理科室の悪魔
第二部
三十
「え、えーっと・・・。」
「先生っ。それって、片手じゃ入りきらないってことですよね。そうやって両手でないと握りきれないっていう・・・。」
質問した生徒に言われて思わず持ち上げた両手を慌てて下に下ろす美津子だった。
「え、えーっと・・・。せ、成人した男性のぺ、ペニスの・・・、ぼ、勃起した時のサイズは、平均的には12cmから15cmぐらいだったと文献には記されていたと、お、思います・・・。」
「でも先生。それだったら、握る時は両手は必要ないですよね。両手で握ってもまだ先っぽがそれ以上に覗いているっていうこともあるんでしょうか?」
「え、そ、それは・・・。えーっと、個人差が結構あるので、一概には言えないと・・・、いえないと思います。」
「先生の経験では両手で握ってもまだ先が覗くほどの大きさがあったということでしょうか?」
「あ、いや。その・・・。あ、そうだ。あの・・・、この授業では教師は自分自身の経験については語らなくていい。あ、いや。語らないことになっているというルールになっていたと聞いています。皆さんもそのルールについては前の福田先生からもお聞きになっていると思います。ここでは一般的な日本人の成人男性の平均値についてだけお知らせしておきます。あーっと。ただ、さっき申し上げた数値は私の曖昧な記憶によるものなので次の時間までに正確なところを調べておきますので、次回の授業で触れさせて頂きたいと思います。」
教室中でざわざわと低い声だが不満な様子が感じ取れる囁き声が響いているのを美津子も無視できなかった。美津子は場の空気を変えようと話題を別のことに振ることにした。
「えーっと。何か別のことで質問のある方、いませんか?」
「はーいっ。」
美津子が質問を促す発言をするや否や手を挙げた別の女子生徒が居た。
「は、はい。どうぞ・・・。」
「あの、先生。ホーケーって何ですか?」
「え? ほ、包茎・・・?」
美津子自身、訊かれてすぐに何のことを言っているのか理解するのに時間は掛からなかった。しかし包茎に関して自分が知っていることは限られていた。そしてどこまで話していいかも心の準備が出来てはいなかったのだ。
「え、えーっと・・・。ほ、包茎っていうのはですね。だ、男性が・・・。」
美津子は自分が知っている僅かばかりの知識を出来るだけ平淡に説明するように努力してみた。しかし女生徒達の関心は美津子がやっと答えられたものとはかけ離れていたのだった。
「先生。包茎の男子っていうのは性交渉するには値しない男っていうことですか?」
「あ、いえっ。包茎だからって性交能力が無い訳ではありません。ただ・・・。」
「先生。包茎の男子は皮を剥いてあげたほうがいいんですか。皮を剥くのは痛いんですか?」
「あ、あの・・・。わ、私は女性だから分からないんですけど、無理やり皮を剥くのは・・・。」
「先生。包茎の男子が包茎でなくなるのは何時が正常なんですか。何時まで待てばいいのですか?」
「い、何時かは、こ、個人差がとても大きくあると思います。ま、待つというのは・・・。」
「先生。包茎の男子の皮を剥いたことがありますか?」
「い、いえっ。わ、私は・・・。」
美津子はいつしか自分自身の体験については語らなくてもいいのだというルールを忘れてしどろもどろになりながら答え続けて授業の就業ベルが鳴るのを天の助けのように聞いたのだった。
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