妄想小説
チア部顧問に課せられる試練
三
急に体調不良になった大沢恵美に代わってキャプテンの江莉子を最後方の最上段でフラッグトワリングをやって貰うことにして、何時もは江莉子が務めている最前列のセンター役を副部長の香取マリ子にやって貰うことをチア部全員に説明してそれぞれの配置に着いて貰って応援席脇のいつも自分が座る場所に戻った圭子に声を掛けてくる者が居た。
「早乙女先生・・・。」
突然自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには見覚えのある男子生徒が居た。
「あら、須藤睦男君。珍しいわね。野球部の応援に来るなんて。」
須藤は運動部にも文化部にも所属していない帰宅部系の生徒だったからだ。素行はあまりよろしくないという噂だけは圭子の頭の隅に残っていた。
「ふヒヒヒっ・・・。ちょっと先生に伝言がありやして。」
圭子は須藤のヤクザの子分みたいな物の言いようにちょっと気にはなったが、差別的な言い方にならないように気をつけながら須藤の先を促すのだった。
「え、何なの? もうすぐ試合が始まるのだけど・・・。」
「それが、早乙女先生にどうしても話しておきたいことがあるってぇ奴がいまして。男子ロッカー室で待っているって言うんで、話を聞きに行ってくれませんか?」
「え? もうすぐ試合が始まるのよ。」
「ええ。そうですけど・・・。先生がご自身で応援をされる訳じゃないんですよねぇ。」
「そ、それはそうだけど・・・。わかったわ。男子ロッカールームね?」
男子ロッカールームは既に試合開始直前で、試合に参加する選手や控えの選手含めて誰も居ない筈だった。
チア部顧問の早乙女圭子が応援団席脇の通路から観覧席階下にあるロッカー室の方へ向かうのを見届けてから、須藤は井上に命じられた通りに最上段で旗振りをしているチア部キャプテンの江莉子のほうへそっと近づいていって江莉子のすぐ前の席にさり気なく腰を下ろす。既に江莉子他の応援のチア部全員は試合に出場する野球部員たちが名前をコールされるのを腰に手を当てて正立の姿勢で待ち受け、名前が読み上げられる度に黄色い声援を送っていた。応援団旗を任された江莉子は両手で団旗を頭の上に掲げて持ちあげ他のチア部の女子達の声援に合わせて団旗を大きく左右に振る。そのことで江莉子は両手が塞がってしまうので、もし急に風が吹き上げてきてもスコートを抑えることが出来ないことにまだ気づいていなかった。そして自分の直前の席で須藤がこっそりと井上から渡されたデジカメを後方の江莉子に向けて構えていることにも全く気づいていないのだった。
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