青チア旗振り

妄想小説


チア部顧問に課せられる試練



 五

 圭子に一葉の写真だけ渡した井上は足早にロッカールームを立ち去っていた。一人残された圭子は茫然と立ち竦んでいたのだが、はっと我に返ると急いでグランドの応援席の方へ戻るのだった。応援席では何事も無かったかのように自分の教え子のチア部の女子たちが母校の野球部の応援に声を張り上げていた。応援席を見上げると最上段の位置にチア部キャプテンの江莉子が応援団旗を振り翳して応援している姿が見てとれた。
 (江莉子さん。どうして・・・?)
 あんな写真を撮られた経緯を何とか聞き出して打開策を考えなければならないと自分に言い聞かせる圭子だった。

 試合は江莉子を始めとする女子チア部の熱心な応援の甲斐もあってかかろうじてライバル校の東雲野球部を下して県大会の決勝戦へ駒を進めた西湘高だったが、圭子の気持ちは沈んでいた。
 試合後、野球部員達へのエールを送るお決まりの応援演技を終えた後、江莉子も最上段から団旗を携えて他のチア部員のほうへ駆け下りてきて合流する。
 「苅部さん。ちょっといいかしら?」
 そう江莉子に声を掛けた圭子だったが、何と切り出していいのか圭子にも思いついていなかった。
 「あの・・・。えーっと。」
 「何ですか、早乙女先生?」
 屈託なく首を傾げる江莉子の姿に、さっき衝撃を受けた写真のことを言い出せなくなる圭子だった。
 「あーっと。あ、いいの。また今度で。今日はお疲れさまでした。」
 そうとしか言い切れなかった圭子に江莉子は特に不審げな素振りも見せないのだった。
 「それじゃ、先生。今日はこれで。」
 「あ、はい。また次の試合でも宜しくね。」
 圭子が引き留めたことで他のチア部員たちは先にロッカー室へ着替えて向かっていたようだった。江莉子もその後を追ってロッカー室に引き上げていく。その後ろ姿を見送りながら圭子は一人考えを巡らす。
 (あんな写真を撮られるなんて、何か事情があったんだわ。今はそっとしておいて騒ぎ立てないようにしよう。私が何としても真相を突き止めてあんな写真は取り返さなくっちゃ・・・。)
 そう心に決めた圭子だったのだ。

keiko

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