理科室の悪魔
第二部
二十九
教室中はしいんと静まり返っている。緊張しているのは自分だけではなく生徒も同じなのだと美津子は感じた。
「えーっと、何から始めればいいかしら。福田先生からは特に何も引き継いでいませんし、校長先生からも特別決まったカリキュラムがある訳ではないと聞いています。ですので、皆さんが普段疑問に思うことや知りたいと思うことを出来る範囲で教えてゆければと思います。」
しかし教室中はしーんと静まり返ったままだった。
「そうね。そうは言ってもなかなか話は切り出し難いわよね。それじゃ、例えば避妊のことなんかどうかしら。皆さんは・・・。」
美津子が性教育では無難なテーマの一つである避妊のことから始めようかと話を仕掛けたところで女生徒のひとりが手を挙げた。
「先生―っ。質問があります。」
「あらっ。何かしら? ど、どうぞ・・・。」
生徒の一人が手を挙げてくれたことで、少し救われたような気がしたものの、嫌な予感も心の奥底で感じた美津子だった。
「先生っ。あの・・・。男性のアソコって、どれくらい大きくなるものなんですか?」
いきなりの単刀直入な質問だった。
「だ、男性の・・・、男性のアソコって、ペニスのことよね?」
美津子はちょっと狼狽えながらも聞き返してしまう。しかし性教育の授業で女生徒がする質問でそれ以外の質問はあり得ないと声に出して言ってしまってから思い返す美津子だった。クラスのあちこちでクスリと押し殺した薄笑いが起きるのを感じる。
「えーっと、あの・・・。そ、それは・・・。」
性教育の授業でなかったら、(何てことを質問するのですっ)と叱りとばしたいところだが授業が授業なだけにはぐらかすことも出来ない。美津子は校長の(真摯に向き合って真剣に答えてあげれば・・・)という言葉が頭に浮かんでくると逃げることも出来なかった。
「私、男性のアソコが勃起してるところって見たことがないんです。だからどんな風になっちゃうのかって、とても不安なんです。あ、もしかして・・・。先生も勃起した男性のアソコ、見たことがないってこと・・・、ないですよね?」
クラスのあちこちからさっきよりもよりはっきりと押し殺した笑い声がはっきりと洩れてきた。
「み、見たことがないってことは・・・、あ、ありません。えーっと、ただ・・・、どうやって説明したら分かりやすいかなって・・・。」
「先生っ。だったら手の格好で示してみてください。握った時、どんな感じになるか・・・とか。」
「えっ? 握った時・・・。」
美津子は思わず手のひらを持ち上げて、男性のそれを握る時のような仕草をしてしまう。
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