妄想小説
恥辱秘書
第十一章 謀られた接待劇
二
芳賀が先に立って、扉を開くと、ゆったりとしたソファに男がのけぞるようにして座って、ブランデーを呷っていた。
「あ、沢村さま。もう先にいらっしてたんですか。遅れて申し訳ありません。ただ今、長谷部もこちらに駆けつけている途中ですので、もう暫くで参ると思います。さ、君達。沢村さまのお隣に付いて、お世話をしてあげて。あ、こちら、長谷部の秘書の内村裕美と、うちの庶務をしております深堀美紀といいます。本日は、内密のお話ということで、いつもの営業部は遠慮させて降りますので、急遽の代役で不慣れで失礼があるかもしれませんが、何卒御容赦いただけますように。さ、さ、ふたりとも沢村さまの両脇へ。」
何も知らない裕美と、シナリオを聞かされているが知らぬ素振りの美紀が、沢村の両側にかしこまって座る。
深いソファなので、膝丈のスーツでも裾がかなりずり上がってしまう。スカート丈を短くしている美紀は慣れているので、芳賀の反対側に向けて脚を組み、奥を覗かれないようにしているが、そういう場に慣れていない裕美は迂闊に膝頭を沢村に向けて、下着が見えそうになっているが気づいていない。
美紀は男は初めての面識だったが、沢村ではないことは知っていた。おそらく芳賀の息がかかった知り合いなのだろうが、すっかりN社の購買部長になりきっていた。よくよくの悪友らしかった。芳賀はすぐに、こちらへ向かっている長谷部に連絡を取るといって、出て行ってしまった。
場慣れしている美紀は、どう振舞えばいいか熟知していたが、芳賀からは何でも裕美のほうにさせるように指示されている。何をしたらいいのか判らないでいる裕美に、ブランデーのお代わりをお酌させたり、煙草の火を点けさせたり、てきぱき指示をして、裕美を動かして行く。
「裕美ちゃん、お酌も大事だけど、一緒にお酒も付き合ってあげないと失礼よ。ね、沢村さん。」そう言って、美紀もグラスを傾けている振りをする。しかし、実際は美紀は殆ど呑んでいない。裕美には見えない側に隠した空のアイスペールに少しずつこっそり注ぎこんで飲んだ振りをしているのだ。
何も知らない裕美は、沢村からも注がれる度に、二人で小さく乾杯しては、どんどん飲まされてしまっていた。
暫くして芳賀が戻ってきた。
「沢村さま、大変申し訳ない事態になってしまいました。長谷部と何とか連絡を取ったのですが、どうしても先方で抜けられない問題が起きてしまいまして、こちらには伺えそうにもないと言っているのです。とんでもない不始末を致しまして・・・。」
「あっ、そう。・・・いいよ、心配しなくて。今日はこれからの大事なお付き合いの顔見世みたいなもんだから。これからおいおい何度もお会いしなくちゃならないし。それに今日は、こんな奇麗なお嬢さんまで差し向けてもらって。僕としちゃ、オヤジと商売の不粋な話をするより、奇麗なお嬢さんと少しでも長く一緒に呑んでいるほうが、好きだからなあ、あははは。」
「そ、そうですか。申し訳ありません。おい、君達。ふたりとも、長谷部専務が来れない埋め合わせに、十分サービスして、沢村さまに気分良く飲んでもらってくれよ。」
芳賀がこれみよがしに、長谷部の秘書である裕美のほうに目配せで合図していうので、裕美も「ええ、判りました。」と応えざるを得なかった。
芝居だと判っている美紀だったが、そんな手筈になっているとはと、芳賀の悪どさに改めて驚かされていた。
「じゃあ、今夜はじゃんじゃん呑もう。そうだ、君達。女の子はこんなブランデーのストレートじゃきついだろう。女の子向けのあれ、持ってきてやってよ。」そう沢村役の男が芳賀に向かって言うと、「畏まりました。」と芳賀が再び出て行く。
暫くして持ってきたのは、大振りのグラスに入ったオレンジ色の飲み物だった。このような酒の席には慣れている美紀は、すぐにそれが迂闊に呑むと酔いがきついスクリュードライバーだろうと見抜いた。(芳賀のことだから、更に何か薬も入れているに違いない。)と美紀は素早く察した。
「じゃあ乾杯。」と沢村役の男、裕美、美紀がグラスを合わせる。一口飲んだ沢村は、裕美の膝に何気なく手を置く。びくっとした裕美だったが、払いのける勇気はない。反対側に居た美紀が、裕美に目を合わせて頷くので、黙って受け入れなければならないのだと裕美も悟るのだった。
裕美が沢村の手に気を取られている間に、グラスの中身を大半、下のアイスペールに捨てた美紀は、更に次の一歩に出た。
「さっ、裕ちゃん。残りも一気に飲み干して、お代わりでもう一回乾杯しましょうよ。ね、沢村部長。」美紀もしなを作る振りをして、沢村の腕に寄りかかる仕草をすると、裕美も呑まない訳には行かなくなってしまう。
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