思議な陶酔感に酔いしれている自分に気づいてもいたのだ。
翌朝、レンジローバーで駅へ出掛けていく夫を見送った貴子は、配達と注文を取りに来た三河屋の俊介をまだ朝の早い時間に迎え入れた。
「仲がいいんですね、奥さんと旦那さん。」
「えっ、昨日の事?嫌だわ。恥かしい・・・。」
しかし、俊介には、本当は何の事を恥かしがっているのか気づいていない。
「普段、平日はご主人はこちらにはいらっしゃらないんですか。」
「・・・。」
いつもは即座に、遅いけどいつも帰ってきてますよと留守で独り身あることを他人に知られないよう誤魔化している貴子だったが、何故かその日は俊介にその言葉が出て来ない。
「多分、三日は帰ってこないと思うわ。」
「へえ、そんなに留守して奥さんを独りにさせちゃうんですか。」
言ってしまってから、貴子はその後、何と言っていいか分からない。
「その段ボール、このテーブルの上へ運んでくださる?」
「あ、いいですよ。」
その間に、貴子は小さな脚立を出して天袋のキャビネットに壜類をしまう準備をする。
「ついでに、その中にある壜と缶類をひとつづつ取ってくださいな。」
そう言いながら既に貴子は脚立の上に上がっていた。貴子の背では、脚立がないと届かないのだ。上の段には、脚立に乗っても背伸びをしなければならない。自然とスカートがずり上がって、太腿がより露わになってしまう。その姿を俊介は貴子が背を向けて上の段に手を伸ばす度に、盗み見ていた。
「えーっと。これで最後です。」
俊介に渡されたジャムの壜を受け取った貴子がしまう場所を迷っている間に俊介がすぐ傍まで近づいてきていた。貴子も俊介の視線を気配で感じていた。
「奥さん・・・。」
俊介の声は、かすれていた。
「な、何・・・。」
答えた貴子も声が上ずっている。
いきなり、俊介が剥き出しの貴子の太腿にしがみついてきた。バランスを崩した貴子が脚立の上から俊介のほうに抱きついてきた。それをがっしりと受け止めた俊介は肩を強く抱きとめる。
「奥さん・・・。あれから、僕・・・。」
俊介は貴子の唇を奪おうと、顔を近づけてくる。貴子は逃げるように顔を反らすが、力が入らない。遂には唇を奪われてしまう。
俊介の胸を押しのけるようにして唇を離した貴子だったが、すぐに俊介の前に跪く。
「駄目よ・・・。でも・・・。」
貴子の目の前に俊介の股間がある。ズボンの下ですでに強く勃起しているのがはっきり分かる。貴子はその股間に手を伸ばした。
「もう一度だけ。もう一度だけ口でしてあげる。それで我慢して・・・。」
そう言いながらも、既に貴子は俊介のズボンのチャックを下ろし始めていた。指を優しく突っ込んでいきり立つものを外に解放してから、ベルトを解き、トランクスごとズボンと一緒に下に降ろした。
「ああ、逞しいのね・・・。」
そう言うと、ひるまず一気に俊介のモノを咥え込んだ。
「ああ、奥さん・・・。いい・・・。」
俊介は身をのけ反らせながら、貴子の頭を両手で押さえて引き寄せる。
チュパッっと大きな音がする。貴子は目を瞑り、夢中で吸い上げた。
「ああ、もう・・・、もう・・・駄目っ・・・。」
「出して。口に出して・・・。」
もう一度強く吸い上げると俊介は口の中で果てた。熱いモノが貴子の口の中に溢れたが一滴も漏らすまいと必死で嚥下しては吸い尽くす。
「ああ・・・。」
(ぐふっ・・・。)
噎せ返り、思わず口の端から垂らしてしまった男の精を貴子は手のひらで受け止める。
「す、済みません。奥さん・・・・。」
萎え始めた陰茎をだらりと垂らしたまま、俊介が心配そうに貴子を見やる。
「だ、大丈夫・・・。気持ち、良かった?」
「あ、ええ・・・・。最高っす。」
「良かった・・・。でも、もうこれで最後よ。そうじゃなくっちゃ、私も、貴方もここに居られなくなっちゃう。」
貴子は跪いたまま、棒立ちになっている俊介を優しい目で見上げるのだった。
「わ、わかって・・・ますっ。」
「私との秘密。いい?守れる?」
今度は立ち上がって、俊介の手を取り、目をみつめながらそう言った貴子だった。
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