妄想小説
恥辱秘書
第十一章 謀られた接待劇
四
裕美は正気に返って目を醒ました時に、自分が何処にいるのか判らなかった。目を開くと、見たことのない天井のシャンデリアがぐるぐる廻っているような気がした。
くらくらする頭を抑えて、起き上がろうとして、自分が何処かの部屋のベッドに寝かされていたことに気づいた。掛けられていた薄手の毛布を剥ぐと、スカートが大きく捲りあがってしまっている。
かろうじて着衣は身に着けていたが、何時の間に解いたのか、胸元のフリルのタイも解けていて、ブラウスの釦も殆ど外れている。ずり上がってしまっているスカートを直そうとして、下穿きをはいていないのに気づいて慌てて起き上がった。シーツはぐちゃぐちゃになっていて、毛布を全部剥いでみても、自分が穿いていた筈の下着はどこにも無かった。
部屋には誰も居らず、誰とここへ来たのかも全く憶えていなかった。
サイドボードに水差しがあり、備えられていた空のコップに水を汲んで、一息に飲み干すと、少し落ち着いてきた。ふと奥に目をやるとコーヒーテーブルのようなものの上に紙切れが載っている。取り上げてみると、汚い字がのたうつように書いてあった。
(用が出来たので、先に帰るよ。チェックアウトはしてあるから、そのまま黙って帰っていい。楽しい夜をありがと。)それだけだった。誰からの置手紙かはわからないが察しがつかないでもない。分厚い布地のカーテンの掛かった窓らしきところへ歩みよって、カーテンを引き上げてみる。真っ暗な外に赤いネオンが光っている。どこかのモーテルのラブホテルらしかった。部屋の隅に放り出されていた自分のバッグをひったくるように取ると、外の廊下に走りでた。エレベータは使わずに非常階段を走って駆け下りた。
一階でそっと扉を開けると、フロントらしき受付の小さな小窓があって、その向こうに誰かが椅子の上でうたた寝をしている。気づかれないように静かにホテルの入口の自動扉を抜けて外の暗闇に走りでた。
裕美は来たことのない見知らぬ場所だった。明かりのある、車どおりのあるほうへとにかく小走りに向かって、大きな通りに出たところでタクシーを待った。酔いは思いもしなかった事態へのショックで半分もう醒めていた。やっとのことで拾えたタクシーで、裕美は自分の独り住まいのアパートの住所を告げる。
(何ということだろうか)何が起こったのか、記憶のなさに茫然とするしかない裕美だった。
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