看護12

妄想小説

恥辱秘書






第四章 診療所への罠


 五

 暫く火災報知器は鳴っていたが直に鳴り止んだ。誤動作したか誰かが誤って押してしまったのだろう。しばらく外の廊下でがやがや声が聞こえていたが、直に静かになった。
 あたりが静かになると、美紀もすこし落ち着いてきて冷静さを取り戻してきた。
 (服を着なくては)と思ったが、散々レントゲン技師に弄ばれた下穿きを身につけるのが躊躇われたのだ。しかし、いつまでも裸で居る訳にはゆかなかった。パンティに足を突っ込み、引き上げる。ぬめっとした感触がしたような気がしたが、気のせいだと思うことにした。
 ブラジャーも散々弄ばれていたが、着けないわけにはゆかない。下着をつけてしまうと後は素早く服を身に纏った。
 扉を開けて外へ出ようとした時、誰かが入ってくる物音を聞きつけて、慌てて個室に舞い戻った。再び錠をかけてじっとする。

 入ってきたのは独りではなかった。それも、修理などをやる業者のようだった。
 「早く点検を終わらせて、作業をおしまいにしてしまおう。」
 誰かがそう言うのが聞こえた。あちこちの扉がバタンバタン開いたり閉じたりしていた。水の流れる音も聞こえる。
 「あ、誰か入ってるぜ。ちぇ。 ・ ・ ・ あの、点検なんです。早く出てもらえませんかあ。」
 明らかに美紀の個室に向かって言っているのが分かる。
 暫く静かにしているが、一向に立ち去る気配はなく、美紀の個室が空くのを待っている様子だ。どうすることも出来なくなってしまった。

 どんどん、どんどん。不躾に美紀の個室のドアが叩かれる。
 「済みません。早くしてくれませんか。点検が終えられないんですよ。お願いしますよ。」
 もはや逃れる手は無かった。

 美紀は一気ドアを開け、トイレの入り口めがけて脱兎のごとく走りでた。作業員たちを肩で突き飛ばしながら顔を隠すようにして走り去ろうとする。
 「あれっ、女じゃないの。」
 すぐ後ろで誰かの声が聞こえたが、無視して駆け抜ける。

 廊下を走ってゆく美紀は看護婦の晴江とすれ違う。先ほど、美紀が控え室から出てくるタイミングを見計らって控え室に飛び込み、中から鍵を掛けたのも晴江だった。すべては芳賀から指示された通りに動いただけだった。火災報知器を鳴らしたのも、トイレの作業員に点検を早くやるように指示したのも全て芳賀の仕業だったのだ。

 美紀は晴江のほうを見もしないで足早に立ち去っていった。晴江は美紀に憐れみを感じないでもなかったが、それよりも芳賀の悪巧みへの知恵の回り具合の恐ろしさばかりが身に滲みていた。あの男に逆らうとどんな目に遭わされるかわかったものではないと、晴江はつくづく思う。
 そんな晴江も、あれだけの芝居に付合わされながら、美紀が自分と同じ苦しめに合わされているのだとは気づきもしなかった。そして、今度は晴江のほうが辱めを受ける番なのだとも。

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