騙された新人女優とマネージャー
第二部
二十五
(本当にここなのかしら・・・。)
事務所から貰った住所をタクシーの運転手に渡して、運転手がそれを頼りにナビを使って連れてきたのは、高速を降りてから結構山の上の方まで登り坂をくねくねと曲がりながらやっとたどり着いた山の中腹辺りだった。別荘地だとは聞いていたが、辺りに人家は殆どなさそうだった。
運転手が茉莉を降ろした場所には確かに大きな別荘らしき建物があった。
(別荘っていうよりも、お屋敷だわ・・・。)
ずっと横に続く石の塀の向こう側にはその屋敷の二階か三階らしき部分が見え隠れしている。石の塀には中央らしき辺りに大きな冠木門が付いていて、そこにインターホンらしきものが付いているのが見えた。
(とにかく行ってみよう。)
茉莉は意を決して冠木門に近づいていく。表札は出ていなかったが、他にそれらしき家も見当たらない。インターホンを押して訊ねてみるしかないと茉莉は思った。
ピン・ポーン。
インターホンのスピーカー越しに向う側にチャイムが響いているのが分かる。暫くしてカチャッという音がしたので相手が出たらしいことが分った。
「あ、あの・・・。新垣という者ですが・・・。こちらは深沢監督のお宅で宜しいでしょうか。」
「新垣・・・茉莉君だね。ああ、待っておったよ。儂だ。深沢だよ。今、冠木門の脇の通用口のロックを外すからそこから入って来たまえ。母屋の方の玄関口も施錠を解いておくから勝手にどんどん入って来なさい。」
聞き覚えのある声がインターホンの向こう側から響いてきていた。
「わかりました。失礼いたします。」
そう言うと茉莉はインターホンのすぐ隣の大きな冠木門とは反対側の石壁の中にある通用口らしい扉のドアノブを回してみると、するりと廻って扉が開いた。通用門の中は母屋の玄関口らしきところまで石畳が続いている。冠木門の方は車での来訪者用らしく、石畳とほぼ並行する形で玄関口の車寄せまで砂利道が続いていた。
てっきりインターホンには使用人が出て、案内してくれるのかと思った茉莉だったが深沢監督本人が出て来て、勝手に入って来るようにと言われたのには面喰った。深沢が言ったとおり、母屋らしき建物の玄関の大きな扉は鍵は掛かっていなくて、茉莉が手前に引くとすっと音もなく扉は開いた。
玄関口を入ったところは広いホールのような場所だった。その真正面に奥へ続く廊下が繋がっていてそこに和服姿の深沢監督が立って手招きをしていた。
「よく来たね、新垣君。こっちだ。ここの応接室で話をしようじゃないか。」
「深沢監督っ。失礼致します。」
軽くお辞儀をしてから茉莉は建物奥の深沢の方へ歩み寄っていく。
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