アカシア夫人
第四部 突然やってきた闖入者
第三十八章
「待ってえ。助けてえ~。」
しかし車はどんどん遠ざかっていた。貴子が諦めかけたとき、赤いブレーキランプが点灯したのに気づいた。それから軽のワゴンは猛然とスピードを上げてバックしてきたのだった。
「どうしたんですか、奥さん。」
車から走り出てきた俊介は、全裸で後ろ手に縛られた貴子を観て仰天しながら訊ねた。
しかし貴子にはそれに答えている余裕も、無毛の股間を見られるのを恥かしがる余裕も無かったのだ。
「お願いっ。乗せて、すぐに車を出してっ。」
何時、男が追いかけてくるか分からなかったからだ。何となく事情を察した俊介は軽の助手席を開けて裸の貴子を押し込み、自分も運転席に乗り込んで、すぐ様、車をスタートさせる。
「ど、どっちへ?」
「とにかく、ウチの山荘から離れる方向。あ、待って。街のほうへは向かわないで。」
貴子は自分の格好を思い出して、すぐに付け加えた。
「そうだね。そうだ。裏道のほうへ向かおう。」
そう言うと、そのまま真っ直ぐに走り、最初のY字路を山側へ向かう。
15分ほど走ったところで、道路沿いに空き地を見つけ、もう大丈夫だろうと貴子はそこで車を停めて貰う。俊介は他の車に見られるかもしれないことを気遣って空き地の奥の藪の陰に車を乗り入れる。そこなら道路から見通せない筈だった。
車を停めてから改めて貴子の格好をしげしげと見る。女性経験のない俊介には刺激的過ぎる格好である。思わず生唾を呑み込んでしまう。貴子は俊介の視線に気づいて、俯いてしまう。
「あの・・・。」
(解いて)と言う前に唇が奪われた。それから俊介の腕が貴子の身体を強く抱きしめてくる。緊張の糸がやっと解けたようだった。貴子は俊介に身を任せて為されるがままになっている。それが心地よかった。
肩に廻された俊介の手が、ゆっくりと滑るように貴子の裸の乳房に移ってきて、手のひらで包み込むようにしながら揉みしだく。
二本の指で尖ってしまう乳首を挟まれると思わず声を挙げそうになった。俊介の唇が離れて、今度は揉まれていた乳首を吸われる。
「ああっ・・・。」
唇が自由になって、今度は本当に喘ぎ声を挙げてしまった。乳首をいじっていた手が今度は貴子の身体を滑っていって、臍を通り過ぎ、無毛の恥丘まで届いた。陰唇に指が滑り込むとぬるっと滑った。その刺激に俊介は堪らなくなって、貴子を抱いていた手を肩から外して、自分のベルトを緩め、ズボンのチャックを下ろす。そのモノはズボンの中でびんびんに硬く膨らんでいた。その屹立した男根をみて、はっと貴子は我に返った。
「だ、駄目よ。待って・・・。口で、口でさせて。」
縛られたままの格好で、貴子は俊介の股間にしゃぶりついていった。
「お、奥さん・・・。いいんですか。」
そう言いながらも俊介の手は既に貴子の頭をやさしく捉えていた。
「ああ、いい・・・。凄く、いいです。」
初めて味わうフェラチオの気持ちよさに俊介は酔いしれる。貴子の舌が絡み付いてきたかと思うと唇で強く吸われる。
「ああ、いい。そ、そんなにされたら、出てしまいますぅ。」
唾液で糸をひく口を開いて、貴子はそっと囁く。
「いいのよ。口の中に出して。」
再び俊介のモノを深く咥え込む。
「ああああ・・・。」
いきなり、熱いものが貴子の口の中に溢れた。一瞬、貴子は動きを止める。ドクッ、ドクッと波打つように次から次へ俊介は精液を注ぎ込む。噎せるようにしながらも貴子はそれを嚥下した。夫のものさえ、決して呑みこまなかった貴子がそれをするのは、夫への復讐であるかのように感じながら。
射精してしまって、漸く俊介も我に返った。貴子が唇のまわりに垂らしている精液を手拭いで優しく拭ってやってから、俊介はまだ膨らみを喪っていない陰茎をズボンの中に押し込む。こちらは貴子が最後まで舐め取って精液まみれにはなっていなかった。それから、俊介は貴子に背中を向かせ、両手の戒めを解き始める。
両手が自由になって、初めて羞恥心を取り戻したかのように、恥かしげに貴子は両手で乳房と股間を蔽う。俊介もはっとなってそれに気づいて、慌てて三河屋の作業着である自分の上っ張りを脱ぎ、貴子の身体に掛けてやる。しかし、貴子の乳房から臍の辺りまでをかろうじて蔽うのがやっとの大きさでしかなく、股間は両手で隠すしかなかった。
「困ったな。何か包めるようなものがあればいいんだけれど・・・。」
しかし、積んでいる荷物は生鮮品や日曜雑貨ばかりである。
「そうだ。この裏に、知り合いの家があるから、行って何か借りてきます。」
殆ど全裸に近い貴子を車に残して、俊介は空き地を出て道路のほうへ向かって走っていったのだった。
俊介が知り合いの家から借りてきてくれた毛布に包まって、貴子は別荘地にひとつだけある駐在所へ向かったのだった。今度は駐在所の軽四駆に俊介と乗せて貰って、貴子の山荘へと向かう。途中、貴子は経緯を説明しなければならなくなって、男が家に侵入してきて、ニュースで聞いた脱走囚だと思って逃げてきたのだと訳を話す。
三人が山荘に着いて、貴子一人を車に残し、駐在所のおまわりと俊介とで山荘に入り中を調べたが、既にもぬけの殻だったことが分かる。階段の手摺りが壊されているという。
すぐに男を追う必要があるのでということになって、事情は簡単にだけ説明することになる。裸だったのは、風呂に入っているところで男が闖入してきたのだと話した。男は二階からやってきて、自分が居ることに気づいて追いかけてこようとして階段から転げ落ちたようだったと話した。警察官はそれで手摺りが壊れたのだろうと勝手に納得していた。とにかく怖くて、裸のまま逃げるしかなかったのだと言う。追いつけなかったのは、階段から転げ落ちた時に怪我をしたからだろうと思うが、怖くて振り向けなかったのでよく判らないと曖昧な言い方をしておいた。傍で俊介が聞いていたのだが、何か事情があるのだろうと察して、貴子が縛られていたことは黙っていてくれたのだった。貴子は世間体もあるので、裸で逃げてきたことも、男が山荘に押し入ったことも公表しないでほしいと駐在に頼み込む。人の良さそうな駐在は、さもありなんとばかりに納得して、頷いていた。
その後、山荘の貴子の元へは、桶川、小針という二人の刑事が再度事情を聞きにきたのと、指紋を採取していっただけだった。捜査上の秘密ということで、はっきりは明かされなかったが、指紋照合で脱走囚であることは確認されたようだった。闖入経路についても貴子の証言通りでバルコニーのフレンチ窓から入ったことが確認された。アカシア平への入口付近で発見されたタオルも、風呂に入っていたところで賊の侵入を受け、慌てて逃げたことが裏付けられたようだった。全裸状態で逃げたことは伏せておくと駐在から申し渡されたことも承知していると桶川と名乗る年配のほうの刑事が請け負ってくれたので、貴子は夫が嫉妬深いので、何かと詮索するといけないので、内密にしてくれないかと頼むと意外にも快諾してくれたのだった。
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