冠木門
五
ふと目が覚めると、京子は自分が籐の椅子の背もたれに寄り掛かって眠ってしまっていたのに気付いた。目の前には、飲み残しのティーカップがそのままに置かれている。
雨はいつの間にか止んでしまったようだ。軒から雫がぽたぽた落ちているのが聞こえてくる。あたりはしんとして静まりかえっている。
京子は自分の腕を眺めてみる。服には何の乱れも無かった。
(夢を見てしまったんだわ。)
どこかで柱時計が三時を告げている。
後ろで戸が開く音がして、真行時柾道が部屋に入ってきた。
「お目覚めですか。だいぶ疲れていたみたいで、ぐっすり眠っていましたよ。」
京子は思わず顔を赤らめた。
「恥ずかしいわ。眠ってしまうなんて。」
(何か寝言を言いませんでしたか。)とは聞けなかった。真行時の顔をまともに見るのは何かはばかられるような気が京子にはした。
「もう、遅くなってしまったので、失礼しますわ。・・・あの、又お寄りしても構わないでしょうか。お家をもっと見せて頂きたいんです。このお家、とっても気に入ってしまったんですもの。」
「どうぞ、いつでもいらっしゃい。歓迎しますよ。」
京子は真行寺柾道に送られて屋敷を出た。
一人になってから、京子は自分の中で何かが疼くのを感じていた。何故かまたあの家を訪れなければいられないような気がしてくるのだった。
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