アカシア夫人
第四部 突然やってきた闖入者
第四十章
実家の菩提寺で墓参りをさっと済ませた後、貴子は藤沢の実家があった敷地の前に立ち竦んでいた。門のところにはロープが張られていて「売り出し中」の立て札が建っている。屋敷は既に解体されて更地になっている。改めて貴子は、もう戻る場所がないのを実感するのだった。立ち去りがたい思いでいっぱいだったが、感慨に耽っている時間の余裕はないのだった。貴子にはまだ用があるのだ。
ショルダーバッグから用意してきたサングラスを出して掛け、スカーフで頭を覆う。更には花粉症用のマスクまでして貴子は東京へ向けて出発するのだった。
秋葉原は表通りは来たことがあったが、インターネットで調べたその店は一本裏手にあって、ちょっといかがわしい雰囲気に満ちていた。「大人の店 アダルトグッズ」と黒字に銀色の文字で書かれた小さな看板が立っていた。貴子はそこを行き過ぎるかのように素知らぬ振りをして歩いていって、扉のところでさっと飛び込むようにして中に入った。店の中の通路は思ったより狭く、雑多な商品が陳列棚に所狭しと並べられている。意外にも客層も雑多で、中年男性ばかりかと思ったが、若いカップルや女性の一人客、外人観光客らしき者まで居た。皆、自分の用に夢中で他の客など見向きもしていない。貴子はその雰囲気に少し安心した。案内板をみると、貴子の所望の品々は4Fにあるらしかった。
そこへ上がるには狭い螺旋階段しかない。貴子は自分の短い丈のスカートをちょっと見て躊躇ったが、意を決して階段を上がることにした。上から降りてくる外人のカップルに場所を譲って擦れ違う。毛むくじゃらの男のほうが、振り向き様にちらっと貴子のほうを見上げたようだったが、無視をする。一目散に4階の売り場へ急ぐ。
和樹のところから持ち出した手錠によく似た形の物はすぐに見つかった。これならばれないだろうと目安をつけておく。まだ商品には手を出さない。手錠のコーナーへ来る時に途中でみつけたバイブレーターのコーナーを通り過ぎる振りをしながら横目で品定めする。あまりじっくり選んでいる訳にはゆかなかった。最後に護身用品コーナーでスタンガンを選ぶ。一通り商品を決めたところで、レジの傍に積み上げられた籠を取り、それぞれのコーナーで見定めておいた商品を掠め取るように次々に籠のなかへ突っ込むとレジに急いだ。レジの店員の前には暖簾のようなものがぶら下がっていて、店員と客が顔を合わせなくても済むようになっているのが有り難かった。
「ポイントカードをお作りしましょうか。」
店員は決まり事になっているらしく、商品を紙袋へ入れながら訊ねる。貴子は首を横に振ったが、店員には見えないことに気づいて小声で「いいです。」とだけ答える。
商品を受け取ると、一目散に階段を駆け下りて駅へ小走りに向かうのだった。
その日の目的である買物を済ませて安堵した貴子は尿意を憶え始めていた。嵌めさせられたオムツを脱ぐことは出来ない。その中にしなければならないのだが、それでも外でするのは嫌だった。駅前デパートの二階にある女子トイレの個室に入った。洗面所のところで化粧を直しながら談笑している若い女店員らしい二人連れの明るい声が聞こえてくるのが、貴子に余計に惨めさを感じさせた。
立ってしたほうがいいのか、便器に座ったほうがいいのか迷ったが、下手に座って横に洩れだすのが怖くて、以前の夜の時のように、立ったまま脚を少し開いて膝を軽く外側に折る。すぐには出せなかった。さんざん躊躇した末、思い切って括約筋を緩める。貴子は唇を噛んで惨めさに堪えながら、放尿を終えたのだった。
2時間の特急に揺られた後、駅へ降り立った貴子は、和樹が待つ送迎ロータリーのほうへ向かう前にコインロッカーのほうへ急いだ。まさかとは思いながらも念を入れたのだった。秋葉原で買ってきたものをコインロッカーにしまうと、鍵を何処にしまうかちょっと思案する。結局バッグには入れずに手に持ったまま駅の外に出て、ロータリーへ向かう通路の脇の植え込みの下にさっと投げ込むのだった。
和樹の車は既に着いていた。バックミラーで貴子の姿を見つけたらしい和樹に向けて手を振りながら近づいてゆく貴子だった。
山荘に戻ってきて、貴子が寝室へバッグを持って入るところまで和樹は付いてきた。外出着から着替えようとしているところを後ろから入ってきた和樹にベッドに押し倒され、うつ伏せにされて、両手を縛り上げられる。貴子はおとなしくされるがままになった。
両手の自由を奪われたところでスカートが捲られ、紙オムツのマジックテープを調べられた。貴子は黙って和樹のしたいようにさせる。和樹は慎重にマジックテープを剥がし、貴子の股間から紙オムツを外すと、臭いを嗅いで確かめている。恥かしくて貴子は和樹のほうを向けなかった。
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