露天放置

旅愁





 「どうだい、恥ずかしいか。」
 真理子は唇を噛んで応えない。
 「俺は女の裸がとっても好きでな。それも縛られた女っていうのが一番そそるもんだ。どうだ、裸で縛られた気分は。」
 「誰かが来るんじゃないかと気がきでなりません。早く解いて下さい。お願いです。」
 「いやいや、まだたっぷり楽しんでからだ。ふふふ。」
 いやらしそうな笑いを漏らすと、影岡は真理子の乳房に手を伸ばしてきた。
 豊かな胸のふくらみがわしづかみにされた。いやらしい男の手つきでゆっくり揉みしだいていく。
 「ああっ、うっ。」
 たまらずに真理子は声を挙げた。
 男は興奮してさらに近づいてきた。真理子の素足に男の股間の男性自身が触れた。それは既に固く、重くなっている。
 さらに男は近づいてきた。真理子の目の前に男の顔がある。真理子は顔をのけぞらせて逃れようとしたが、両方の乳房をしっかり掴まれていて逃げられない。
 真理子の下腹部に男の怒張したものが押しあてられている。
 「さてと、おまえ。ここで少しの間、待ってろ。」
 そう言うと、影岡は湯の中から突然立ち上がった。
 「そ、そんな。. . . 嫌です。わたしも行きます。」
 裸でこんなところに残されたらどんなことになるか分かったものではない。不安にかられて、真理子は慌てて言った。
 「駄目だ。俺がいいと言うまでここに居るんだ。」
 そう言うと、真理子を縛っている角帯の端を野天風呂の岩膚のすぐ際まで生えている松の小枝にしっかりと結び付けてしまった。真理子は、まだ湯の中に身体と隠しておくことは出来たが、裸のまま前を被うことも出来ずに繋がれてしまった格好になった。
 「すぐ戻ってくるからな。」
 真理子の喉元を撫であげるようにしてから、影岡は立ち上がって湯から上がり、脱衣所のほうへ出て行ってしまった。
 「い、いやっ・・・。置いていかないで・・・。」
 一人残された真理子は不安でならなかった。もし誰か入ってきたらどうしよう。こんな格好を何と説明すればいいのだろう。たとえ旅館の女中や仲居であっても、こんな辱めを受けている格好を見られるのは耐えられない。
 影岡と一緒にいるのは嫌なことだったが、いまは早く戻ってきて欲しかった。早くこの戒めを解いて欲しかった。タオルひとつでさえ、身を隠すものを持っていない。また、持っていたとしても、自分の恥ずかしい部分を隠すことすら出来ないのである。
 真理子は誰かに見られるのではないかとひやひやしながら、身を縮こまらせて、じっとただひたすら待った。
 真理子の淡い期待が裏切られたのは、それからすぐ後になってからだった。

全裸放置

 がやがやと話す声が聞こえたかと思うと、何と男が三人、裸になって入ってきたのだった。真理子は瞬時に、隠れなければと身を動かそうとしたが、真理子の両手の自由を奪っている帯は松の枝にしっかりとゆわえ付けられていて、逃げることも出来なかった。ただ、じっとして気付かれないようにするのが精一杯だった。
 湯気がある為、見通しははっきりしない。その為かまだ気付いていないようであった。が、男たちは話しながら次第に近づいてくる。
 そのうち、男の一人が気付いた。
 「おい、女が入っているぞ。」
 小声で仲間にそっと耳打ちしたらしいが、真理子にも聞き取れるほど近くまで来ていたのだった。
 「えっ、ほんとかよ・・・。おおっ。」
 途端に男たちの話し声がひそひそ話になり、真理子には聞き取れなくなった。真理子は両手で自分の剥き出しの乳房を被いたかった。しかし両手は縛られていて出来ない。せめて縛られていることを悟られないように毅然としているしかなかった。
 男たちは時々真理子のほうを盗み見るようにしながら、何やらこそこそ話しあっていたが、一向に去る気配はなかった。
 そのうち、男のひとりがゆっくり近づいてきた。
 「あの・・・、おひとりなんですか。」
 真理子は恥ずかしさに蒼くなった。男は顔がはっきり分かるくらいに近づいていた。当然、真理子の剥き出しの乳房も丸見えである。
 男はまだ若いようであった。おそらく学生なのだろう。仲間たちを代表して様子を窺いに来たらしい。
 「こ、こっちへ来ないでください・・・。わたし、一人でゆっくりしたいの。. 」
 真理子はつんと突き放すように言い放った。
 男はそれで退散するかに見えた。が、仲間たちの手前を考えて思い直したようだった。しつこく迫ってきた。
 「別に怪しいものじゃありません。僕らもゆっくりしようと思ってやってきたんです。いい湯ですね。」
 そう言いながらもしきりに真理子の身体、それも下半身のほうを覗きこもうとしている。男は真理子が恥ずかしがる風もなく、あらわな乳房を隠そうともしないのをそばに居てもいいという承諾と勝手に解釈したようである。男のほうは自分の前は手拭で隠している。しかし、傍目にも勃起しているのは明瞭である。
 真理子は今にも男が、無防備な自分に襲いかかってくるような気がした。
 「早く、あっちへ行ってくださらないと、主人を呼びますわ。」
 真理子がとっさに思いつきでそう言うと、さすがに男はひるんだようだった。すごすごと仲間のほうへ帰っていった。多分、やくざのヒモがいるんだと思い込んだのだろう。
 少し、離れたところで真理子の様子を窺いながら仲間同士で話している。真理子は自分の裸のことを話題にされているのだと思うと情けなかった。

 影岡が戻ってきたのは、それから随分経ってからだった。真理子ももう随分のぼせあがってしまっていて早く湯から出たかった。しかし、三人の男がちが相変わらず少し離れたところで様子を窺っているためそれも出来なかった。何度、立ち上がって湯から出ようとおもったか知れなかった。が、そのまま立ち上がれば、恥部が丸見えだし、後を向いて立てば縛られていることを悟られてしまうのだった。
 影岡が自分のほうへやってくるのを見て、男達は潮時とみて、名残惜しそうにしながらも漸く出ていった。
 「お願い、早く解いて。これ以上この中にいると倒れてしまうわ。」
 真理子は影岡にはもはや裸を見られても仕方ないと観念して、乳房も股間も丸出しになるのも構わず立ち上がった。
 「ふふふ、そうか。じゃあ解いてやろう。だが、俺はまだ来たばかりで温まっていないんでな。ここに少ししゃがんでからいくから、お前ひとり洗い場のほうへ行って待ってろ。」
 そう言って、松の枝に結んであった帯を解いたが、両手の戒めは解こうとしない。
 「手を自由にしてください。こんな格好ではあっちへは行けません。」
 しかし、影岡は意地悪そうに笑うだけである。
 「駄目だ。おまえにはその縛られた格好が一番似合っている。」
 仕方無く、真理子は前を隠すことも出来ないまま立ち上がって、一人で洗い場に向かった。真理子は湯船の縁の洗い場の隅に立て膝をして、影岡が上がってくるのをじっと待った。それはこれから処刑される罪人のようであった。真理子はすべてを観念した。




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