旅愁
真理子にとって上司の影岡に妹の秘密を握られてしまったのは最悪の事態だといえた。影岡にとっては、またとないチャンスといえる。そして容易に真理子が推察したように、影岡は、有無をいわさぬ調子でこの旅行に随行するように命じたのだった。
表向きは商用の出張ということにはなっている。しかし、影岡の意図は明白だった。そして、真理子には今はそれに従うしかなかった。影岡の命令を聞くふりをしながら、チャンスを待つしかなかった。
旅館に入ると、すぐに風呂にはいるから着いてこいと命じられた。この旅行中はすべてが、真理子には威圧的な命令口調が使われた。それは、おまえには俺に服従するしかない筈だということを繰り返しくりかえし分からせる為であるかのようであった。
真理子は旅行に着てきたワンピースのまま、すでに浴衣に着替えている影岡のあとに従った。風呂は一階の離れのほうにあって、母屋からはかなり離れており、長い渡り廊下が続いている。他の客は殆どいないようであった。山里深い温泉宿だけに、客はそうはいないのかも知れないと真理子は思った。
風呂場についてみると、真理子が密かに怖れていたとおり、湯船がひとつだけの混浴である。ひとつだけといっても広さはかなりあり、岩膚が剥き出しになった野天風呂になっており、向こうの端はどこだか湯気で見えないほどの広さがある。
真理子は、影岡が裸になって一人で入ってしまうまで待っている気でいた。しかし、影岡は浴衣のまま、真理子が脱衣するのを腕を組んで待っている。
「早く脱がんか。」
真理子は今更、逃れることは出来ないのを悟った。影岡に背を向けてワンピースの胸のボタンを外す。
スカートを脱いで、下着姿になるのは流石に恥ずかしかった。しかし、その下着に手をかけてそれを男の前で外さねばならないのはもっと恥ずかしい思いをしなくてはならない。そして、今の真理子にはそれを許してもらう術もないのだった。
「なかなか艶っぽい下着を着けているじゃないか。」
影岡が背後から、わざと苛めるように声をかけてきた。
それを半ば無視するように応えず、真理子は意を決して両手を背中に回し、ブラジャのホックを外しにかかった。真理子の豊かな乳房が小さく揺れた。
下穿きは、影岡に見られないように素早く抜き取って丸めると、ワンピースの下にもぐりこませ、旅館の手拭でへそから下を隠し片方の手で胸を隠した。
影岡の視線は、しかし真理子のふっくらした白い尻に注がれている筈である。
「幸い、他の客は今日は居ないようだ。すこし面白い趣向をしてみようじゃないか。」
突然影岡が声を殺したようにして真理子の耳元に囁いた。
「な、何をするのです・・・。」
振り向いた真理子は影岡の企みを予感して蒼白になった。影岡の手には、今まさに腰から外したばかりの浴衣の角帯が握られている。
「い、いやっ・・・。やめてください。」
真理子は近くに居るかもしれない仲居をはばかって小さな声で抗議した。しかし、影岡は真理子が抵抗出来ない程の力で真理子の腕を背中にもってくると、角帯を括りつけてきた。真理子がもがく間を与えずに、手拭を持ったもう片方の手も手繰り寄せた。
驚くほどの早業で、真理子は影岡に両手を背中で縛り上げられた。真理子の手拭がはらりと下に落ちる。
「誰も他にいないんだから、どうってこたあないよ。大きな声をだすと余計に人が来て恥ずかしい格好を見られちまうんだぜ。」
恥ずかしさに顔をうつむかせている真理子の顎に手を掛けて無理やり顔を挙げさせる。
「おとなしく言うことを聞いて、一緒に風呂にはいれば、すぐに解いてやるから安心しろ。いいか、わかったな。うん、返事は・・・。」
「わ、わかりました。」
真理子は唇を噛みしめ、この上司の辱めに耐えざるを得なかった。
真理子は影岡に押されるようにして、竹を編んで作った囲いのついた脱衣所を抜け、表の野天風呂に出た。恥ずかしい股間は何も隠していない丸見えの状態である。もし、誰かが先に入っていたらと思うと真理子は気が遠くなりそうだった。
影岡のとなりに脚を組んで腰を屈めて湯の中にしゃがんでしまうと少し落ち着いた。この格好ならば恥部は隠すことが出来るし、裸で縛られているようにも見えない筈だと真理子は思った。
影岡は最初、真理子の隣にしゃがんでゆっくり湯につかっていたが、「どれっ。」と声を挙げて真理子の真ん中に座り直した。
脚で股間は隠してはいるものの、乳房は剥き出しである。湯がゆらめいてはっきり見えないにしろ、素っ裸のままで男の前に晒されているのである。
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