妄想小説
恥辱秘書
第十一章 謀られた接待劇
六
部屋を出るまで上手くいったら、褒美としてひとつだけ許されていた。それは寝入っていることを確かめた上で、裕美の唇に生の陰茎を当てて、男根にくちづけさせることだった。そしてあられもない格好の裕美を眺めながら、オナニーをして、ホテルのタオルに射精し、精液をすこしだけ唇に塗りたくってもいいと言われたのだ。決してしてはならないこととして、性交することや、口の中に陰茎を咥えさせることを注意された。寝入っている裕美を起こしてしまう危険があったからだ。
芳賀は原が忠実なことも、姦計に長けていて、逆らったらどんなに怖ろしいか身に染みていることも判っていた。しかし、逆に男の生理的心理もよく見抜いていた。何も抵抗出来ない女に淫らな格好をさせ、そのまま何もしないで帰るのは精神的にはつらいことだと先を読んでいた。だからこそ、事細かに上手く行った際の自慰での満足のさせ方まで指示していたのだ。
原は芳賀の指示に忠実に従った。最後にホテルのハンドタオルを片手に、チャックを下ろしたズボンから剥き出しにした陰茎を裕美の可憐な唇に押し当て、女を陵辱した気分になって、すぐさまタオルで陰茎を包み込んで寝入った裕美の顔の目の前で射精して果てた。
射精して出してしまうと、すぐには犯そうという気にならないのも芳賀の計算のうちだった。この時点では、完全に裕美を犯してしまうのは上手くなかった。もしかしたら貞操を奪われてしまったのかもしれないという不安が、その後の展開の為には大事だったのだ。犯されたことを悲観して会社を辞めたりしては、その後の責めが楽しめない。
芳賀との付き合いの古い原は、そこまでは読めなかったが、芳賀の周到な計画には思案があってのことと、忠実に芳賀の言葉どおり、裕美の唇を汚すことだけで満足したのだった。
翌朝、自分のアパートのベッドで目覚めた裕美は、まだ頭がずきずきするの感じていた。昨夜のことをもう一度落ち着いて考えてみたくて、体がだるいのもあって会社は休もうと思った。秘書室に誰か居るかもしれないと思って、始業の少し前だったが、会社の秘書室直通電話に掛けて見る。出てきたのは、意外にも美紀だった。
「ああ、裕美ちゃん。昨晩はご苦労さまでした。あれから、どうした?送っていくって聞かない沢村さんもかなり酔っているみたいだったから。無事、家まで届けられたのかしら。まさか、襲われちゃったりしてないわよね。・・・ちょっと、冗談よ。馬鹿ね。そんなことある訳ないじゃない。相手は大会社の部長さんよ。・・・えっ、休むって。それ、まずいわよ。今日は先方から重要な話があるかもしれないじゃない。接待の次の日はぜったい控えてなくちゃ、わざわざ接待した意味がないのよ。・・・ちょっとしっかりしてよ。貴方は重役秘書よ。自分の立場をわきまえなくちゃ。・・・そう、すぐに来てよ。私は専務に伝言しておくから。」
台詞はすべて芳賀に指示された通りだった。休むという電話をしてくるかもしれないから、秘書室で張っているようにとも指示されていた。全てが芳賀の書いたシナリオどおりに進むのを目の当たりにして、美紀は芳賀の周到さに舌を巻いた。
会社へ戻ってくる長谷部には、芳賀が事前に電話をしておいたのだ。辻褄を合わせておく必要があった。裕美が長谷部に何かの拍子で沢村への接待のことに触れて、話が食い違うのを阻止する必要があったのだ。
長谷部には、会社のほうへ戻りつつある重役用の社用車の車内電話に芳賀が朝一番で掛けていたのだ。
「あ、長谷部重役ですか。開発本部の芳賀です。そう、あの吉村の下に居ります、総務などを任されている・・・、そうその芳賀でございます。実は、内密にお耳に入れておきたいことが・・・。はい、実は昨晩、先方から急な申し出がありまして、・・・。そうです。そういう接待です。で、長谷部さんに出て頂くのも後々宜しくないかと判断し、かといって専務が知らん顔されたとあれば、向こうも気持ちを害される心配があって、独断ではあったのですが、秘書の内村裕美さんに接待に同行して貰ったのです。そうしましたところ、接待自体はうまく切り抜け、向こうの機嫌を損じずに済んだのですが、今朝になって、先方、沢村さまから直に電話がありまして、昨晩のことは、先方の社内倫理規定に触れる懼れがあるので、他言してもらっては困るというのです。・・・そう、何とも虫のいい話なんですが。・・・このことはお互いの進退にも障る懼れもなきにしもあらずです。・・・左様、私もそのように考えます。お互い、昨晩のことは無かったこととして、・・・ええ、そうです。そのほうが宜しいかと。・・・判りました。もしそのようなことがあれば、私のほうで、・・・ええ、心得ております。ただ、向こうの体面を傷つけぬよう、もしかしたら専務の代理として、また内村君にダミーでお付き合いをお願いすることが・・・。そうですか、そう言っていただければ、処理するにあたって、私も心強く思います。・・・判りました、ありがとうございます。それでは、くれぐれもご内密に。・・・畏まりました。失礼いたします。・・・」
役員たちの体面と粛清に対するリスクへの心配の心理をついた微妙なやり取りを架空ででっち上げた芳賀の作戦は見事に嵌ったようだった。
頭がずきずきする裕美だったが、始業時間に少しだけ遅れて出社することが出来た。予想に反して、専務の長谷部はもう既に会社に到着して部屋に入っていた。
いつものように、朝一番のお茶を淹れて、長谷部の部屋をノックした裕美だった。お茶だけではなく、裕美にはしなくてはならないと心に決めていたことがあった。それとなく、長谷部に、N社の沢村から何か言ってきていないかを訊いてみることだった。
「朝の、お茶です。・・・それから、あのう、・・・N社の沢村さまから、何か専務のほうで、・・・お聞きになっていることは・・・。」
沢村という言葉に長谷部が敏感に反応したのは、裕美にもすぐに判った。目を吊り上げた怖い表情になって、長谷部はきっぱりと自分の秘書に告げた。
「昨日のことは、一切他言してはならん。私にもそのことは一切触れんでくれ。いいな。」
どうしていきり立つような言い方を長谷部がしたのかは、理解出来ない裕美だったが、只ならぬものを感じ取ってはいた。
(やはり、ゆうべの夜、何かあったのだろうか。・・・)不安にかられる裕美だった。(「まさかあ、そんな事ある訳ないじゃないの。冗談よ。相手は、大会社の部長さんよ。世間体があるわ。」)そう言った美紀の言葉が頭の中で空回りをし始めた。
「済みませんでした。申し訳ありません。・・・失礼します。」ふと我に返った裕美は、そう言って長谷部の部屋を出ようとした。その裕美に長谷部が後ろから声を掛けた。
「N社の沢村部長のことだったら、全部、開発本部の芳賀課長に頼んであるから、何か言われたら、彼に指示を仰いで。宜しくねっ。」最後に吐き捨てるように強い口調で言われた裕美は黙って頭を下げて退出するしかなかった。
第十二章へ 先頭へ